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第2章「裏世界」
第52話「入らないか?」
しおりを挟むあの事件からかれこれ1か月が経った。
黒崎さんの家——いや、そう言うのは少し違うか。
すでに俺と雫の家にもなっているしな。
まぁ、とにかくそんなこんなで黒崎さんと俺たちの同棲生活が始まってかなりの時間が経った。
もちろん、最初こそ心臓がバクバクで緊張していたが住めば都。
人間、不思議なことにどんな場所に住んでも慣れるらしい。
雫も最初はドキドキしっぱなしで夜寝るときとかは、もう黒崎さんにべったりでうるさかった。お風呂も一緒に入りに行くし、黒崎さんが俺を誘ってきても遮るように一緒に入る。
あ、でも、別に俺は。
黒崎さんと一緒にお風呂に入りたかったなんて考えてはいないけどね?
一応、言っておくよ?
勘違いされることほど嫌なことないし。
そんな感じで新生活にも慣れ、学校も始まり、いつも通りに学校へ行くと斎藤さんが話しかけてくれたり、学校からの帰りには今まで通りスキルやステータスの開放に向けた訓練がてら迷宮区に潜ることもあり、色々と日常を取り戻しつつあった。
ただ、一つ変ったことと言えば――何も考えず3人で登校して、帰るときは黒崎さんと妹の中学の前まで迎えに行ってを繰り返していると流石に普通にばれてきて、あっという間に俺と黒崎さんの関係性が色々と明るみになってきた。
一緒に住んでる――ということまではバレてはいないが、家族ぐるみの付き合いをしているのではないかと疑いまで持たれている。
それに、何より嫌なのは俺と黒崎さんが教室でもよく話しているせいなのか、なぜかまったくと言っていい程俺たちに話しかけに来ないのだ。
ジンとクサビがいなくなってしまったことから俺への嫌がらせが減ったどころか、なぜか俺と黒崎さんの2人の関係を見つめることがブームになっている。
どうやら斎藤さんがジンとクサビのやった悪事を新聞してくれたことで、俺への嫌悪感が消え、今まで嫌だなって思ってくれていた人たちが率先していじめをなくしてくれたとのこと。
なんだかんだ、斎藤さんも優しいところがあって個人的にはホッとしたが、急に火がついた人気に少し戸惑っていた。
今更、黒崎さんがこの中生きていたことの凄さを痛感した。
まぁでも、俺と黒崎さんが同棲していることもマスコミが調べ出したらバレるかもしれないし、同じマンションに住むことになったと公表した方がいいかもしれないなとも感じていて、下田さんにも相談したいところ。
――しかし、そんな日常でタイミングよく話が舞い降りてきた。
・探索者ギルド会議室にて
「あの、それで今日はどういうご用件で……?」
俺は会議室の机を挟んでギルド長と対面していた。
正直な話、心臓がバクバクだった。
一緒にここまできた黒崎さんはなぜか会議室に入る前に下田さんに連れて行かれちゃうし、バイト中の雫もコーヒーだけ置いたらさっさといなくなっちゃうしで俺の中で、色々と情報が錯綜していた。
「まぁまぁ、先にコーヒー飲んで落ち着いてくれたまえよ」
つまり、俺が落ち着かなくなるくらいヤバい話だとでも言うのだろうか?
それって結構ヤバくないか? もしかして、やっぱりお前は真実を知り過ぎた適菜やつで殺されるとか?
なんなら、あのアンチスキルは国が重要犯罪組織に指定している。きっと、隠してることだって色々あるだろうし、2人が駒だったけど接触してしまったから君は監禁しないといけない……なんてことある可能性だって。
膨らむ妄想、膨らむ危機感。
ギュインギュインして頭痛がする。
未来予知……すれば未来の事は分かるが絶望したくないし使えない自分もいて、心的状況は深刻だった。
何せ、それにだ。
「あの、すみません……俺、コーヒー苦手で」
いかにも、俺はコーヒーが飲めない。
「え、飲めない!?」
「ちょっと、苦いものが……」
「ははははっ、それはそれは失敬だったな! すまないな、すぐに違うのをっ!」
「や、全然……別に大丈夫ですっ」
「そ、そうか? それならいいんだが。よし、とにかく話しないとだな! 俺も早くしないと副ギルド長に怒られちまうし」
「お、お願いします……」
ゴクリと生唾を飲み込み、お話が始まった。
ふと、副ギルド長ってそんなに怖いのかな——なんて思ってしまったが、何かあるかもしれない未来を思い浮かべればその疑問も不安に変わる。
俺は副ギルド長にボコボコにされるかもしれない――なんて、考えてしまttのである。
「——んなわけでな、君には黒崎さんが所属するギルド直属のパーティに入ってもらえないかと思ってな」
「え、ぱ、パーティですか?」
話は一瞬だった。
俺はもう棚から牡丹餅な気分だった。
捕まるのかと覚悟していたのだが、まさかのパーティの誘い。
驚いたも驚いたが、本音が先に漏れてしまう。
「いいんですか? 俺、俺なんかが」
「まぁ、いいもなにもこっちからのスカウト、オファー的な感じだからなぁ。もちろん、國田君、君にも拒否権がある」
「え、いやぁ……俺なんかがそんなおこがましいというか」
最近は黒崎さんと一緒に迷宮区に潜ることが多かったからあまり気にすることもなかったが俺はと言えば長くソロだった。
パーティを組まず、探索者になってから何カ月も一人。組まずとは言ったが組めなかっただけなんだけど、とにかくそのくらいパーティなんて組織的なものには無縁だった。
「いやいや、謙遜するなよ少年。一応、これでも活躍を買っているんだぞ?」
「俺、そこまで活躍した覚えなんて――」
——なくはない。
今までの討伐履歴も見れば分かるが、俺はA、B、Cとすべての魔物を倒している。
「馬鹿言うなよぉ~~、俺でも一人じゃ倒したことないAランク魔物《モンスター》倒してるんだよ? そりゃもう、それだけで十分」
「あ、あははは……でも、俺はF級ですよ?」
「俺だってA級だぞ?」
「そ、それは——FとAじゃ話が違ってきますよ」
「いやまぁ、そうかもしれないが実力で黙らせたんだよ。上の人たちはまだ懐疑的だけど、すぐに気づく。それに、権限は俺にあるからな。とにかく、入ってもらいたいんだよ」
「えぇ……」
熱烈すぎるオファーに、ただ今度は心配になってきた。
今まで音沙汰なんてなかったのに、まぁ、有名じゃないからそりゃそうなんだけどね?
でも、不安は不安だ。
「——もちろん、ギルドの下部組織にはあたるから、守秘義務とかはあるがね」
「しゅ、守秘義務……」
やはり、そう簡単な話じゃなかった。
「というと、実際どんなことが?」
「それは入ると決まってからだな?」
「そ、それはそうですね……」
ゴクリ。
再びつばを飲み込んだ。
にしても、そんな重要な組織のパーティに入れと言われるとは思わなんだ。
ただ……入れと言われたら言われたでどうすればいいのか分からない。
そんな組織に入ってもいいのだろうかと、雫もいるし、仕事で忙しくなるのは正直嫌かもしれない。
それに、今みたいに適当に迷宮区行って換金して稼げばいいし。
「あ、それと一つ言ってなかった」
「は、はい?」
すると、何か忘れたように指を上に立ててこう言った。
「——家、もっとセキュリティが高いところに新調してあげるよ?」
その瞬間、ビビッと足りていないところに手が届いた気がして一瞬で答えが出た。
「お願いします!!!!」
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