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1章
第8話 この中で一番詳しい人は誰でしょう?
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「歴史研究同好会?」
ドルガマキアことアルガス先生が眉を顰める。
「アルガス先生の専門は魔法学ですし、歴史についての同好会の顧問なんてお願いするのもどうかと思ったのですが」
「私たち入学したばかりで他に頼める先生がいなくて……お願いします、アルガス先生!」
そう言って両手を祈りの形に握り合わせたのは、私の隣にいるファリス。
「でも、アルガス先生はお忙しいと思いますので、難しいようでしたら断っていただいても」
むしろ断れ、と思いながら、ファリスと同じポーズをとる私。
前後左右から突き刺さる視線が痛い。
視線のもとは、アルガス先生の周囲に遠近含めて群がる十数人の女生徒だ。積極的な女生徒は腕でも組まんばかりの近くに、消極的な生徒は遠くの物陰から、それぞれアルガス先生には憧れの眼差しを、私とファリスには憎しみの眼差しを送ってくる。
大丈夫、慣れてる慣れてる。こういうのはロミリオ様で慣れてる。それに、今回はその視線を受け止めるのが私だけではなくファリスもいるので、計算上は二分の一ですむ。ロミリオ様のときよりも視線が倍以上に増えている気はするけれど。
こんな目立つ相手に、まして研究対象そのものである相手に、顧問を頼むなんてとんでもない。
しかし、同好会を作るには形式上でも顧問が必要だった。そして「アルガス先生がいいと思うわ! だって担任の先生なんですもの!」というファリスの提案を却下するだけの、十分な理由がなかった。
アルガス先生自身が拒否ってくれればそれが理由になる。断れ。
「活動内容……歴史文献の読書会、史跡訪問、有識者を呼んだ勉強会……」
タブレットの内容にアルガス先生が目を走らせる。私は内心冷や汗をかく。実際の活動と異なることを書くわけにはいかなかったが、活動の本当の目的がわかるようなことは書いていないはずだ。
「歴史というのは?」
「この国の成り立ちですとか……社会的な意識の変化ですとか……」
「暗黒竜と、それを封じる聖女について私たちは興味があるのですわ!」
あっ、こら、ファリス!
「ほほう」
案の定、アルガス先生の目が光った。
「それならば我輩も知らない分野ではないな。顧問はもちろん引き受けよう」
そりゃあそうでしょうとも。暗黒竜本人ですからね。
アルガス先生が笑顔で返してきたタブレットを私は渋い表情で受け取る。アルガス先生は愉快そうに笑った。
* * *
アルガス先生が顧問になったのはマイナス要素ばかりではなかった。顧問を頼んだ際のやりとりはアルガス先生の一挙手一投足を見逃さない女生徒たちを通じて瞬く間に校内に広がり、翌日にはお目当ての生徒のひとり、マキューシャが向こうからやってきた。
「わたくしに断りもなく聖女を研究する同好会ができたと聞いて来てみれば、あなたですのね、ジュリエッタ・リース。少しずうずうしいのじゃありませんこと?」
マキューシャは私を見るなり、フン、と鼻を鳴らした。ずうずうしいって、なにがずうずうしいのかよくわからないのですけど。
「名前が伝説の聖女様と同じだからといって、あなたに聖女のなにがわかりますの? 幼い頃から聖女を目指し、この学院でも厳しいカリキュラムに耐えてきた本物の聖女候補である私を前に、恥ずかしくありませんこと?」
こっちのほうは、候補どころか現役の聖女なんですけれどね。
まあいいけど……。
「もしかして、あなた様がマキューシャ様ですの?!」
良くも悪くも空気を読まないファリスがはしゃいだ声を上げた。
「はあ? あなたどなた……えっ」
高飛車な態度でマキューシャがファリスのほうへ目を向ける。そして、
「え、美……っ」
と喉から絞り出すような声を出し、マキューシャは絶句した。
マキューシャのやりようを苦笑しながら見ていたティボルス王子も目を丸くしている。
まあね。こんな美少女、私だって見たことないもの。人外であるドルガマキアにだってひけをとらないわ。
よくわからない優越感にひたりながら、私はマキューシャににっこり笑いかけた。
「ここにいるファリスも興味があるというので、一緒にやりましょう、ということになりましたの。学内では有名な聖女候補であるマキューシャ様にも入っていただけるのなら心強いですわ。ねえファリス」
「もちろんですわ!」
「だ……だ、誰が……っ」
「いいじゃないか、マキューシャ」
取り乱すマキューシャの肩に、ティボルス王子がそっと手を置いた。
「君はひとりで頑張りすぎだよ。こういう活動を通じて友人ができるのはいいことだ」
「で、でも、ティボルス……」
「僕は入らせてもらおうかな。僕も、聖女という制度には興味があるんだ」
「…………」
マキューシャの視線が、ティボルス王子とファリスの間をせわしなく行き来する。そう言いつつもファリスが目当てじゃないのか、と疑っているのだろう。まあ普通はそうよね。王子と言えども男だもの。下心があってもおかしくないわ。
そう思って私もティボルス王子とみると、目があったティボルス王子がにっこりと笑いかけてきた。
親子だけあって、ロミリオ様と笑いかたがよく似ている。ロミリオ様を思い出して、私は少し胸が熱くなった。
誰にでも見境なく優しいところもティボルス王子はロミリオ様によく似ている。マキューシャがピリピリするのも無理ないわね。
ロミリオ様も校内に婚約者がいたけれど、私に対しても公然と親切にするものだから、私は彼女から目の敵にされ、あげくに婚約破棄騒動に発展した。当時は婚約者のほうが心の狭い女だと思っていたけれど、今になってみると、ロミリオ様ももう少し婚約者の彼女に気を使うべきだったのじゃないかしら、と思う。
「僕だけでも入部させてもらいたい。どうかな?」
「もちろん……」
「もちろん大歓迎ですわ!」
「わ、わたくしだって入部しますわよ、もちろん」
マキューシャが慌てたように言った。
ドルガマキアことアルガス先生が眉を顰める。
「アルガス先生の専門は魔法学ですし、歴史についての同好会の顧問なんてお願いするのもどうかと思ったのですが」
「私たち入学したばかりで他に頼める先生がいなくて……お願いします、アルガス先生!」
そう言って両手を祈りの形に握り合わせたのは、私の隣にいるファリス。
「でも、アルガス先生はお忙しいと思いますので、難しいようでしたら断っていただいても」
むしろ断れ、と思いながら、ファリスと同じポーズをとる私。
前後左右から突き刺さる視線が痛い。
視線のもとは、アルガス先生の周囲に遠近含めて群がる十数人の女生徒だ。積極的な女生徒は腕でも組まんばかりの近くに、消極的な生徒は遠くの物陰から、それぞれアルガス先生には憧れの眼差しを、私とファリスには憎しみの眼差しを送ってくる。
大丈夫、慣れてる慣れてる。こういうのはロミリオ様で慣れてる。それに、今回はその視線を受け止めるのが私だけではなくファリスもいるので、計算上は二分の一ですむ。ロミリオ様のときよりも視線が倍以上に増えている気はするけれど。
こんな目立つ相手に、まして研究対象そのものである相手に、顧問を頼むなんてとんでもない。
しかし、同好会を作るには形式上でも顧問が必要だった。そして「アルガス先生がいいと思うわ! だって担任の先生なんですもの!」というファリスの提案を却下するだけの、十分な理由がなかった。
アルガス先生自身が拒否ってくれればそれが理由になる。断れ。
「活動内容……歴史文献の読書会、史跡訪問、有識者を呼んだ勉強会……」
タブレットの内容にアルガス先生が目を走らせる。私は内心冷や汗をかく。実際の活動と異なることを書くわけにはいかなかったが、活動の本当の目的がわかるようなことは書いていないはずだ。
「歴史というのは?」
「この国の成り立ちですとか……社会的な意識の変化ですとか……」
「暗黒竜と、それを封じる聖女について私たちは興味があるのですわ!」
あっ、こら、ファリス!
「ほほう」
案の定、アルガス先生の目が光った。
「それならば我輩も知らない分野ではないな。顧問はもちろん引き受けよう」
そりゃあそうでしょうとも。暗黒竜本人ですからね。
アルガス先生が笑顔で返してきたタブレットを私は渋い表情で受け取る。アルガス先生は愉快そうに笑った。
* * *
アルガス先生が顧問になったのはマイナス要素ばかりではなかった。顧問を頼んだ際のやりとりはアルガス先生の一挙手一投足を見逃さない女生徒たちを通じて瞬く間に校内に広がり、翌日にはお目当ての生徒のひとり、マキューシャが向こうからやってきた。
「わたくしに断りもなく聖女を研究する同好会ができたと聞いて来てみれば、あなたですのね、ジュリエッタ・リース。少しずうずうしいのじゃありませんこと?」
マキューシャは私を見るなり、フン、と鼻を鳴らした。ずうずうしいって、なにがずうずうしいのかよくわからないのですけど。
「名前が伝説の聖女様と同じだからといって、あなたに聖女のなにがわかりますの? 幼い頃から聖女を目指し、この学院でも厳しいカリキュラムに耐えてきた本物の聖女候補である私を前に、恥ずかしくありませんこと?」
こっちのほうは、候補どころか現役の聖女なんですけれどね。
まあいいけど……。
「もしかして、あなた様がマキューシャ様ですの?!」
良くも悪くも空気を読まないファリスがはしゃいだ声を上げた。
「はあ? あなたどなた……えっ」
高飛車な態度でマキューシャがファリスのほうへ目を向ける。そして、
「え、美……っ」
と喉から絞り出すような声を出し、マキューシャは絶句した。
マキューシャのやりようを苦笑しながら見ていたティボルス王子も目を丸くしている。
まあね。こんな美少女、私だって見たことないもの。人外であるドルガマキアにだってひけをとらないわ。
よくわからない優越感にひたりながら、私はマキューシャににっこり笑いかけた。
「ここにいるファリスも興味があるというので、一緒にやりましょう、ということになりましたの。学内では有名な聖女候補であるマキューシャ様にも入っていただけるのなら心強いですわ。ねえファリス」
「もちろんですわ!」
「だ……だ、誰が……っ」
「いいじゃないか、マキューシャ」
取り乱すマキューシャの肩に、ティボルス王子がそっと手を置いた。
「君はひとりで頑張りすぎだよ。こういう活動を通じて友人ができるのはいいことだ」
「で、でも、ティボルス……」
「僕は入らせてもらおうかな。僕も、聖女という制度には興味があるんだ」
「…………」
マキューシャの視線が、ティボルス王子とファリスの間をせわしなく行き来する。そう言いつつもファリスが目当てじゃないのか、と疑っているのだろう。まあ普通はそうよね。王子と言えども男だもの。下心があってもおかしくないわ。
そう思って私もティボルス王子とみると、目があったティボルス王子がにっこりと笑いかけてきた。
親子だけあって、ロミリオ様と笑いかたがよく似ている。ロミリオ様を思い出して、私は少し胸が熱くなった。
誰にでも見境なく優しいところもティボルス王子はロミリオ様によく似ている。マキューシャがピリピリするのも無理ないわね。
ロミリオ様も校内に婚約者がいたけれど、私に対しても公然と親切にするものだから、私は彼女から目の敵にされ、あげくに婚約破棄騒動に発展した。当時は婚約者のほうが心の狭い女だと思っていたけれど、今になってみると、ロミリオ様ももう少し婚約者の彼女に気を使うべきだったのじゃないかしら、と思う。
「僕だけでも入部させてもらいたい。どうかな?」
「もちろん……」
「もちろん大歓迎ですわ!」
「わ、わたくしだって入部しますわよ、もちろん」
マキューシャが慌てたように言った。
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