【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

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後日譚・取り違えたその後の二人

113 その闇に射す光 ①

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 モノクロの世界が彩られた気がした。

「ジュリエッタ?」

 背の高い若い男の人が私に訊ねてくる。
 気持ち悪くない。
 普通、男の人は私への欲望をあらわにした醜い渦に取り囲まれているか、逆に私に怯えて逃げたい刺々しい嫌な気を発するか、そのどちらかなのに。
 ルーカにはそういった負のオーラはかけらもなくて、伝わってきたのはやわらかな光のような、天国のような、温かいイメージだった。
 後からその時のことを聞いて、ルーカの私に対する印象だとわかったので、思わず赤面してしまったけれど。

 気持ちが悪くない端整な顔立ちの若い男の人なんて、出会ったことがなかったから、どきどきして、なにを話していいかわからなくなってしまった。
 要は一目惚れだったんだと思う。
 まあ、夜までにあきれさせまくったから、表情はげんなりなっちゃったけど。



 初めて生理が来た時に、私の魔力は発現した。というよりも、それまで気のせいで片づけられていたことが、明確に私の力によるものだとバレてしまった。
 その時に、同じように生まれた時から膨大な魔力を有していた兄がいたこと、彼は森の奥深くに捨てられ、おそらくもうこの世にはいないだろうということ、そして、私も同様に捨てられることが告げられた。

『あんたは周りを不幸にする呪われた娘だ!』

 母の言葉が頭をよぎる。
 大昔、魔法使いに一族きっての美少女を掠奪されて以来、うちの家系では魔法や呪術が禁忌になったらしい。逆恨みもいいところだ。しかも直系の子供二人ともに魔力が出てしまったから、父母は離婚、傍系に家督を譲ったんだって。私には本当にどうでもいい話だけど。
 結局、ここにいるのが嫌だったのか、一応父母にも今まで可愛がってきた情があったのか、私はこの屋敷ごと捨てられた訳だ。

 最初に気になったのは匂いと声だ。
 私には嗅覚がない。正確には、魔力の発現とともに消えた。そのはずなのに、ルーカのそばにいると、昔かいだことのある、緑を思わせる爽やかな香りがする、気がする。大好きだった草原の匂い。一緒にいると、浄化されるみたいで、心地いい。
 ルーカの声は私の耳によく響く。取り立てて高い声でも、大声な訳でもないのに。聴覚が弱い私にとって、不可思議だ。
 魔力と引き換えに感覚が欠落したはずなのに、どうして?

「ほれ。俺、ベジタリアンだから、野菜しか入ってねーけど」

 言葉づかいや態度がぞんざいなのは、私に対してだからじゃなくて、どうも素らしい。私にだけ冷たいのなら、わざわざ作ってくれたりしないと思うし。

「いただきます」

 食べてみて驚いた。味、がする……?

「これが、おいしいって、こと?」
「……味覚、ねーんじゃなかったのか?」

 私だってそう思ってたけど。嗅覚と聴覚だけじゃなく、味覚も……?
 思わずルーカを見つめる。たぶん、彼が一緒だと、失われていた感覚が補われるんだ。このまま一緒にいれば、私が狂おしいほど求めていた「普通」になれるの……?
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