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番外編・取り違えと運命の人 小話集
167 俺の年上の後輩 ②
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コンコンとノックをすると、元気な声で「はい!」と返されたので、ドアを開ける。
「失礼します……」
応接室の中には、俺と同世代と思しき男性がいた。たぶん、年……下かな?
「お茶を、お持ちしました」
「ありがとうございます!」
これまた元気な声でお礼を言われる。なんかにこにこしてて、表裏がなさそうな人だ。そう思いながら、向かいのソファに腰かける。
「え?」
「その、面接の時間まで、ちょっと世間話でもして、時間をつぶしてくれと、頼まれたので」
男性はぽかんとしている。しまった、真っ正直に言い過ぎた。もう少し自然に何か話せばよかったのに。それこそ世間話を。
「俺が緊張しないように気遣ってくださったんですね、きっと! とても素敵な会社ですね!」
俺が後悔していると、男性の方から声を掛けてくれた。にっこにこの笑顔で。
「俺、リカルドって言います! 一昨日、この町にやってきたばかりなんです!」
「一昨日?」
「はい! 神託で結婚したので! 昨日、役所に婚姻届を提出してきました!」
「それは……おめでとうございます」
「ありがとうございます! だから、ちゃんとしたところに勤めたいし、この町のこともいろいろ知りたいんですよね」
「はあ」
「さしあたって、俺、妻に首飾りを買うのを目標にがんばろうと思ってるんですけど、宝飾店ってどこにありますか?」
「宝飾店?」
「あなたはハンサムだし、おしゃれだから、そういうの、お詳しそうだと思って」
そう言って、リカルドさんはにこにこ笑う。
「えーっと……。この建物の正面玄関から出ていただいて、一本向こうが大通りです。大通りを右手に、しばらく歩くと四ツ角に出ます。時計のある角を左に曲がり、三本目の道をもう一度左に曲がって……五軒目ですね」
「……ええと」
あ、困った顔してる。もう一度説明した方がいいだろうか、と思案していると、リカルドさんは袋からペンとメモ帳を取り出し、サラサラと地図を書いた。
「ええと、間違っていたらすみません。こういうことですか?」
リカルドさんの図解はわかりやすかった。この建物からしばらくの部分は省略されていて、四ツ角から開始していたので、無駄に複雑な図になってない。
「……そうです。四ツ角をご存じか、先にお訊ねすればよかったですね」
「ちょうど、昨日、妻と待ち合わせたので、四ツ角の時計にピンときただけで……。一昨日来たばっかりだって言ったから、わかるように考慮してくださったんですよね?」
「いや……」
そんなに考えてなかった。単にここからだったらどう行けばいいかなと、脳内でルートを辿っただけだ。
「ちなみに、そのお店の名前は?」
「あ」
はたと気づく。店の名前さえわかれば、調べようなんていくらでもある。先に店名を教えてあげればよかった。
「ベラドンナ」
「ベラドンナ! きっと素敵な女性のためのお店なんだろうな。期待できそうだ!」
そう言って、リカルドさんはにこにこ笑いながら、地図に店名を書き入れた。
「この町で一番の高級店だから、金額は覚悟した方がいいかもしれません」
「わかりました! せっかくのプレゼントだから、むしろそれくらいの方がいいです! 妻は、そういうの、全然興味ないみたいなんですけど……自己満足なんだけど、あげたくて」
俺は、歴代の彼女に、言われたから買ってただけだけどな。
そんな風に考えていると、ノックの音がした。
「面接の準備ができたので、こちらにおいでください」
伯父がにっこりと笑ってリカルドさんに語りかける。
「は、はい!」
リカルドさんは出ていこうとして、はっとこちらに向き直った。
「あ、お店の道順、とても助かりました! この後行ってみます。ありがとうございました!」
「いえ……」
俺を見てにこにこ笑うと、リカルドさんは伯父と出ていった。
たぶんあの人、俺が細かく道順を言ったから、それを汲んで図解してくれたんだ。最後の笑顔と別れの台詞でようやく気づいた。
「失礼します……」
応接室の中には、俺と同世代と思しき男性がいた。たぶん、年……下かな?
「お茶を、お持ちしました」
「ありがとうございます!」
これまた元気な声でお礼を言われる。なんかにこにこしてて、表裏がなさそうな人だ。そう思いながら、向かいのソファに腰かける。
「え?」
「その、面接の時間まで、ちょっと世間話でもして、時間をつぶしてくれと、頼まれたので」
男性はぽかんとしている。しまった、真っ正直に言い過ぎた。もう少し自然に何か話せばよかったのに。それこそ世間話を。
「俺が緊張しないように気遣ってくださったんですね、きっと! とても素敵な会社ですね!」
俺が後悔していると、男性の方から声を掛けてくれた。にっこにこの笑顔で。
「俺、リカルドって言います! 一昨日、この町にやってきたばかりなんです!」
「一昨日?」
「はい! 神託で結婚したので! 昨日、役所に婚姻届を提出してきました!」
「それは……おめでとうございます」
「ありがとうございます! だから、ちゃんとしたところに勤めたいし、この町のこともいろいろ知りたいんですよね」
「はあ」
「さしあたって、俺、妻に首飾りを買うのを目標にがんばろうと思ってるんですけど、宝飾店ってどこにありますか?」
「宝飾店?」
「あなたはハンサムだし、おしゃれだから、そういうの、お詳しそうだと思って」
そう言って、リカルドさんはにこにこ笑う。
「えーっと……。この建物の正面玄関から出ていただいて、一本向こうが大通りです。大通りを右手に、しばらく歩くと四ツ角に出ます。時計のある角を左に曲がり、三本目の道をもう一度左に曲がって……五軒目ですね」
「……ええと」
あ、困った顔してる。もう一度説明した方がいいだろうか、と思案していると、リカルドさんは袋からペンとメモ帳を取り出し、サラサラと地図を書いた。
「ええと、間違っていたらすみません。こういうことですか?」
リカルドさんの図解はわかりやすかった。この建物からしばらくの部分は省略されていて、四ツ角から開始していたので、無駄に複雑な図になってない。
「……そうです。四ツ角をご存じか、先にお訊ねすればよかったですね」
「ちょうど、昨日、妻と待ち合わせたので、四ツ角の時計にピンときただけで……。一昨日来たばっかりだって言ったから、わかるように考慮してくださったんですよね?」
「いや……」
そんなに考えてなかった。単にここからだったらどう行けばいいかなと、脳内でルートを辿っただけだ。
「ちなみに、そのお店の名前は?」
「あ」
はたと気づく。店の名前さえわかれば、調べようなんていくらでもある。先に店名を教えてあげればよかった。
「ベラドンナ」
「ベラドンナ! きっと素敵な女性のためのお店なんだろうな。期待できそうだ!」
そう言って、リカルドさんはにこにこ笑いながら、地図に店名を書き入れた。
「この町で一番の高級店だから、金額は覚悟した方がいいかもしれません」
「わかりました! せっかくのプレゼントだから、むしろそれくらいの方がいいです! 妻は、そういうの、全然興味ないみたいなんですけど……自己満足なんだけど、あげたくて」
俺は、歴代の彼女に、言われたから買ってただけだけどな。
そんな風に考えていると、ノックの音がした。
「面接の準備ができたので、こちらにおいでください」
伯父がにっこりと笑ってリカルドさんに語りかける。
「は、はい!」
リカルドさんは出ていこうとして、はっとこちらに向き直った。
「あ、お店の道順、とても助かりました! この後行ってみます。ありがとうございました!」
「いえ……」
俺を見てにこにこ笑うと、リカルドさんは伯父と出ていった。
たぶんあの人、俺が細かく道順を言ったから、それを汲んで図解してくれたんだ。最後の笑顔と別れの台詞でようやく気づいた。
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