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ヴォルフィ視点
27 薬師ヴォルフィの理想と現実・その1 ①
ヴォルフィは王都の端に店を構えた。人狼であることがバレて、付き合っていた女性から去られてしまったため、所帯を持つために貯めていた金をそのまま開店資金に充てたのである。結婚後ある程度生活が安定してから夢を叶えようと思っていたので、夢の実現の方が早まっただけではないか、とヴォルフィは自分に言い聞かせた。
客が誰も来ない。あまりにも暇で、会員登録用の記入用紙を作ることにした。囲い込み戦略である。
結局一日目は来客が一人もないまま閉店した。
二日目、やはり人が来ないので、ヴォルフィは別の特典を考えていた。少し厚めの紙を小さく切り、線を引く。店の看板の意匠に使っているステレラの花の印も彫った。十個押印を集めたら少し割り引くというのはどうだろう、と考えたのだ。
「宣伝、するべきだったかな……」
三日目、ヴォルフィは閑古鳥の鳴く声が聞こえる気がした。幻聴か。薬局の経営は計画性に乏しかった。本来ヴォルフィは慎重な性質で、もっと綿密に計画を立てようと思っていたのだが、失恋して自棄と勢いで行動してしまったためだ。一応、近辺に薬局がないか程度は下調べをした。利便が悪いとはいえ王都なので、ヴォルフィの所持金では精一杯の立地だった。だが、やはり不便なところは人も来ないのだ。
「薬って普通の人は調子が悪くならないとなかなか買わないものだしなあ……。いや、むしろ本当に具合が悪かったら医者のところへ行くだろうし……」
もっと慎重に事を運ぶべきだった。振られた傷を忘れようとして無茶なことをするからこういうことになる。ヴォルフィが自嘲気味に笑っていると、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃい、ませ」
「ちょうどいいところに薬局があって助かった。お兄さん、傷薬ある?」
声の主は警邏隊の制服を着た体格のいい男だった。顔は人間だが、茶色い大きな垂れた耳とふさふさのしっぽがある。おそらく犬の獣人だろう。彼は左の肘から血を流していた。
「どうぞおかけください。すぐに消毒します」
ヴォルフィは椅子を勧めると、店の奥へ消毒のための道具と薬を取りに行く。
制服の袖をめくってもらうと、思っていたよりも傷は広範囲だった。ただ、やや流血は多いものの擦過傷で、縫うほどの深さではない。ヴォルフィは綺麗な水で汚れを丁寧に流し、消毒をし、軟膏を薄く塗り、綿紗を当て、包帯を巻いた。
「今まで薬を飲んで痒くなったり気分が悪くなったりしたことはありますか?」
「いや、ない」
ヴォルフィはもう一度店の奥に入ると、水が入ったコップと粉薬を一包、盆に乗せて戻ってきた。
「化膿止めです。どうぞ」
「ありがとう。……うわ、苦っ!」
「仕方ないんですよ。薬を小腸で吸収させるために溶けにくい苦い物質を使うことになりますし、舌の味覚神経を刺激して唾液や胃の分泌を」
「いや、そういうのはいい」
警邏隊の獣人の言葉にヴォルフィは説明をやめる。丁寧に説明するのが親切かと思い、つい喋りすぎてしまった。
客が誰も来ない。あまりにも暇で、会員登録用の記入用紙を作ることにした。囲い込み戦略である。
結局一日目は来客が一人もないまま閉店した。
二日目、やはり人が来ないので、ヴォルフィは別の特典を考えていた。少し厚めの紙を小さく切り、線を引く。店の看板の意匠に使っているステレラの花の印も彫った。十個押印を集めたら少し割り引くというのはどうだろう、と考えたのだ。
「宣伝、するべきだったかな……」
三日目、ヴォルフィは閑古鳥の鳴く声が聞こえる気がした。幻聴か。薬局の経営は計画性に乏しかった。本来ヴォルフィは慎重な性質で、もっと綿密に計画を立てようと思っていたのだが、失恋して自棄と勢いで行動してしまったためだ。一応、近辺に薬局がないか程度は下調べをした。利便が悪いとはいえ王都なので、ヴォルフィの所持金では精一杯の立地だった。だが、やはり不便なところは人も来ないのだ。
「薬って普通の人は調子が悪くならないとなかなか買わないものだしなあ……。いや、むしろ本当に具合が悪かったら医者のところへ行くだろうし……」
もっと慎重に事を運ぶべきだった。振られた傷を忘れようとして無茶なことをするからこういうことになる。ヴォルフィが自嘲気味に笑っていると、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃい、ませ」
「ちょうどいいところに薬局があって助かった。お兄さん、傷薬ある?」
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「どうぞおかけください。すぐに消毒します」
ヴォルフィは椅子を勧めると、店の奥へ消毒のための道具と薬を取りに行く。
制服の袖をめくってもらうと、思っていたよりも傷は広範囲だった。ただ、やや流血は多いものの擦過傷で、縫うほどの深さではない。ヴォルフィは綺麗な水で汚れを丁寧に流し、消毒をし、軟膏を薄く塗り、綿紗を当て、包帯を巻いた。
「今まで薬を飲んで痒くなったり気分が悪くなったりしたことはありますか?」
「いや、ない」
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「化膿止めです。どうぞ」
「ありがとう。……うわ、苦っ!」
「仕方ないんですよ。薬を小腸で吸収させるために溶けにくい苦い物質を使うことになりますし、舌の味覚神経を刺激して唾液や胃の分泌を」
「いや、そういうのはいい」
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