7 / 18
7偶然か、それとも……
しおりを挟む
「ところで、ラノイ君」
「なんですか?」
落ち着いた声でチョウカは尋ねる。
「これからどうするんだい?」
「あー、特に決めてないですね。何の目的もなく旅をしているので」
「そうか。実は僕たちはこの森を抜けて隣国のペイデルに行こうと思っているのだが、良かったらどうかな?」
「え、この森の出口を知っているんですか?」
ラノイはやや早口で問いかけた。
「ああ。この森は何回も出入りしているからね」
「い、行きます。一緒に行きたいです!」
今のラノイにとって願ったり叶ったりの誘いだった。
もともと目的もなく旅をしていたし、チョウカ達と出会わなければ何日もかけて自力でこの森を脱出する予定だったのだ。
それにまだ見ぬ国へも行けるとなれば、むしろこの状況でこの誘いを断る人がいるだろうか。
「よし。そうと決まれば早速出発しよう。まだ明るいが歩きだからな。ペイデルに着くのは夜……いや早ければ夕方には着くな」
こうしてチョウカを筆頭に皆歩き始めた。
木々が所狭しと生え、所々ラノイの腰ぐらいまでありそうな草が生茂るこの森を、チョウカは迷うことなく出口へ向かって進む。
しばらくすると視界が開け、一向は森を出た。
「ほ、ほんとに出れた」
何の遮蔽物もない空を見ながら、ラノイはぽつりと呟いた。
「何回も行き来すれば嫌でも覚えるよ。さ、ペイデルまではもう一息だ、行こう」
再び一向は歩き始めた。
「……着いた。ペイデルだ」
日が段々と傾き、辺りが赤く染まり始めた頃、チョウカたちは目的のペイデル王国へ到着した。
「いやぁ、歩きだと流石に疲れるね」
「私は普段から鍛えてますから、これぐらいどうってことないですよ」
額の汗を拭うチョウカとは対照的に、涼しげな顔でリルは答えた。
「はは、そうですか。ラノイ君はどうだい?」
「も、もう足が限界です」
はあはあと乱れた息を整えながらラノイは質問に答える。
「うん。とりあえず今日は休もう。で、明日から活動しよう」
「そうですね」
「賛成です」
こうしてチョウカ達は宿屋に泊まった。皆慣れない距離を歩いた疲れからか泥のように眠った。
次の日。チョウカ達は宿屋の前に集まっていた。
「さて、僕たちは商品を仕入れに行くがラノイ君はどうする?」
「とりあえず、この辺りを見て回ろうと思います」
「そうか。じゃ、また後で」
そう言い残しチョウカ達は行ってしまった。それを見送った後で、ラノイも歩き出した。
昨日は疲れでまともに見ることができなかった分、ラノイはわくわくしていた。
白レンガが幾重にも積み重なった高く厚い城壁にこの国は囲まれ、それがラノイの目にも意識せずとも映る。
またこの国の中心は土が盛り上がっており、その上に――まわりの木々にやや隠れてはいるが――こちらもまたレンガ造りの城が建っている。
ラノイはこの美しく雄大な景観に思わず見惚れてしまう。
またしばらく歩くと活気溢れる屋台が並ぶ場所に出た。そこから出る煙の匂いは容赦なくラノイの食欲を刺激し、朝食を取ったばかりなのに空腹になってしまう。
そんな幸せが充満する中を歩いている時、ラノイの目に一人の少女の姿が映った。その少女の前には男がいた。
「なあ、いいじゃねえかよ」
「ちょっと、やめてください」
「いいじゃねえか、俺と遊ぼうぜ~」
「本当にやめてください、誰か助けて!」
通行人や屋台の店主はちらちらとその現場を見てはいるが、誰も助けに入ろうとはしない。
「あん、んだてめえ」
「あ、いや、えっと」
考えるより先に、体が動いていた。
ラノイは少女と男の間に入り、説得を試みる。
「なんなんだよ」
「い、いやがってるから辞めたほうがいいと思うんですが」
「うるせぇ、てめえに関係ねえだろ」
「で、でもですね……」
もしかしたら引いてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけた説得も予想通りの結果となった。それどころか男はますます機嫌が悪くなり、指をパキパキと鳴らし始めた。
「そこを、どけ」
「……いやです」
「んだと。さっきからうぜえんだよ! このクソガキが!」
ラノイは脳をフル回転させ考える。
この男の太腕から繰り出されるパンチを耐えることはできない。かと言って今あるのは自分でもまだ理解していない復元魔法のみ。
果たしてこれで男を倒せるのか、ラノイは自問自答する。
それでも、ラノイはそれに賭けるしかなかった。
「しばらく眠っとけ!」
「復元!」
聞き慣れない魔法に、男は拳を途中で止めた。
周りも静まり、行く末を見ている。が、何も起こらない。
「なんだよ、驚かせやがって」
再び男はラノイへ拳を放とうとした。その時
「ぐわあああ!」
そう叫ぶと、男は膝から崩れ落ちた。見ると、男は両膝から出血していた。
「なんで膝から出血が……」
あまりに突然の出来事に、皆困惑していた。
「くそっ、なんだか分からねえが今日はひとまず帰るか」
そう言いながら、よろよろと歩き男は去った。
「あ、ありがとうございます」
ラノイは少女の方へ振り返った。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かった。じゃあ僕は失礼します」
「あ、お名前を教えていただいても」
「ラノイ・ルーカスです」
それだけ言うと、ラノイは逃げるようにその場から去った。走りながら、ラノイはさっきの出来事を反芻していた。
「なんですか?」
落ち着いた声でチョウカは尋ねる。
「これからどうするんだい?」
「あー、特に決めてないですね。何の目的もなく旅をしているので」
「そうか。実は僕たちはこの森を抜けて隣国のペイデルに行こうと思っているのだが、良かったらどうかな?」
「え、この森の出口を知っているんですか?」
ラノイはやや早口で問いかけた。
「ああ。この森は何回も出入りしているからね」
「い、行きます。一緒に行きたいです!」
今のラノイにとって願ったり叶ったりの誘いだった。
もともと目的もなく旅をしていたし、チョウカ達と出会わなければ何日もかけて自力でこの森を脱出する予定だったのだ。
それにまだ見ぬ国へも行けるとなれば、むしろこの状況でこの誘いを断る人がいるだろうか。
「よし。そうと決まれば早速出発しよう。まだ明るいが歩きだからな。ペイデルに着くのは夜……いや早ければ夕方には着くな」
こうしてチョウカを筆頭に皆歩き始めた。
木々が所狭しと生え、所々ラノイの腰ぐらいまでありそうな草が生茂るこの森を、チョウカは迷うことなく出口へ向かって進む。
しばらくすると視界が開け、一向は森を出た。
「ほ、ほんとに出れた」
何の遮蔽物もない空を見ながら、ラノイはぽつりと呟いた。
「何回も行き来すれば嫌でも覚えるよ。さ、ペイデルまではもう一息だ、行こう」
再び一向は歩き始めた。
「……着いた。ペイデルだ」
日が段々と傾き、辺りが赤く染まり始めた頃、チョウカたちは目的のペイデル王国へ到着した。
「いやぁ、歩きだと流石に疲れるね」
「私は普段から鍛えてますから、これぐらいどうってことないですよ」
額の汗を拭うチョウカとは対照的に、涼しげな顔でリルは答えた。
「はは、そうですか。ラノイ君はどうだい?」
「も、もう足が限界です」
はあはあと乱れた息を整えながらラノイは質問に答える。
「うん。とりあえず今日は休もう。で、明日から活動しよう」
「そうですね」
「賛成です」
こうしてチョウカ達は宿屋に泊まった。皆慣れない距離を歩いた疲れからか泥のように眠った。
次の日。チョウカ達は宿屋の前に集まっていた。
「さて、僕たちは商品を仕入れに行くがラノイ君はどうする?」
「とりあえず、この辺りを見て回ろうと思います」
「そうか。じゃ、また後で」
そう言い残しチョウカ達は行ってしまった。それを見送った後で、ラノイも歩き出した。
昨日は疲れでまともに見ることができなかった分、ラノイはわくわくしていた。
白レンガが幾重にも積み重なった高く厚い城壁にこの国は囲まれ、それがラノイの目にも意識せずとも映る。
またこの国の中心は土が盛り上がっており、その上に――まわりの木々にやや隠れてはいるが――こちらもまたレンガ造りの城が建っている。
ラノイはこの美しく雄大な景観に思わず見惚れてしまう。
またしばらく歩くと活気溢れる屋台が並ぶ場所に出た。そこから出る煙の匂いは容赦なくラノイの食欲を刺激し、朝食を取ったばかりなのに空腹になってしまう。
そんな幸せが充満する中を歩いている時、ラノイの目に一人の少女の姿が映った。その少女の前には男がいた。
「なあ、いいじゃねえかよ」
「ちょっと、やめてください」
「いいじゃねえか、俺と遊ぼうぜ~」
「本当にやめてください、誰か助けて!」
通行人や屋台の店主はちらちらとその現場を見てはいるが、誰も助けに入ろうとはしない。
「あん、んだてめえ」
「あ、いや、えっと」
考えるより先に、体が動いていた。
ラノイは少女と男の間に入り、説得を試みる。
「なんなんだよ」
「い、いやがってるから辞めたほうがいいと思うんですが」
「うるせぇ、てめえに関係ねえだろ」
「で、でもですね……」
もしかしたら引いてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけた説得も予想通りの結果となった。それどころか男はますます機嫌が悪くなり、指をパキパキと鳴らし始めた。
「そこを、どけ」
「……いやです」
「んだと。さっきからうぜえんだよ! このクソガキが!」
ラノイは脳をフル回転させ考える。
この男の太腕から繰り出されるパンチを耐えることはできない。かと言って今あるのは自分でもまだ理解していない復元魔法のみ。
果たしてこれで男を倒せるのか、ラノイは自問自答する。
それでも、ラノイはそれに賭けるしかなかった。
「しばらく眠っとけ!」
「復元!」
聞き慣れない魔法に、男は拳を途中で止めた。
周りも静まり、行く末を見ている。が、何も起こらない。
「なんだよ、驚かせやがって」
再び男はラノイへ拳を放とうとした。その時
「ぐわあああ!」
そう叫ぶと、男は膝から崩れ落ちた。見ると、男は両膝から出血していた。
「なんで膝から出血が……」
あまりに突然の出来事に、皆困惑していた。
「くそっ、なんだか分からねえが今日はひとまず帰るか」
そう言いながら、よろよろと歩き男は去った。
「あ、ありがとうございます」
ラノイは少女の方へ振り返った。
「お怪我はありませんでしたか?」
「はい、おかげさまで」
「それは良かった。じゃあ僕は失礼します」
「あ、お名前を教えていただいても」
「ラノイ・ルーカスです」
それだけ言うと、ラノイは逃げるようにその場から去った。走りながら、ラノイはさっきの出来事を反芻していた。
1
あなたにおすすめの小説
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる