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14日がさすところに影あり
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ラノイはギルドにいた。
「薬草20本とってきました。精算お願いします」
「少々お待ちください」
受付嬢は慣れた手つきで薬草を数え始めた。
「確かに20本ありますね。ではこちら報酬です」
そう言ってラノイに手渡されたのは20枚の銅貨だった。誰でも出来る依頼のため報酬も多くはない。
しかし、ラノイは報酬をもらっても不満げな顔をしなかった。
「すいません、これも追加で」
そう言いながら森で拾った魔石を差し出す。
「確認しますね。……こちらの魔石はゴブリンのものですね。買い取りでよろしかったですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。ではこちらが代金となります」
受付嬢は銀貨を10枚ラノイへ渡した。予想よりも高価な額に「おほっ」と言う下品なリアクションをとってしまう。
とっさに手で口を隠し、急いで銀貨を回収する。
「それにしても、よく魔石なんて持ってこれましたね~」
「え?」
「一番出やすいゴブリンの魔石でも十数体倒して一個出るか出ないかの確率なんですよ。運がいいですね」
「ああ、まあ」
森の中で拾ったんです、とは言えなかった。なぜ森の中に落ちていたのかは謎だが、あまり深くは考えないことにした。
思わぬ臨時収入のおかげで、懐はだいぶ暖かくなっていた。
贅沢して高い料理を食べるか、はたまた武器や防具を新調するか、このまま貯金するか。有り余る選択肢にラノイは頭を悩ませる。
貨幣の入った袋を手の中でジャラジャラと動かしながら考える。すると、急に手の中からその重みが消えた。
はっとして辺りを見回す。ふと前方に猛ダッシュでかける少年の後ろ姿が見えた。
ラノイは直感的にその少年を追いかける。しかし走れど走れど追いつけず、それどころかついていくので精一杯だった。
「くっ、まだついて来る」
少年は路地に入り飄々と障害物を飛び越え奥へと消えていった。ラノイも見失ってなるものかと必死に後を追う。
「やった、これだけあればしばらくは……」
少年は袋の中を見て歓喜する。突如、首を何者かに掴まれた。
「つ……捕まえたぞ」
額に大粒の汗をかき、息も絶え絶えになったラノイだった。少年はその手を振りほどこうとするが、動かざること山の如しと言った具合にラノイの手は首を掴んで離さない。
「さあ、その袋返してもらうよ」
「……わーったよ」
不満げに少年は袋を返す。
「あれ、金貨が入ってないけど」
「知らねーよそんなの」
「じゃあ君のポケットの膨らみは何?」
「こ、これは」
「え、まじで入ってるんだ」
「おまえ! ハメやがったな!」
少年は大きなため息をつき、しぶしぶ金貨を返した。
「なあ、もう離してくれよ」
「まだだめ。第一、なんで人のものを盗ったんだい?」
「しょうがねーだろ。ここで生きる皆んなのためだ」
「みんな?」
「周り見てみろよ」
言われた通りまわりを見渡す。
皆着ている衣服はぼろく、家も簡素な作りだ。さっきまでいた場所、人とは明らかに異なっている。
「わかったか? これが俺たちの現状だ」
「でも、今まで働いたりはしなかったの?」
「働こうにも、あいつらロクな賃金くれやしない。だったら、盗んだほうがいい」
「もし、旅のおかたですか?」
路地の奥から誰かが話しかけてきた。見るとその男には片腕と片足が無かった。男は話を続けた。
「一応冒険者です」
「それは失礼。時に、その子――ドゥールを悪く思わないでくれませんか。私たちがこんなだから、ドゥールは仕方なくやっているんです」
「そ、そんなこと言われましても」
確かにここにいる人たちは老人や、子供連れや、負傷した冒険者などが多い。皆痩せこけており、目に生気がなく濁っている。
ラノイはもう一度周りを見渡し、何かを考えだす。
「……ドゥール、もう盗みはしないって約束できるか?」
「なっ、急に何言って――」
そう言うと、ラノイは男の方へ歩き、復元の魔法を唱え始めた。
「これでいいですかね」
すると男の腕と脚は元通りになっていた。突然の出来事に、本人はおろかそこにいる皆がポカンとしている。
次にラノイは皆の衣服に復元魔法を使い始めた。たちまち衣服は新品と同様になっていく。
「え、ちょ、何が起こって……」
「ふぅ、こんなところかな」
ゆっくりとではあるが事態を飲み込んだのか、さっきまで濁っていた皆んなの目は次第に輝きを取り戻していた。遅れて、路地を震わすような絶叫と歓声が飛び交い始めた。
「俺の腕と足が!」
「ママー! アタシの服ピカピカ!」
「おぉ……神じゃ、神の慈悲じゃあ」
「さて、ドゥール」
ラノイは改まってドゥールに話しかける。
「な、なんだよ」
「もうみんなのために盗まなくていいんだ。盗み、辞めてくれるね?」
「でも、そしたらどうやって食ってけば」
「大丈夫さドゥール。冒険者になって僕とパーティーを組もう」
「…………え?」
「薬草20本とってきました。精算お願いします」
「少々お待ちください」
受付嬢は慣れた手つきで薬草を数え始めた。
「確かに20本ありますね。ではこちら報酬です」
そう言ってラノイに手渡されたのは20枚の銅貨だった。誰でも出来る依頼のため報酬も多くはない。
しかし、ラノイは報酬をもらっても不満げな顔をしなかった。
「すいません、これも追加で」
そう言いながら森で拾った魔石を差し出す。
「確認しますね。……こちらの魔石はゴブリンのものですね。買い取りでよろしかったですか?」
「あ、はい」
「かしこまりました。ではこちらが代金となります」
受付嬢は銀貨を10枚ラノイへ渡した。予想よりも高価な額に「おほっ」と言う下品なリアクションをとってしまう。
とっさに手で口を隠し、急いで銀貨を回収する。
「それにしても、よく魔石なんて持ってこれましたね~」
「え?」
「一番出やすいゴブリンの魔石でも十数体倒して一個出るか出ないかの確率なんですよ。運がいいですね」
「ああ、まあ」
森の中で拾ったんです、とは言えなかった。なぜ森の中に落ちていたのかは謎だが、あまり深くは考えないことにした。
思わぬ臨時収入のおかげで、懐はだいぶ暖かくなっていた。
贅沢して高い料理を食べるか、はたまた武器や防具を新調するか、このまま貯金するか。有り余る選択肢にラノイは頭を悩ませる。
貨幣の入った袋を手の中でジャラジャラと動かしながら考える。すると、急に手の中からその重みが消えた。
はっとして辺りを見回す。ふと前方に猛ダッシュでかける少年の後ろ姿が見えた。
ラノイは直感的にその少年を追いかける。しかし走れど走れど追いつけず、それどころかついていくので精一杯だった。
「くっ、まだついて来る」
少年は路地に入り飄々と障害物を飛び越え奥へと消えていった。ラノイも見失ってなるものかと必死に後を追う。
「やった、これだけあればしばらくは……」
少年は袋の中を見て歓喜する。突如、首を何者かに掴まれた。
「つ……捕まえたぞ」
額に大粒の汗をかき、息も絶え絶えになったラノイだった。少年はその手を振りほどこうとするが、動かざること山の如しと言った具合にラノイの手は首を掴んで離さない。
「さあ、その袋返してもらうよ」
「……わーったよ」
不満げに少年は袋を返す。
「あれ、金貨が入ってないけど」
「知らねーよそんなの」
「じゃあ君のポケットの膨らみは何?」
「こ、これは」
「え、まじで入ってるんだ」
「おまえ! ハメやがったな!」
少年は大きなため息をつき、しぶしぶ金貨を返した。
「なあ、もう離してくれよ」
「まだだめ。第一、なんで人のものを盗ったんだい?」
「しょうがねーだろ。ここで生きる皆んなのためだ」
「みんな?」
「周り見てみろよ」
言われた通りまわりを見渡す。
皆着ている衣服はぼろく、家も簡素な作りだ。さっきまでいた場所、人とは明らかに異なっている。
「わかったか? これが俺たちの現状だ」
「でも、今まで働いたりはしなかったの?」
「働こうにも、あいつらロクな賃金くれやしない。だったら、盗んだほうがいい」
「もし、旅のおかたですか?」
路地の奥から誰かが話しかけてきた。見るとその男には片腕と片足が無かった。男は話を続けた。
「一応冒険者です」
「それは失礼。時に、その子――ドゥールを悪く思わないでくれませんか。私たちがこんなだから、ドゥールは仕方なくやっているんです」
「そ、そんなこと言われましても」
確かにここにいる人たちは老人や、子供連れや、負傷した冒険者などが多い。皆痩せこけており、目に生気がなく濁っている。
ラノイはもう一度周りを見渡し、何かを考えだす。
「……ドゥール、もう盗みはしないって約束できるか?」
「なっ、急に何言って――」
そう言うと、ラノイは男の方へ歩き、復元の魔法を唱え始めた。
「これでいいですかね」
すると男の腕と脚は元通りになっていた。突然の出来事に、本人はおろかそこにいる皆がポカンとしている。
次にラノイは皆の衣服に復元魔法を使い始めた。たちまち衣服は新品と同様になっていく。
「え、ちょ、何が起こって……」
「ふぅ、こんなところかな」
ゆっくりとではあるが事態を飲み込んだのか、さっきまで濁っていた皆んなの目は次第に輝きを取り戻していた。遅れて、路地を震わすような絶叫と歓声が飛び交い始めた。
「俺の腕と足が!」
「ママー! アタシの服ピカピカ!」
「おぉ……神じゃ、神の慈悲じゃあ」
「さて、ドゥール」
ラノイは改まってドゥールに話しかける。
「な、なんだよ」
「もうみんなのために盗まなくていいんだ。盗み、辞めてくれるね?」
「でも、そしたらどうやって食ってけば」
「大丈夫さドゥール。冒険者になって僕とパーティーを組もう」
「…………え?」
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