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第1章「始まり」
第48話「リベンジ」
しおりを挟む「「きゃああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」」
恐れおののき、その場にへたり込む斎藤さんと雫。
本能的になのか、斎藤さんは雫に覆いかぶされように身を丸めていて、それが見えた時――少しうれしく思ったがそんなことを感じている場合ではなかった。
――――ドスドスドスドス。
地面を響かせるやつの足音が徐々に近づいてくる。
やはり、遅い。
それとも、俺の体が軽くなったのか。
肩の荷が下りたというか、機能しなかったスキルの使い方が分かったからなのか、その原因は分からなかったがとにかく、体は軽く、戦う意思に満ち溢れていたのは確かだった。
『未来予知』そして『神速』、さらに『神経伝達速度上昇・強』を発動し、逡巡の隙を逃さず音を斬るかのような速さで走った。
奴がどこに行くのか、何処で止まるのか、それが見える俺は思うがまま体を動かして割り込んだ。
回りの音がかき消され、衝撃波が周囲に風を巻き起こす。
ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!
破壊音と共に、一直線に突っ込む奴を追い越して拳を構えた。
生憎と、クリスタルドラゴンの足がかなり遅くて助かった。まぁC級でも逃げれる程度だからな。今後、これよりも早い敵が出た時にはしっかりと考える必要があるようだ。
とはいえ、今は今。
割り込んだとはいえ、その勢いは壮絶だった。
もちろん、奴に止まるなんて意思はない。
遅くとろい速さを徐々にスピードに乗せて、やがて止まり切れなくなり、クリスタルドラゴンはそのまま頭を突き立てながら突っ込んでくる。
逃げるなんて選択肢はない。
つまり、受けるほかない。
飽和するステータス値、さっきよりも若干痛い程度の頭突きが俺の折り曲げてブロックの形をした腕にぶつかった。
やはり、ジンよりは攻撃が重い。
体重あっての事なのか、やはり背中と腰に来る強さだった。
ちょっと痛いのもやや辛いが、俺は負けじと踏ん張った。
「んぐっ!!!」
「ギィィィィィィィィ!!!!!!!」
刃と刃が擦れるような音が響き渡る。
音に音、破壊に破壊。
我慢勝負が始まる。
優勢なのはもちろん、クリスタルドラゴン。
体の重さと相まって攻撃力と合わせた突進攻撃はすさまじく、最初から足が持って行かれそうになり、すでに追い込まれていた状態の俺は歯を食いしばって堪える。
にしても、やはり、そう簡単ではなかった。
S級探索者が10人近くのパーティを組んでようやく倒せる相手を今、たった一人で相手しているのだから。
重み、強さ、そしてその硬さ。
すべて知っていたとしても打破できる決定打は未だない。
それに、後ろには守らなくてはいけない人がいて、二人は倒せたとしても追い詰められていることには変わりなかった。
——だが、そこまで危機を覚えてもなお、今の俺には負けるなどという言葉は存在しなかった。
ここで負けたら意味がない。
すべてに意味がない。
そして、何より。
あの日にがした相手、恨みつらみが重なった2人が使った最終兵器。
これを倒せなくて、これからはないのだ。
俺が遂げたい、本当の夢。
最強の探索者になることに憧れて勉強してきた日々が、すべて水の泡になる。
そんなことはあってはいけないことだった。
それを考え、想像すれば――力は簡単に湧いてくる。
【神様の悪戯により、『表皮装甲』を獲得しました】
押されていた皮膚がいきなり金属のように固くなった。
重く、圧し掛かる体重を滑らずに受け止めて、なぜか一瞬で軽くなった気がしていた。
【神様の悪戯により、『痛覚耐性』を獲得しました】
剥がれていたはずの腕の皮膚。それがジンジンと痛んで、今にも押され返されてしまいそうなところで、それは発動する。
一気に体が軽くなり、痛みがほぼすべてなくなった。
【神様の悪戯により、信託を受けました。ステータスを7%に開放します】
そのアナウンスが聞こえると共に、押され気味だった脚がぴったりと止まる。
そして、均衡を保ったと思いきや、力を込めて一歩前に出すと簡単に、前に出た。
「ギギギギギギギ!!!!!!」
もちろん、奴もやられてばっかりではない。
押され気味なことに気づいたクリスタルドラゴンは力を緩めて後方に跳躍し、体制を立てなおそうと測り始めたが——そんなのはもう、未来予知で予測済みだった。
飛び退ける奴の体に飛び乗り、そしてそのまま渾身の拳を下に叩きつける。
——ドガン!!!!!!!
皮膚表面が割れる音がして、あの時のブルードラゴンの時ように奴は地面にめり込んだ。
ヒビが入り、地面が割れ、地盤が揺れる。
クレーターのような小さな穴の中心に体を丸めさせて、立ち上がろうとするも――今度の今度こそ、二度目こそはダメージが通っていた。
うまく立てない。
足を滑らせて、何度も耳を劈くような鳴き声を上げる。
もちろん、そこを許さない。
波状攻撃を仕掛ける。
クリスタルを粉砕するため何度も殴りつけ、神速で加速したスピードも確かに乗せて破壊していく。
————ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!
背面がまるで削り出し器のような音を上げ、どんどんとそのアイデンティティをなくしていく。
ただ、それでやられるほどクリスタルドラゴンはやわではなかった。
勝てる。そう思ってしまった。
またもしてしまった油断。
奴はその隙を当然のごとくついてきたのだ。
—————ギュゥイインンンンんンンンンンン!!!!!!
今度は、背中に履いていたクリスタルを一気に回転させて、そのまま体を一瞬で捻らせる。
火事場の馬鹿力なのか、到底遅い敏捷力だけでは出せない力だった。
しかし、それで終わらない。
まるでライフル弾の様に回転したやつは今度はあろうことか、そのクリスタルを円状に射出したのである。
過度な硬度を持ち、そこら辺の金属なら貫通するやつを――俺に、そして俺以外にも向けてはなってきた。最後の攻撃。満身創痍の攻撃の行方は確かに理にかなっていた。
俺は防げる。
いつもよりも上がったステータスのおかげで何とかしのげる。
だが、後ろは違う。
未来予知では予測できなかった未来。
すぐに凌駕されていた。
遅い。やはり、遅かった。
俺の脇をすり抜ける刃。
まさに、そのすんでの一瞬だった。
颯爽と現れたその冷気纏わす人物に胸から湧き出る感情。
——そこに立っていたのは紛れもなく、彼女だった。
「————っふぅ!!!」
—————ズザンッ!!!!
「つ、ツカサちゃん‼‼」「黒崎さん!!!!」
汗を流し、髪を苛烈にはためかせる――黒崎ツカサだった。
二人を抱えて、ギリギリのところで避けたのか、彼女たちの背後の壁には大きなクリスタルが突き刺さっているのが見える。
にしても、ギリギリ。
危うかった。
「—————っ國田君!!!!」
助け出し、走り出した俺の名前を呼ぶのが聞こえる。
別に意味なんてない――ただ、彼女の声にこもった言葉が俺には確かに伝わっていた。
「——っもちろんですとも!!」
今更負ける気などない。
ここまで来て、ここまでのおぜん立てをされて、俺の体は本来以上の力を発揮する。
神様が生んだ力が、発動しまさに噴射される火炎の如く地を滑らせて目の前のドラゴンの正面へ。
筋力が一気に上がり、拳が硬くなる。
振りかぶり、そして——脳天へ。
———————ドガァァンンンンンンンンンン!!!!!!!!
果てしない轟音と共に、俺の拳は奴の脳天に炸裂した。
揺らめく体。
脳震盪を起こしたのか、そのままへ垂れ込み、動かなくなるクリスタルドラゴン。
そうして、一ページが刻まれる。
最弱だったはずの探索者が——現状、最強硬度を持つ魔物に勝った瞬間だったのである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇國田元春
・スキル:神様の悪戯(F)
・ステータス(7%時)
攻撃力:6999/1000
防御力:6999/1000
魔法力:0/1000
魔法抵抗力:6999/1000
敏捷力:6999/1000
精神力:6999/1000
☆クリスタルドラゴン
・ステータス
攻撃力:4500
防御力:5500
魔法力:100
魔法抵抗力:7000
敏捷力:560
精神力:1000
【スキルリスト】
『神託予見』『知覚向上』『魔物特性《モンスターブック》』『高速移動lv.1』『自信向上』『極寒性気色悪』『信仰心』
『周辺探知』『跳躍』
『剛翼』
『脚力増加・強』『神経伝達速度上昇・強』
『腕力増加・強』
『未来予知』
『神速』
『表皮装甲』『痛覚耐性』
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