【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

文字の大きさ
72 / 201
本編・取り違えと運命の人

071 来る年 ④

しおりを挟む
「でも……ジュリエッタと出会ってから、そんなこと、ただの一度も思ったことなくて」

 私の目を見て、キスを落とし、ゆっくりと動き始めたリカルドが続ける。

「すごく……満たされてるし、楽しくてたまらないんだ」
「うん、私も」
「もう、空虚な思いは絶対させないし、しない」

 そのまま少し動きを速めていく。

「ジュリエッタ。君は俺の隙間を埋めてくれただけじゃなく、なんだか楽しいことを増幅してくれてて。…………ないんだ」

 最後は私に話しかけたのではないかもしれない。でも、小さな声だったけど、聞こえた。

『もう、絶対に、失いたくないんだ』。

 さっきの私と同じことを言ってるはずなのに、なぜ痛々しく聞こえてしまうんだろう。
 そのうち、リカルドは息が上がるほど動きを速め、イクッ! と言って達した。いつもと違って、息を荒げたまま顔を伏せている。
 背中を優しくなでるうちに、息は整ってきたけど、顔は伏せられたまま。

 こんな時に言うといいような、気の利いた台詞も、きっとなにかあるんだろう。私はそんなの知らないし、ひらめきもしない。でも、リカルドはなにかに焦って怯えているように見える。
 このまま取り返しのつかないことになったら絶対に嫌で、正解はわからないけど、正直な思いを伝えた方が後悔しない気がして、口を開いた。

「私、リカルドが元気で、笑って、喜んでくれるのが、ほんとに嬉しいんだよ」

 私の言葉にリカルドがゆっくりと顔を上げる。
 少し気になっていたこと。リカルドは確かに気配りの人だけど、なんでやたら私のことばかり優先したり、プレゼントをしたがるんだろうって。無意識かもしれないけど、私を満足させることや物を与えることで、自分につなぎとめようとしているの? ちょっとそんな気がして。でも、そんなの、いらないのに。

「あなたがそばにいてくれることが、一番大事なの」

 私はそう言って、じっとリカルドを見つめた。

「リカルドが好きよ。一緒にいるだけで楽しいし嬉しいの。それだけで充分幸せだから、リカルド、わざわざなにかしなくていいんだよ。いてくれるだけで」

 リカルドの目が潤んでいるのは、きっと気のせいじゃない。しばらく黙っていたけれど、もう一度私の胸に顔をうずめ、かすれ声でこう言った。

「……ほんと、ジュリエッタには、かなわないなあ。なんで、いつも、俺が一番ほしいものをくれるんだろ…………」

 リカルドの頭をなでるようにかき抱くと、リカルドは、甘えるように、しがみつくようにして、されるがままになっていた。
 遠くで鐘の音が響く。

「あ、新年の鐘……」
「……もう新しい年になったの?」
「うん。お祝いの鐘だから」

 リカルドがもう一度顔を上げる。目が合うと、笑顔になった。もう、すっかりいつものリカルドで、本当に安心する。

「今年も、どうぞよろしく。去年よりもっともっと楽しく過ごそう」
「こちらこそ、今年も、これからも、どうぞよろしく」

 どちらからともなくキスを交わした。

「「気が合うね」」

 あんまりぴったりだったので、思わず二人で笑った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...