疼いて疼いて仕方ないのに先生が手を出してくれない

松原 慎

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日常編

ぜんぶ先生が悪い

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 そもそも先生のせいなんです。全ては先生のせいなんです。
 件の男に捨てられた後は泣いてばかりいて、成り行きでそのことを知った先生はよく慰めてくれていた。登校しても彼を見かけるだけで心がぐちゃぐちゃに掻き回される。思い出す、長い腕に包まれ抱きしめられたことを、熱い唇に撫でられたことを、骨ばった指で自分の身体すべてを明かされたことを。全てが全身を駆け巡り、立っていられないほどの悲しみに襲われて保健室に毎回逃げ込んでいた。
 先生の顔を見るといつも堪えきれずに涙が溢れた。ここでは泣いてもいいんだと安心して、悲しみを吐露しながらすべてを流していく。
 先生はそんな俺にいつもハンカチを貸してくれた。手渡すのではなくて、ハンカチで涙の跡を抑えて、俺に受け取らせる。自分でも持っていたけれど、それが嬉しくて先生の涙の拭き方が優しくて、いつもそれを素直に受け入れていた。
 しかし先生はある日、言ったのである。
「出雲見てると……ムラムラする」
 いつもぼーっとしていて、どこを見ているのかよく分からない。斜視なのだろうかと思っていたぐらいだ。けれどその時はソファで隣に座ってまじまじと俺の顔を見つめながら、そんなセクハラ発言をしたのだ。
「何言ってるんですか! キモいです」
 ドン引きして涙も引っ込み、少し後退して座り直す。けれども先生は膝に肩肘ついて頬杖をし、じーっとまさに穴があくほどじーっと見つめてくる。
 あんまり見るのでこちらも目が離せないでいると、今まで気にしていなかったが綺麗な顔をしていることに気がつく。色が白く黒々とした睫毛は長い。二重幅の広い瞼のせいでぼーっとした顔がさらに眠そうに見えるが、見ようによっては儚げな雰囲気へと変わるような。
「最近……忙しくて。風俗に、行けなくて」
「は?」
「家でオナニーしてると、出雲の泣き顔が…………抜ける」
 ゆったりとした口調で平然と言ってくるので聞き間違いかと我が耳を疑う。
「抜けるって……」
 何かの間違いですか? と続けようとするが、抜けると口に出しただけで恥ずかしくて押し黙ってしまう。先生は首を傾げる。
「イクってこと……昨日も、たくさん……出た」
 真顔で言う。なんの臆面もなく。
「き、気持ち悪いです……」
 訂正します、ちっとも儚げではない。
 ムラムラする程度で会話を終了してほしかったと心から思う。ちょっと意識した自分を馬鹿だと思う。
 面と向かうのが心底嫌になり、俯いて肩を落とす。帰ろうかなと思いながら先生を盗み見るとまだ見られてる。どれだけ見るんだろう。気持ち悪い。
 顔がたとえ綺麗であっても、前から思っていた。全然好みじゃないと。
 背は高すぎるしさらに痩せてるので竹節虫みたいだし、白衣の下に着てる服がいつもよくわからないし(今日の服はUMAと書かれたアルファベットの上に馬が飛んでるイラストが書いてある)、ズボンは丈が合ってなさすぎて足首丸見えだし。本当に全然好みではない。もっと筋肉質なスマートな人が良い。
 もうやめよう。変な誤解されても嫌だし気持ち悪いし。もう来るのをやめてしまおう。意を決して立ち上がる。
「も、もう俺で……ぬ、ぬ、抜かないでください。帰ります!」
 顔を見るのも嫌でそのまま足早に立ち去ろうとするが、ジャケットの裾がピンと引っ張られる。振り返ると思ったより先生との距離があり、その距離で腕が届くのキモいなと、もう何もかも嫌になっていた。
「約束……できない」
「え?」
「思い浮かんじゃうから……ごめん。今日も、抜くかも」
 今日も抜く。俺の泣き顔を思い出して?
 頭のなかで反芻して、腹の奥底から頭の先まで一気に何かが噴火するような、血が沸騰するような、とにかく今まで感じたことがないくらい恥ずかしくて、もう、もう、違う意味で泣きそうだった。頭が身体が混乱している。なんだろうこの感情。
「や、や……っ。やですっ! やだ……先生気持ち悪いです……っ!」
 気持ちが、感情の昂りが抑えきれず、半泣きになりながらその手を振り払いその場を去った。

 
 しかし帰宅してから気がつき愕然とする。先生のハンカチを持ったままだったと。
 紺色に、赤いラインの入ったハンカチ。
 こういうものは早く清算してしまったほうがいいと、その日のうちに洗ってアイロンしながら乾かすことにした。さっさと返してしまい、もう卒業するまで保健室の世話にはならないように気をつけよう。
 アイロン台の上にハンカチを広げ、正座をして向き合う。いつも姉達のブラウスや自分のワイシャツをアイロン掛けしているが、この作業は結構好きなのだ。角まできっちりシワ一つない様は綺麗だし、理想通り仕上がるととても気持ちがいい。できあがったものに満足して一人頷き、正座をしたまま丁寧に畳む。そうして通学鞄に入れようと手に取ったら、うちの家とは違う香りがふんわりとのぼってきた。
 あ、と鼻先をハンカチにそっと埋めると、洗濯したのにまだ先生の香りが残っている。先生のタバコの匂い。ほろ苦いバニラの香りがするのだ。
 先生、今日も俺で抜くのでしょうか。
 もしかしたら今頃、抜いていたりするのでしょうか。
 自分が性の対象として見られ、いわゆるオカズにされていると考えたら……胸が高鳴って腰が揺れた。正座を崩して、腰を回してしまう。それだけじゃ全然足りなくて、前を開いて男性器を取り出すとやっぱり立ち上がっていて。
「せんせい……」
 呼びながらそこを握る。ハンカチに鼻を埋めたまま、少し腰を浮かして上下に扱いてしまう。そこはどんどん硬さを増していく。
「せんせい……せんせい……」
 普段の自慰と全然違う。動きは単調なのに太ももが痙攣して震えるくらいに気持ちがいい。声なんかいつも出ないのに吐息が漏れ、先生に聞いてほしいと思ってしまったらもっと出た。
「あっ……あっ……せんせ、せんせ……おれのこと、みて……ください……」
 目が逸らせないほどじっと見られて。あんなの初めてだった。どんな感情で見ていたのだろう。ムラムラするって言ってたから、えっちしたいと思っていたのだろうか。俺とえっちしたいって……こんなところ見たいって……そんなふうに考えたら一気に絶頂感が増してくる。気が付けば俺も先生で抜いてしまってる。
「ん、ん、イク、いくいくいく、せんせ、せんせぇ……! 」
 ティッシュを取るのも忘れ、腰を浮かせたままビクビクとしながら、床に精液をビュッビュッと二回飛ばしてしまった。先生で頭がいっぱいだ。どうしよう。
 握ったままのハンカチを見つめる。とりあえず、とりあえずは明日これを返さなければ。保健室で先生に会ってこれを……オカズにしてしまったこれを返してしまわなければ。


 翌日の放課後、保健室に行ってみると先生はいなかった。誰もいないガランとした保健室はとても静かで、運動部の掛け声や吹奏楽部の音楽が遠い、別の空間から響くように聞こえてくるだけだ。
 もう二度と来ないと一度は思ったし、このまま机にハンカチを置いて去ってしまおうかなと思う。けれど昨日そのハンカチを握ってシたことを思い出すと名残惜しくなってしまって。
 先生の机は書類が乱雑に広げられていて汚い。これでは必要なものがどこにあるか分からないのではと心配になる。ハンカチもどこに置いていいのやら。
 椅子には先生がいつも着ている白衣が掛かっていた。このポケットにでも入れようか。でも先生のことだからこれもいつ洗ったのかわからないな……そんなこと思いながらも手に取ると、昨日よりも濃厚なバニラの香りが鼻腔をくすぐる。
 ぞわりと首の後ろを触られたような鋭い感覚がした。そしてそっと白衣に顔を埋める。
 先生の匂い――。
 しかし遠く遠く聞こえる喧騒とは違う、ガラリとリアルな音が耳に響いた。そして扉のほうからも先生の匂いが微かに漂ってくる。
 振り返れば先生が扉を潜って入ってくるところだった。
「いずも……?」
「先生! あ、違うんです、これは……」
 慌てて白衣を元の場所に戻して、歩み寄ってくる先生にハンカチを差し出す。
「ハンカチを、返しにきて……先生はどちらに?」
「たばこ」
 ハンカチを受け取り、書類の束の上に置く。それよりも、と白衣を羽織りながら問われた。
「何、してたの……?」
「あ、あの……それ、はっ……」
 昨日のことを思い出してました、なんて言えない。昨日のことって何かと聞かれたら、先生でオナニーしましたなんて答えられない。
 そんなことを考えるだけでドキドキと心音がうるさくなる。きっと週に何回も抱かれていたのに急にそれがなくなったから、すぐにそんな気分になってしまうんだ。溜まってるんだ。いや射精はしたんだけど。でもきっとそれだけ。
「顔、真っ赤。熱、はかる?」
 先生が腰を屈めて前髪の下のおでこに触れる。いつも遠い唇が近い。もうなんだかよくわからないけれど我慢がきかない。
 熱はなさそうと傾げる首に腕を絡めて抱きついて、その唇を奪った。タバコくさい。でも嫌じゃない。
 身体が熱をもって苦しくて舌を入れようとすると、先生は俺の両肩を掴んで体を引き剥がした。
「いずも」
「せんせい、やです、やめたくないです……」
 もう一度口付けようとするが、避けられる。なんで、と焦ってしまう。先生がもっとほしいのに先生はもう俺でムラムラしていないだろうか。
「先生、先生、あの……」
「どうしたの」
「俺も、その……ムラムラします……なんか変な感じで……先生としたい、です……」
 頭が、もう脳みそが熱い。恥ずかしいからなのか、欲情に熱で浮かされてるのかはよくわからない。とにかく欲しくて先生の胸に擦り寄って、手でほしいところを探ろうとするが、その前に自分の腹を圧迫する大きいものに気がついてしまう。その硬さが制服越しに腹に当たり、早く触りたくて手を伸ばす。
 そこを撫でておねだりしたら、あの人は気まぐれに抱いてくれたから。
「待って……無理」
「え、なんで……」
 無理、と完全な拒否の言葉に冷水を頭からかけられた様な衝撃を受ける。そして自分の行動が恥ずかしくていたたまれなくて、瞬時にその場にしゃがみこんで丸くなった。
 膝をギュッと抱いて先生を見上げるが、いつも表情の乏しい彼が何を思っているのかなんてわからないし、そもそもほとんど顎しか見えていない。
「せんせぇ……」
 拒否された。無理って言われた。
 昨日から感情の揺れが激しく、視界が滲んで次の瞬間にはポロポロと涙がこぼれ落ちた。そうだ、最近ずっと涙腺がゆるいんだった。特に先生の前では。
「泣かないで」
 先生は一緒にしゃがんでくれた。顔を上げるとハンカチではなく人差し指でそっと、瞼から落ちようとする涙を掬った。そしてこっちに来て、手を取って一緒に立ち上がらせると、ベッドを囲うカーテンの中へ誘導する。
 入った途端、体を引き寄せ抱きしめられた。
 しかしすぐ体は離れる。両肩は握られたまま。
「まず……人に見られるとこで、だめ」
「あっ……ごめんなさい」
 よく考えたら廊下からも外からも丸見えだった。
「そして……きみは、生徒だから」
 それはそうだ。先生は先生なのだから、俺は生徒だ。しかしそれについては反論がある。それならば昨日の先生の発言はやはりセクハラだしアウトだからだ。腹が立って床を睨みながら刺々しい声が出てしまう。
「だって先生があんなこと言うからいけないんです」
「あんなこと」
「抜くって……」
「あぁ……」
 なるほど、と言わんばかりに納得したような声を出す。マイペース過ぎて調子が狂う。こっちは昨日から先生に言われたことが頭から離れないのに。
「君が……ハヤトハヤトって、うるさいから……」
 ハヤトというのは俺を捨てた男の名前だ。
 先生はむくれて顔を顰め、子供みたいな顔をしている。
「嫉妬……ですか」
「そう……かも。わからない。でも、君で抜いたのは、ほんとう」
「先生は俺のことが好きなんですか?」
 抜くとか出たとか、そういう話になるからいけない。
 先生は優しい。俺が泣いていると事務仕事をする手を止めて、落ち着くまで隣で待っていてくれる。何か言ったりするわけではないけれど、ハンカチを貸してくれて。俺をまっすぐに見つめてくれる。それがもしも好意からくる行動ならばもっと嬉しい。
「君を見てると……」
 じっと遠慮なくこちらを見下ろしながら、先生は口を開いた。保健室の中は明るいのに先生が目の前にいると陰って暗い。
「かわいい、て思う。好きな人を……思って、泣いて。一生懸命で。僕にはそういうの、ない。人を好きになる、とかも……よくわからない」
 先生の割にはよく喋るなと鼻をすする。でもこれは文脈からしてお断りな気がする。人を好きになることがわからない、か。それで風俗なんですかね。忙しいから手頃な存在をネタにしたわけですか、はいはい。
 完全にまた自虐モードに入り始めて目を伏せて顔を逸らした。また傷つくだけならば変なことを聞かなければよかった。自分なんて誰にも特別好かれることはないのに。
「他の男の事を思って、いつまでも泣いてる君に……こう、もやもや……むかむか……と。でもいつもみたいに、めんどくさい……とかじゃなくて」
 顔を横に向けたままの俺に先生はちゃんと聞いて、と呼びかける。
「僕のこと……そんなふうに、思ってほしい……僕のことを話して、泣いたり、笑ったり、ほっぺを赤くしたり……してほしい」
 話すのが上手くないな。何を言ってるんだか、と思ったが、聞いてるうちにその真意が分かってきて、頬が火照ってくる。素直に照れてしまう。なんてたどたどしい告白。
 先生は暫くいつもの半目のままでいたが、突然目をぱっと見開いた。それでも一瞬ですぐにまた半目モードに。
 なんなんだ一体と思っていると、先生は眉間に皺を寄せて言うのだ。
「まさか…………これが、恋?」
「自覚なく嫉妬していたんですか」
「うん」
 変な人。呆れた人。
 へー、ほー、なるほどーってひとりで頷いているけれど、自分で納得するだけではなくこちらにももっと目を向けてほしい。俺のこと好きなんでしょう。
「先生」
 目の前の胸板に抱きつこうとしたら、また肩に置いてある手でグイッと体を押し返された。もう一度挑戦するが結果は同じ。
「なんでですか! 酷いじゃないですか」
「だめ」
「俺でムラムラするんじゃないんですか?」
 抱きつかせてくれなくてもやれることはある。白衣の下のシャツ越しにお腹から腰のあたりへ腕を絡めて撫で回す。腰からゆっくりと前の方へ手を這わせるときには、お腹より少し下の方へ指先を向けて……誘うためにしていることなのに自分のお腹がきゅんとする。
「俺はムラムラしてるんです……せんせい、なんとかしてください……お願いしますっ……」
 お互いに何も言わず、暫く見つめ合い……いや、俺は睨んでいるかも。とにかく焦れったくて、手を上へと滑らせる。このマイペースを動揺させてしまいたい。しかし親指で摩るように胸の先端を探し始めると、先生にその手を握り静止された。先生は口をへの字にしてややムッとした顔。
「だめ」
「俺とするの嫌ですか」
「そうじゃなくて」
 握られた手をそっと天に向けて開かされ、先生はその指を一本一本丁寧に親指で撫でていく。第二関節から指の先まで、ゆっくりと触れていく。そして最後に手のひらをなでられ、くすぐったくて身震いした。
「きみは……生徒だし」
 手を裏返して、今度は甲に浮かぶ骨から関節を指の先までまた丁寧に一本ずつ指が滑っていく。俺がしたようにもっと直接的に煽るように体に触れているわけではないのに、ぞくぞくと堪らない気持ちになるのは何故だろう。先生の指から目が離せない。
「いずもは、また、セフレになりたいの?」
 痛いところを突かれ、弾かれるように先生の顔を見上げた。いつものやる気のない顔よりわずかに微笑んだ顔がある。
 もう体の関係だけなんて嫌だ。
 弄ばれて残ったのは、愛されなかった空虚感と、やたらと欲しがるこの身体だけ。
 再び俯いて、首を横に振った。涙腺が緩むので瞼を擦りながら。
「僕はきみが……好きだけど。いずもは、ちがうでしょ」
「ごめんなさい」
「いい。好きになってもらう」
 先生は撫で終わった手の全体を名残惜しむように包んで、中指の爪の先をちゅっと口付けた。その唇の付け方がなんだが色っぽくて胸元に力を込めてしまう。そこを舐められているのを考えて、尖らせてしまう。もうやだこの身体。
「先生の言いたいことはわかったんですけど……」
 白衣の襟元を縋るように掴み、涙目で問いかける。
「身体がじんじんするのはどうすればいいですか……? このままじゃハヤトのこと思い出しちゃいます。ハヤトにされた気持ちいいこと思い出してしちゃいます……」
 だから、先生がなんとかして。
 そう皆までは言わないけれど、上目遣いにそして真摯に見つめ、訴えかける。ここまで言ってもらって本当に自分で情けないと思う。馬鹿な下半身だと思う。でもこのまま放置に耐えられる堪え性はない。
「わるい子」
 握っていた手を離し、頬を軽く抓られる。ちっとも痛くない。
 その指はフェイスラインをなぞり、首筋に触れる。あ、と声を漏らすと先生はため息をついた。吐息が熱い。
「大人を煽って。いずもは、わるい子だね」
「ごめんなさい」
「横になって」
「え?」
「早く」
 いつもまったりしている先生の空気が少し張り詰めているように感じる。時計の針が少し早くなったような変わり映え。横になったら襲われてしまうかも。そういえばこのベッドでハヤトに抱かれたことがある。あの思い出が先生に塗り替えられてしまう。
 嫌だと思ったけれどその思い出を残したところで何にもならないのも事実だった。緊張しながらもベッドに仰向けに横たわる。
 しかし先生はベッドには来ず、一度カーテンの外へ出て椅子を持ってきた。そしてそこへ足と腕を組んで座る。
「自分で……できるよね。見ててあげるから、して」
 ついさっき無理と言われたことを反芻しながらもその発言に目を丸くした。
「え、やです。無理です、そんな恥ずかしいこと……できません」
「僕は……した。昨日も。いずもで。できるよね?」
「あっ……や……」
 先生も昨日したんだ。ハンカチの匂いを嗅ぎながらオナニーしたことを思い出して体のあちこちが熱を持つ。もうやだ。腰を上下にへこへこと動かして、触りたくて触りたくて仕方ない。
 先生を見ればまた射抜くようにこちらを見ており、もうこんな恥ずかしいところを既に見られてると悟る。
 喉を鳴らして唾を飲み込み、ズボンに手をかける。ズボンと下着をずらして熱く張り詰めた男性器を取り出すと、外気に晒されたそこはピクピクと震えている。
 自分の息が荒く響いてうるさい。はぁ、はぁ、と息を切らしながら根元を握り、上へと擦り上げた。
「あぁっ……あ、あ、あ、あ」
 自分を焦らすこともできず、そのまま何度も何度も擦って扱く。気持ちよさに背を反らし、腰が引けて力が入る。最初は恥ずかしいと思ったのに触ったらもうだめで、必死に自分の性器を扱き続けた。
「気持ちいい?」
「あ、あ、せんせぇ、きもちいい、きもちいです、あ、あ」
「どうなってるの……?」
「いっぱい、いっぱい、ぬれてます……っ、しゃせーしたみたい、いっぱいぬれて……きもちいいですっ……」
「えっち。ほんと……えっち」
「ごめんなさ、ぁ、あっ、ごめんなさい、は、あぁっ」
 ただただ馬鹿になったみたいに激しく擦りあげているだけなのに気持ちよくて気持ちよくて、口も閉じられなくてみっともなく喘ぐ。喘がされてるのではなく、自分でしてこんなになってしまうなんて、本当になんていやらしいんだろう。こんな自分に興奮する。
 えっちな自分に興奮してごめんなさい。
「せんせ、も、イッていいですか? あ、あぅ、んっ、出しても、いい?」
「え、だめ。止めて」
 なんで……?
 困惑しながらも素直に手を止めると、先生は椅子から離れてベッドに片膝をついた。ギシッと軋む音が腰に響く。手は出さないって言ったくせにズボンと下着を膝までずり下ろし、四つん這いになってと指示を出す。
 もう何も考える頭もなく、言われたままに四つん這いになる。後ろから視線を感じむず痒い気持ちでいると、凄いと感嘆の声が漏れたのが聞こえた。
「出雲のおしり……女の子みたい……縦に、割れてる」
「あ、やだ……やめてください、恥ずかしいです」
「それに……口が、ぱくぱくしてる。中……見えそう。こんなお尻、してたんだ……?」
「せんせ、も、やです……っ……言わないで、やぁ……いじわるしないで……ください……」
 我慢汁がだらりと垂れてシーツに染みを作っている。触らないで観察だけされて生殺しがすぎる。でも見られるのも気持ちいい。
「指が入るとこ……見せて」
「うぅ……」
 上着のポケットから小さなクリームケースを取り出す。震える手でそれを開け、中に入っているワセリンを指で掬いとった。少し体を反らして背中からお尻の割れ目に指を滑らすと、ポケットからコンドームも落ちたのが見える。そんなことはお構いなしに尻穴の入口を揉んで馴染ませてから、ゆっくり、ゆっくり指を入れていく。
「あ……あ……」
 先生の顔が近いのがわかる。長い前髪の先が時折お尻の上の方をさわさわとかするのだ。
 こんなに近くでこんなに恥ずかしいところを見られてる。
 興奮してもう何が何だかわからない。おしりを慣らす焦れったさだけでは飽き足らず、枕に顔を横向きに沈め、前から男性器を扱く。まるで絞り出されたかのように大量の我慢汁が漏れた。もう射精してしまっているみたいだ。
「すんなり……入るね。いずもだけ……? いずもがえっちだから?」
「や、そんな……ちがいます、そんなんじゃ……」
「こんなもの……持ち歩いてるのに?」
 落ちたままのクリームケースとコンドームを拾い上げ、先生は自分の白衣のポケットにしまい、没収、とつぶやく。
「まだ、期待してる」
「そんなんじゃ……」
 そんなんじゃないと言いたいが、事実期待して毎日持ち歩いているものだった。いつハヤトにまた求められても応じられるように、俺はまだ彼に持たされていたその二つをポケットに忍ばせている。
「むかつく」
「あっ……!」
 大きな手がペちっと優しくおしりを叩く。そしてそのまま長い親指で穴を広げるように尻肉を引っ張る。熱いため息がかかってピクリと震えると、先生はすぐに手を離した。
「続けて」
「あの……ごめんなさ……っ」
「続けて」
「はい……」
 ピシャリと突き放されたように言われて泣きそうになる。先生はいつも優しくて怒ったりしないから。でも身体の熱が逃げてないのも確かで、その悲しみは自分を慰めることで封じ込める。
「あっ……ん、ん……」
 ゆっくりと外側に向かって穴を揉みこんで、少し入口を出し入れする。そして指を増やして同じことをもう一度。
「中、どうなってるの」
「あっ……あの、中……今拡がって……んん……この辺りに、あの、気持ちいいところが……あぁっ!」
 指先が少し触れただけで背筋に電流が走る。はぁ、と息を吐いて逃し、今度は指の腹でゆっくり優しく押していく。男性器もゆっくり同じリズムで扱く。
「あ、あ……ああ……せん、せ……? いま、こすってるのが、ぁっ、ぜんりつせん、です……ここ、で……おちんちんも、きもちよく、あ、なっちゃいます……」
 本当に、本当に気持ち良い。前立腺なでなでしながらちんちん扱くの気持ち良い。何とか説明したものの、その後はあーあー、と馬鹿みたいな声が頭から抜けていくように漏れ出て恥ずかしい。でもそれすらもどうでもいい。
「きもちい……きもちいー……あぁ、あぁ……きもちいい……せんせぇ……」
 背後で唾を飲み込む音が大きく聞こえる。先生の顔は見えないけれど興奮しているんだ。きっとこんな俺の姿を見てちんちん立ってるんだ。入れてしまえばいいのに。
 本当は欲しいけど、先生のことを思うとますます中が切なくなった。
 先生、我慢しているんだ。泣き顔くらいで抜いちゃうのにこんなところ見て。きっと今日も俺で抜いてしまうんだ。本当は入れたい、精液かけたいって思いながらきっと一人で出すんだ。
 やばい、そんなの……凄く凄く興奮する。
「せんせい……せんせぇ……おれで、ぁ、ん、おれで……きょうも、いっぱい出してッ、くださいね……っ」
 中を擦る指が強くなる。ぐりぐりと押し付け、連動して尿道がビクビクする感覚に襲われる。そこを外からもぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅと音を立てながら扱きあげる。
「あ、あ、あ、せんせいっ、せんせい……! でちゃ、でちゃう……いっちゃう、いっちゃいます、いっていいですか、あ、や、も、あぁっ」
「いいよ」
 先生の手がまたおしりに触れて、すっと太ももまで撫で下ろす。たったそれだけのことでもう、もう、だめだった。
「イクとこ、見せて」
「あ、あ、いくっ、あっ、せんせい、せんせぇ、あぁぁっ!!」
 排出とともに、辛うじて四つん這いのように保っていた体はずるずると落ちてベッドに沈んでいく。そのまま出してしまった精液が太ももを濡らす。シーツを汚してしまった。学校の公共物なのに。
「あー……無理」
 いつもより一オクターブほど低い声を出しながら、先生は元いた椅子にどすんと勢いよく座り込んだ。そして座ったばかりなのにまた立ち上がる。
「トイレ」
「えっ……先生待って、このままじゃ……」
「休んでて……戻ってくるから。無理。トイレ」
 まだぼんやりする視界で確認した先生は、表情の乏しい先生は、参ってしまったというように首を摩りながら、足早に去っていった。
 あれは完全に動揺している様子だ。そうか、トイレ。
 事情を理解してふふっと声を出して笑ってしまう。俺の勝ち、ですね。先生。


 いい顔して戻ってきた先生とベッドの後片付けを終え、いつものソファに座っていた。先生は今日中に終わらせなければいけない書類があるらしく、デスクについている。
「先生、煙草は何を吸っているんですか」
「キャスター」
「その匂い好きです」
「うん……よかった」
 上履きを脱いでソファの上で膝を抱えて座り、忙しそうな背中を見つめる。また、遠くから吹奏楽部の音楽が聞こえる。この曲はなんだっただろう。確か、去年流行った歌だ。片思いしている相手に想いを打ち明けられない歌。別に好きではないけどそこかしこで聞こえてきてその歌詞に悲しさを通り越して嫌気がさしていたことを思い出す。
「先生、卒業したら抱いてくれますか。俺が生徒じゃなくなったら」
 返事はない。背中からはただペンを走らす音だけがする。
「その……世間一般的に。これくらい好意があれば、お付き合いとかしているものだと思います。先生にちゃんと、好意があります」
 ペンの音が一瞬止まる。しかしまたすぐにペンは動き出す。そのままその背中は語り出した。
「僕と……恋人になって。もし彼に、誘われたら。きみは彼とする……と思う」
「それは……」
 否定できない。というより肯定しかできない。多分すぐに飛びついてしまう。嫌だともう縛り付けないでくれと言いながら大層喜ぶ自分が容易に想像できる。
「無理」
 また一言、そんな言葉で片付けて。
「無理って言わないでください。もう嫌いです、先生なんて」
 むくれたってまた返事はなし。酷い、酷い大人。膝を抱えて顔を突っ伏して、いじけてしまう。あの彼にこんな風にしたことはない。こんな態度をとったら舌打ちをされて帰されてしまう。
 でも先生は、終わったとため息をつくと、近づいてきて俯く後頭部を撫でてくれた。
「ちゃんと……好きになってほしい」
 俯いたまま、こくんと頷く。そんな俺を見て、いいこ、と笑って耳元に唇を寄せて囁く。
「したい時は……また見てあげる」
 離れていく気配を感じながらも、体温が上昇するのをガンガンに感じる。顔があげられない。でもきっと露出している首の後ろも、耳も真っ赤になってる。とても熱い。
 もう帰りな、と言いながら先生は書類片手に保健室を出た。けれどもまだもう少し、俺はこの場から離れることができなそうだった。
 ぜんぶ、ぜんぶ、先生のせい。
 

 
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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

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