追放された回復術師、実は復元魔法の使い手でした

理科係

文字の大きさ
8 / 18

8別れと決意

しおりを挟む
「あれ、ここどこだ?」

後ろを振り返ると、さっきまでの空気感はどこにも無かった。
ラノイは歩きながら息を整える。
この国の地理も分からぬまま走ったこともあり、今いる場所がどこかはわからない。が、周りには商店や民家はいくつかあるから、迷う心配はなさそうだ。

「それにしても……」

ラノイはふとさっきの出来事を思い出した。
目の前に立っていた男が、突然膝から出血し、崩れ落ちる。
この奇妙な起承転結が、なぜかさっきから引っかかる。

あの場にいた誰かが攻撃したのではという考えが頭に浮かぶ。
確かにそれもなくは無いが、あの時は皆見ていただけだったし、それにもしこれが本当ならなぜラノイが割って入る前にその攻撃をしなかったのかが疑問だ。

だとすると、次の可能性はラノイの復元魔法である。確かにあの時、「復元」と唱えた。それはラノイ自身もはっきりと記憶している。
しかし、そうなると別の疑問が湧き上がる。

あの時、何を復元させたのだろうか。

傷を復元したと言うのなら、傷は治るはずだ。となるとあの出血と矛盾してくる。
やっぱり、誰かが魔法をつかったのか。
それとも、未だ知らない復元の効果なのか。
考えれば考えるほどに、ラノイの頭は混乱を極める。

終わりの見えない脳内推理にうんざりして、ラノイはひとまず考えることを辞めた。
そして気持ちを切り替え、近くの店に宿屋への行き方を聞きに行った。





夜、ラノイはチョウカの部屋を訪ねた。

「……ってことがあったんですけど」

ラノイは事の顛末をチョウカに話した。

「んー、可能性としてあるなら君の付加アドが発動したかなぁ」
「……付加アド?」

聴き慣れない名前にラノイは戸惑った。

「うん、付加。簡単に言えば魔法を補助する魔法かな。魔法を取得すると同時に付くんだ。人によって種類も発動の仕方もバラバラ」
「は、はあ」
「おそらく、その膝から流血したのもラノイ君の反転の付加だと思うよ。」
「あー、そうですか……ってえ? 今さらっと僕の付加言いませんでした?」
「うん。前鑑定した時分かってたけど、君何も言ってこないから、聞かれたら言おうと思って」
「いやいや言ってくださいよ!」

ラノイは思わず突っ込んでしまう。

「あ、そうだ」

突然、チョウカは思い出したように言い出した。

「どうしたんですか?」
「僕たち、もう少ししたらこの国を出ようと思うんだ」
「もう少しって、いつですか?」
「明日かな」
「明日ぁ⁉︎」

あまりにも突飛な展開に、うまく言葉が出てこない。

「本来の予定より遅れているし、ほぼ準備は終わったからね」
「あ、そうなんですか」
「どうだい、一緒に来るかい?」
「え……」

ラノイはすぐに返事が出来なかった。

短い旅ながらも多くのことを教えてくれたチョウカ達には感謝しかない。そして今も、チョウカはこうして共に旅をしないかと提案してくれている。
ここまで親身にされたことはない。無いからこそ、自分なんかで良いのかと余計に思ってしまう。
揺れる心が、無意識に喉を締め付ける。

「明日の朝、僕らは宿屋の前に待機してるよ。もしオッケーならそこに来てくれ」
「……わかりました」

ぎこちなく返事をすると、ラノイは部屋を後にした。



次の日。朝靄が立ち込める中、チョウカ達は宿屋の前にいた。

「来るんですかね」

昨夜の話を聞いたリルは、疑わしそうな顔で立っている。

「そればっかりは僕にも……お、話をすれば」

言われた通り、ラノイはチョウカたちの前に来た。

「一緒に行くかい?」
「そのことなんですが」

ラノイは、ゆっくりと喋り始めた。

「誘われた時はほんとに嬉しかったし、ありがたいと思いました。でも、このままじゃまた足手纏いになるんじゃないかって、結局何も変われないんじゃないかって思ったんです。だからまず自分の力だけでやってみようと思ったんです。すいません」
「そうか。それなら仕方ないよ。君の人生、選ぶのは君だからね。じゃあ僕たちはもう行くよ。またどこかで」
「はい、またいつか」

そういうと、チョウカ達は荷馬車に乗り門へ向かって行った。
静かな朝に、荷馬車の音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

処理中です...