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1章
第7話 お互いに秘密です
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聖女候補を探す、といってもどうしたものか。
全員が全員、マキューシャのように自分が聖女候補であると公言しているわけでもなければ、ファリスのようにわかりやすく聖女候補然としているわけではない。
自分が聖女候補だった時には、実は自分もそうだと内々に打ち明けてくる相手や、なにかいいたそうな顔で遠巻きに見つめてくる相手もいて、薄々察しはついたものだけど……。
学校というのは記憶にある以上に周囲の目が厳しかった。聖女候補の噂を集めようにも、あれこれ聞いて回っていると悪目立ちしそうだ。下手に目をつけられて、昔からこの学校にいるマッカラン校長に正体を見破られたり、あるいは入学を偽装したことがばれたら、どう考えてもいいことになりそうもない。
いいことをしているはずなのに、悪いことをしている気分になってくる。
「ジュリエッタお姉さま、なにを悩んでらっしゃいますの?」
入学式以来すっかり懐いてしまったファリスが、授業が終わるなり私のもとへかけつけ、机に頬杖をついて顔を覗き込んできた。
懐いて「しまった」なんて言ったけど、今の私の一番の癒し要素である。こういう子をドルガマキアの毒牙にかけないためにも、がんばらないと。
「なんでもないわ、ファリ……」
「あっ、わかりましたわ!」
ファリスが両手をたたきあわせて目を輝かせた。
分かられちゃ困るんだけど……
「どの部に入るか悩んでいらっしゃるのでしょう」
全然違った。よかった。
そういえば、ここのところ周囲では部活動の勧誘が盛んだ。
「お姉さまはどの部で悩んでいらっしゃいますの?」
ファリスは手のひらサイズの液晶型石盤を持ち出してスイスイとフリックする。私のころは勧誘のチラシがあちこちで舞っていたものだけど、現在はこういうタブレットが広く普及していて、詳しい情報はタブレットで見るのが一般的になっているらしい。私のころは液晶型水晶なんて魔術研究所の実験室にしかなかったものだけど、三十年の間に色々と魔法技術も進んだようだ。
「人気なのは馬術クラブや音楽鑑賞部らしいですわ!」
とファリス。タブレットで閲覧できる、学内掲示板の雑談を読んでいるようだ。
おそらく、男女合同だからだろう。私のころも、たまの男女合同授業の時にはクラスじゅうが浮き足立っていたもの。
「ねえお姉さま、部活で悩んでいるのなら私もご一緒してもいいかしら。ひとりでは心細くて……」
「ごめんなさい、ファリス。今のところどこかに入る予定はないの」
「ええっ?! どうしてです?」
私が聖女候補の時にはそのプレッシャーでクラブ活動どころではなくどこにも入らなかったのだけど、こうして改めて見てみるとあっちもこっちも楽しそうだ。
今ならどこか入っても……と一瞬思ってしまったけれど、誰にも知られていないだけで、複数の候補のなかのひとりだった前より今のほうが、時間も余裕もない。
「その……色々忙しくて」
「そうなんですのね……」
「ええ、ごめんなさいファリス。大丈夫よ、心配しなくてもファリスならきっとどこでも歓迎され……」
「じゃあ私、忙しいお姉さまのお手伝いをするわ!」
「えっ」
「あ……私なんか、ご迷惑かしら?」
ファリスがしょんぼりした表情になる。
私が男だったら、この顔をさせないためならなんでもする、という気持ちになりそうだ。
いや同性でもちょっとそういう気になっているけど。美少女ってすごいわ。
しかし、そういうわけにもいかないのだ。私がやろうとしていることは、ファリスのためになるでもある。けれど、この秘密を打ち明けることはできない。
「迷惑というわけじゃないけれど……」
「よかった! ご迷惑じゃありませんのね! 頑張ります!」
……ファリスはときどき人の話を聞かない。
「お姉さまが忙しいことってなんですの? クラス委員のお仕事かしら? それならなおさら私もやらないとですわ。私がお姉さまを推薦してしまったから……」
「いえいえ、違うのよファリス。その、人と一緒にやれるようなことではないの。あくまで個人的な興味というか調べ物というか研究みたいなもので、誰かと一緒だとはかどるというようなものでは」
「研究、というと魔法の研究です? さすがはお姉さまですわ! 学ぶだけではすでに飽き足らず、独自研究をするレベルにまでいかれているなんて……」
ファリスがうっとりした表情で私を見上げる。
歴代聖女の記憶継承によりミズラル学院で習うような魔法は一通り使えるけれど、すべて自分が苦労して身につけたもの、というわけではないので、はっきり言って後ろめたい。
「そうだわ、それなら、お姉さまの研究したい分野の魔法研究同好会を作るというのはいかがです? 同好会の会長がお姉さまで、会員第一号が私ですわ!」
会員第一号って、ファンクラブじゃないんだから。
しかし、ファリスの言葉で、私の頭のなかであることが閃いた。
「そうね……調べたいのは魔法ではないのだけど」
「なんですの?」
「あえていうなら……歴史、かしら。過去と、現在と」
「歴史……素敵。お姉さまって、美しいだけでなく賢くもいらっしゃるのね。私、歴史とか難しくて全然知りませんの。お姉さまと一緒に頑張りますわ!」
ファリスはそう絶賛してくれたが、なんなら教室の板目の数を数えたいと言っても絶賛してくれた可能性がある。この子なら。
「歴史のなかでも、特に暗黒竜や聖女にまつわる話に特に興味があって……ほら、私の名前、伝説の聖女と同じでしょう? 昔からそう言われてきたから、色々調べてみたいの。せっかくこの学院に入学したことだし」
「そうなんですのね! 素敵、それでしたら私でもお役に立てそうですわ!」
「あらよかった。ファリス、聖女には詳しいの?」
「えっ、いえ、そういうわけでもないのですけれど……」
ファリスが急に語尾を濁した。どうやら、聖女候補であることはまだ秘密にするつもりらしい。
全員が全員、マキューシャのように自分が聖女候補であると公言しているわけでもなければ、ファリスのようにわかりやすく聖女候補然としているわけではない。
自分が聖女候補だった時には、実は自分もそうだと内々に打ち明けてくる相手や、なにかいいたそうな顔で遠巻きに見つめてくる相手もいて、薄々察しはついたものだけど……。
学校というのは記憶にある以上に周囲の目が厳しかった。聖女候補の噂を集めようにも、あれこれ聞いて回っていると悪目立ちしそうだ。下手に目をつけられて、昔からこの学校にいるマッカラン校長に正体を見破られたり、あるいは入学を偽装したことがばれたら、どう考えてもいいことになりそうもない。
いいことをしているはずなのに、悪いことをしている気分になってくる。
「ジュリエッタお姉さま、なにを悩んでらっしゃいますの?」
入学式以来すっかり懐いてしまったファリスが、授業が終わるなり私のもとへかけつけ、机に頬杖をついて顔を覗き込んできた。
懐いて「しまった」なんて言ったけど、今の私の一番の癒し要素である。こういう子をドルガマキアの毒牙にかけないためにも、がんばらないと。
「なんでもないわ、ファリ……」
「あっ、わかりましたわ!」
ファリスが両手をたたきあわせて目を輝かせた。
分かられちゃ困るんだけど……
「どの部に入るか悩んでいらっしゃるのでしょう」
全然違った。よかった。
そういえば、ここのところ周囲では部活動の勧誘が盛んだ。
「お姉さまはどの部で悩んでいらっしゃいますの?」
ファリスは手のひらサイズの液晶型石盤を持ち出してスイスイとフリックする。私のころは勧誘のチラシがあちこちで舞っていたものだけど、現在はこういうタブレットが広く普及していて、詳しい情報はタブレットで見るのが一般的になっているらしい。私のころは液晶型水晶なんて魔術研究所の実験室にしかなかったものだけど、三十年の間に色々と魔法技術も進んだようだ。
「人気なのは馬術クラブや音楽鑑賞部らしいですわ!」
とファリス。タブレットで閲覧できる、学内掲示板の雑談を読んでいるようだ。
おそらく、男女合同だからだろう。私のころも、たまの男女合同授業の時にはクラスじゅうが浮き足立っていたもの。
「ねえお姉さま、部活で悩んでいるのなら私もご一緒してもいいかしら。ひとりでは心細くて……」
「ごめんなさい、ファリス。今のところどこかに入る予定はないの」
「ええっ?! どうしてです?」
私が聖女候補の時にはそのプレッシャーでクラブ活動どころではなくどこにも入らなかったのだけど、こうして改めて見てみるとあっちもこっちも楽しそうだ。
今ならどこか入っても……と一瞬思ってしまったけれど、誰にも知られていないだけで、複数の候補のなかのひとりだった前より今のほうが、時間も余裕もない。
「その……色々忙しくて」
「そうなんですのね……」
「ええ、ごめんなさいファリス。大丈夫よ、心配しなくてもファリスならきっとどこでも歓迎され……」
「じゃあ私、忙しいお姉さまのお手伝いをするわ!」
「えっ」
「あ……私なんか、ご迷惑かしら?」
ファリスがしょんぼりした表情になる。
私が男だったら、この顔をさせないためならなんでもする、という気持ちになりそうだ。
いや同性でもちょっとそういう気になっているけど。美少女ってすごいわ。
しかし、そういうわけにもいかないのだ。私がやろうとしていることは、ファリスのためになるでもある。けれど、この秘密を打ち明けることはできない。
「迷惑というわけじゃないけれど……」
「よかった! ご迷惑じゃありませんのね! 頑張ります!」
……ファリスはときどき人の話を聞かない。
「お姉さまが忙しいことってなんですの? クラス委員のお仕事かしら? それならなおさら私もやらないとですわ。私がお姉さまを推薦してしまったから……」
「いえいえ、違うのよファリス。その、人と一緒にやれるようなことではないの。あくまで個人的な興味というか調べ物というか研究みたいなもので、誰かと一緒だとはかどるというようなものでは」
「研究、というと魔法の研究です? さすがはお姉さまですわ! 学ぶだけではすでに飽き足らず、独自研究をするレベルにまでいかれているなんて……」
ファリスがうっとりした表情で私を見上げる。
歴代聖女の記憶継承によりミズラル学院で習うような魔法は一通り使えるけれど、すべて自分が苦労して身につけたもの、というわけではないので、はっきり言って後ろめたい。
「そうだわ、それなら、お姉さまの研究したい分野の魔法研究同好会を作るというのはいかがです? 同好会の会長がお姉さまで、会員第一号が私ですわ!」
会員第一号って、ファンクラブじゃないんだから。
しかし、ファリスの言葉で、私の頭のなかであることが閃いた。
「そうね……調べたいのは魔法ではないのだけど」
「なんですの?」
「あえていうなら……歴史、かしら。過去と、現在と」
「歴史……素敵。お姉さまって、美しいだけでなく賢くもいらっしゃるのね。私、歴史とか難しくて全然知りませんの。お姉さまと一緒に頑張りますわ!」
ファリスはそう絶賛してくれたが、なんなら教室の板目の数を数えたいと言っても絶賛してくれた可能性がある。この子なら。
「歴史のなかでも、特に暗黒竜や聖女にまつわる話に特に興味があって……ほら、私の名前、伝説の聖女と同じでしょう? 昔からそう言われてきたから、色々調べてみたいの。せっかくこの学院に入学したことだし」
「そうなんですのね! 素敵、それでしたら私でもお役に立てそうですわ!」
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