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本編・取り違えと運命の人
034 夏の嵐 ③
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夕飯の時はその日にあったことを話題にする。たわいないことを。
「今日、ものすごく色気のある男性が俺の職場に来てね。事務の奥様方がざわついてたよ。普段冷静に淡々とお仕事こなされてるから、新たな一面を見た感じ。なんでも、ここ一か月くらい、その男性が来るたび、そんな風なんだって」
「ふうん」
「……そういう男性には興味ない?」
あまりにも私の反応が薄いからか、リカルドが訊ねてきた。気にしてほしいのかしら。いつもは私が男性の話に食いついてくると、割と嫉妬するのにな。
「うん。全っ然興味ない。というか、むしろ鬼門。嫌な思い出しかない」
「嫌な思い出?」
「父の浮気で両親が離婚した話はしたでしょ?」
「あ……」
「それ、愛人の妊娠が判明したからなんだけど。私の父、自分から女性をひっかけることはなかったんだけど、優柔不断で、押しに弱くて、ムダに顔はいいから、それまでもよく気の強そうな女の人に迫られてた。ついに手を出したってんで、母、即ギレ」
「ご、ごめん……」
「あ。別に怒ったり悲しんだりしてる訳じゃなくて! ネタとして昇華してるよ、もう。で、父と違って、兄は本気で女癖悪くて、ある程度美人で巨乳の女性がいたら、息を吐くようにコナかけてた。で、上手くやればまだマシなのに、何股もしてるのがバレて、何度も実家に女性達が押しかけてきて大変だった」
「あああ……」
「そんな感じだったから、色気のある男性には、ぴくりとも反応しない」
リカルドが「また地雷踏んだ……」みたいなしょっぱい表情をしているので、つい笑ってしまう。
「だから、来てくれたのがリカルドで、よかったよ」
「確かに、俺、色気とかないな」
「ううん、そういう意味じゃなくて。リカルド、誠実だもの。私はそういうのがいい」
「ジュリエッタ……」
「刺激なんか全然いらないし、リカルドのおかげで穏やかな毎日を送れてて、感謝してるわ」
「俺も! ジュリエッタと一緒にいられて、すごく幸せで感謝してる!」
リカルドは結構甘い言葉をたくさんかけてくれるけど、兄みたいに心にもないことを言ってるんじゃないって、心底信じられる。
「やっぱり、その笑顔かなあ」
「うん?」
初めて会った日から見せてくれてる、おひさまみたいな笑顔。
「リカルドは本心から言ってくれてるって信じられるし、安心する」
「もちろん本心から言ってるけど、信じてもらえてよかった」
言葉も大事だけどふれあうのも大事だよね、と、丸め込まれ、昨夜はいつもより念入りに抱かれてしまった。正直眠い。
「ジュリエッタ、おはよう」
「……おは、よう」
「あさごはん、つくる……」
「寝てていいよ? 夕飯の残りあるし」
「……そうしたいのはやまやまなんだけど、きょうはわたしも、のうひんあるから、おきる……」
「ごめんね。無理させちゃった」
リカルドがちょっと申し訳なさそうな顔してる。
「えっと、じゃあ、ちょっときょうりょく、して……」
ベッドから引きずり出して、と手を出す。
「ええと、引っ張り出すの?」
「うん……」
「そんな乱暴なことしたら、ジュリエッタの腕、抜けちゃう」
リカルドは私を横抱きにして、ベッドから出した。予想外で思わず声が出る。
「ひゃあ!」
「面白い鳴き声」
リカルドがくすくす笑うので、仕返しに唇を奪った。
「ひゃ、あ」
「面白い鳴き声」
思わず見つめ合って笑う。びっくりさせられたのと、あまりにもくだらない会話で、すっかり目が覚めた。
私にとって会話って、必要だからするものだったんだけど。リカルドが来てくれてから、こういうくだらない会話が激増して、このくだらなさがなんだか無性に愛しくて、会話の概念がすっかり変わってしまった。会話、苦手だったのに、今はとても楽しい。
「今日、ものすごく色気のある男性が俺の職場に来てね。事務の奥様方がざわついてたよ。普段冷静に淡々とお仕事こなされてるから、新たな一面を見た感じ。なんでも、ここ一か月くらい、その男性が来るたび、そんな風なんだって」
「ふうん」
「……そういう男性には興味ない?」
あまりにも私の反応が薄いからか、リカルドが訊ねてきた。気にしてほしいのかしら。いつもは私が男性の話に食いついてくると、割と嫉妬するのにな。
「うん。全っ然興味ない。というか、むしろ鬼門。嫌な思い出しかない」
「嫌な思い出?」
「父の浮気で両親が離婚した話はしたでしょ?」
「あ……」
「それ、愛人の妊娠が判明したからなんだけど。私の父、自分から女性をひっかけることはなかったんだけど、優柔不断で、押しに弱くて、ムダに顔はいいから、それまでもよく気の強そうな女の人に迫られてた。ついに手を出したってんで、母、即ギレ」
「ご、ごめん……」
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「あああ……」
「そんな感じだったから、色気のある男性には、ぴくりとも反応しない」
リカルドが「また地雷踏んだ……」みたいなしょっぱい表情をしているので、つい笑ってしまう。
「だから、来てくれたのがリカルドで、よかったよ」
「確かに、俺、色気とかないな」
「ううん、そういう意味じゃなくて。リカルド、誠実だもの。私はそういうのがいい」
「ジュリエッタ……」
「刺激なんか全然いらないし、リカルドのおかげで穏やかな毎日を送れてて、感謝してるわ」
「俺も! ジュリエッタと一緒にいられて、すごく幸せで感謝してる!」
リカルドは結構甘い言葉をたくさんかけてくれるけど、兄みたいに心にもないことを言ってるんじゃないって、心底信じられる。
「やっぱり、その笑顔かなあ」
「うん?」
初めて会った日から見せてくれてる、おひさまみたいな笑顔。
「リカルドは本心から言ってくれてるって信じられるし、安心する」
「もちろん本心から言ってるけど、信じてもらえてよかった」
言葉も大事だけどふれあうのも大事だよね、と、丸め込まれ、昨夜はいつもより念入りに抱かれてしまった。正直眠い。
「ジュリエッタ、おはよう」
「……おは、よう」
「あさごはん、つくる……」
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「……そうしたいのはやまやまなんだけど、きょうはわたしも、のうひんあるから、おきる……」
「ごめんね。無理させちゃった」
リカルドがちょっと申し訳なさそうな顔してる。
「えっと、じゃあ、ちょっときょうりょく、して……」
ベッドから引きずり出して、と手を出す。
「ええと、引っ張り出すの?」
「うん……」
「そんな乱暴なことしたら、ジュリエッタの腕、抜けちゃう」
リカルドは私を横抱きにして、ベッドから出した。予想外で思わず声が出る。
「ひゃあ!」
「面白い鳴き声」
リカルドがくすくす笑うので、仕返しに唇を奪った。
「ひゃ、あ」
「面白い鳴き声」
思わず見つめ合って笑う。びっくりさせられたのと、あまりにもくだらない会話で、すっかり目が覚めた。
私にとって会話って、必要だからするものだったんだけど。リカルドが来てくれてから、こういうくだらない会話が激増して、このくだらなさがなんだか無性に愛しくて、会話の概念がすっかり変わってしまった。会話、苦手だったのに、今はとても楽しい。
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