吸血鬼物語

トビの助

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吸血鬼物語②ハナニラ―spring starflower―

ハナニラ―spring starflower― 前編

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吸血鬼物語② ハナニラ―spring starflower―


「らっしゃいらっしゃい!お安くしとくよー!」

今日も市場を通れば、活気あふれる声に360度囲まれる。

空を見れば雲一つなく、
お出かけ日和の今日は特に、村人達で溢れ歩くのが大変なくらいだ。

俺の今日の目的は花だ。

毎週土曜日はハナニラという花を買って、
イオン、彼女のもとに届けている。

「こんにちは。今日もあの花を一輪ください。」

「おはようレオ!今日も彼女のところへ?」

花屋のおじさんは迷うことなくハナニラをとって包み、
俺に渡した。

「ええ、ありがとうございます。」

代金をおじさんに渡すと、
花をとり俺は急いで歩き出す。

一秒でも早く彼女に会いたくて。

「お熱いねえ~!」

おじさんがにんまり笑いながら手を振ってきたので、
苦笑いしながら軽く振り返し、歩く速度をあげた。

やっと市場を抜け、
広場にでた。

中央の噴水で子供たちが遊んでいる。

俺もイオンも、小さい頃よくここで遊んだのが懐かしい。

噴水の左にある細い通りを少し歩くと、
イオンの家に着いた。

ドアの前に立ち、
軽く息を整える。

イオンと恋人関係になってから、
会うときはいつも少し緊張してしまう。

平日は忙しくてなかなか会えないため、
毎週土曜日は彼女と過ごせる貴重な時間だ。

少しでも彼女との時間を大切にしたいと思うと、
体に力が入ってしまうのだ。

そんな俺を見て、
イオンはいつもクスクスと笑いながら出迎えてくれるのだが。

トントン、とドアをたたくと、
ドアを開けたのはイオンではなく彼女の母だった。

「あらレオ、いらっしゃい。」

イオンの母は少し不安げな表情だ。

「こんにちは。イオンはいますか?」

「いるんだけどね・・。四日前から部屋から出てこないの。
水しか口にしないし、どうしたのかしらね・・。」

イオンの母は頬に手をあててため息をついた。

「俺が聞いてみてもいいですか?この花も渡したいので。」

「そうね。あなたになら何か話すかもしれないわ。」

家に入り、彼女の部屋のある二階へと階段を上る。

上るごとにギシギシとなる階段の不快な音が、
不安を煽ってくるようだ。

イオンの部屋の前に立ち、彼女の名前を呼んだ。

「イオン、俺だよ。」

少しの沈黙の後、足音がドアに近づいてきた。

キィ、とドアがゆっくりと開くと、
毛布を頭から被った彼女がいた。

「入って、レオ。」

いつもとは違う弱弱しい声だった。

俺は部屋に入りドアを閉め花をドア横の机に置くと、
イオンに近づき毛布をゆっくりととった。

思わずぎょっとした。

彼女の唇は血の気がなくなっていて真っ白、頬の赤みも消え青白く、顔色が悪い。

髪の毛も艶がなく萎れた花のようだ。

立っているのも辛そうだったので、
ベッドに座らせて、しゃがんでイオンの顔を下から覗き込む。

「何があったんだ。どこか悪いのか?」

彼女の両手に、自分の手を優しくのせてみる。

死人のような冷たさだった。

「喉が、渇くの、、。」

かすれ声で彼女は言った。

机に置いてある水の入ったコップを渡したが、
イオンは首を横に振った。

「水じゃダメなの。沢山飲んだけど、渇きが癒えなくて・・。」

「そうか・・。」

コップを机に戻し、部屋を見渡した。

カーテンは閉め切られ部屋は薄暗い。

「とりあえず、日の光を浴びた方がいいんじゃないか。」

カーテンを開けようとした時、

「やめて!!」

イオンが目をカッと開いて大きな声で言った。

「眩しいの、目が開けられないくらい。今の暗さが丁度いいの。」

彼女の必死な様子から、
カーテンを掴んだ手をそっとおろし、彼女の隣に座った。

彼女の背中をさすりながら、
弱った彼女を見て胸が苦しくなった。

ゆっくりと彼女を抱きしめると、
イオンも俺の背中に手をまわした。

「俺に何かできることはないのか。」

そう言うと、イオンの手に力が入るのを感じた。

「レオ、ごめんなさい、、。」

イオンが耳元で囁く。

「どうして謝るんだ。」

「もう我慢できないの・・。」

ブチッ

「え?」

何が起こったのか分からなかった。

首元が熱くなるのを感じた。

その熱さは段々と強烈な痛みに変わっていく。

「ぐあっ」

彼女から離れようとしたが、
彼女は物凄い力で俺の体を抱きしめ、離すことができない。

やがて体に力が入らなくなり、
腕はだらんと下にさがる。

5分くらい経っただろうか。

イオンが俺の首元から顔を離し、
ゆっくりと俺の体を寝かせた。

上から覗き込む彼女の顔は、さっきとはまるで別人だった。

赤い唇、艶々の美しい茶髪。

そして、赤い目―

口周りには真っ赤な血がついていた。

俺は指を震わせながら、
自分の首元を触り、その手を見る。

彼女の口周りの血と同じ色で、指が染まっていた。

「レオ・・私、変わってしまったみたい。」

彼女が話すと、ちらちらと口から小さな牙が見えた。

「ごめんなさい・・。」

イオンの悲しそうな表情が段々と遠ざかっていくように感じ、
そして、俺は気を失った。


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