169 / 201
番外編・取り違えと運命の人 小話集
168 俺の年上の後輩 ③
俺が自席に戻ってデスクワークを再開すると、ほどなく伯父がやってきた。
「ちょっと」
「はあ」
「あの兄ちゃん、採用した方がいいと思う?」
伯父が単刀直入に切り出してきたので、困ってしまった。
今、人は充分足りてるから、リカルドさんが仕事のできない人なら経費の無駄だ。伯父は、出すところには気前よく出すけど、無駄は徹底して省く。
悪い人じゃなさそうだった。むしろいい人そうで気も利いていた。でも、仕事の能力が高い人かどうかは、俺には判断する自信がない。なにより、俺の一言で、あの人の人生が変わってしまうなんて。責任重大すぎる。
「流されて生きてきたマッテオ坊ちゃんには難しすぎたか。じゃあ、質問変えよう。あの兄ちゃん、話しやすかったか?」
「はい、すごく」
「即答」
「あんなに話が伝わって楽なの、久しぶりでした。初対面なのに」
「ふうん」
そう言うと伯父はニヤニヤといつもの食えない笑顔を浮かべる。
「じゃ、採用しよ」
「え、そんな簡単に……」
伯父は俺に書類を渡した。履歴書?
「見て、いいんですか?」
「いいよ」
履歴書はリカルドさんのもので、見ているうちに目を疑った。
「…………すごい数の資格」
「上級学校行ってなくて、これはすごいよね。努力家だ」
「……でも、迷ってたんですよね、採用」
「まあ、人、足りてるしな」
「じゃあ、どうして」
「投資っつうか、不良債権の再生っつうか」
伯父の言葉が理解不能で疑問符が舞う。
「あの兄ちゃん、職安で『募集かかってるのブラックな企業しかないから、この町で一番安定してる建築業者教えてくれ』って食らいついたらしい。なかなかハングリーだろ?」
そう言って伯父はニヤニヤ笑う。
「面接で『どうしてブラックだと判断したのか』って訊ねたら、『どこも「随時募集」だったから入れ替わりが激しいと想像できたし、社員の平均年齢が極端に低いところばかりで、まともな人材が抜けてってると思った』だってさ。傑作だろ」
そう言って伯父はまたニヤニヤ笑う。目が笑ってないけど。
「俺に訊ねる前から、雇うの決めてるじゃないですか」
「いわゆる能力だけだったら、儂じゃなくても決められるだろ。学歴や資格だったら、同じレベルの人間も探せばいる。でもここまでうちに来たいって意欲がある人間はあんまりいないから、真面目に働いてくれそうなのと……」
伯父はまた俺を見て、今度は心からの笑みを浮かべる。小さい頃に遊んでくれた時の優しい目だ。
「どうせ働くなら楽しい方がいいじゃないか。あの兄ちゃんとなら、楽しくやれそうだろ。儂も、お前も」
「……そうですね」
こうして、リカルドさんはうちで雇われることになった。履歴書の資格ももちろん役立っているけど、それよりも判断力と調整能力の高さが重宝されているし、気さくな人柄だからみなさんともすぐに打ち解けた。
それからの俺はといえば、リカルドさんが天然扱いしてくれたおかげで、格段に生活しやすくなった。まどろっこしいことばっかり言ってると思ったら、むしろ根は小学生みたいじゃないか、なんて可愛がられるようになったのはリカルドさんのおかげだ。
年明けにリカルドさんから飲みに誘われた。
「今日は俺がおごるから、好きに飲んで食べて!」
「はあ……」
リカルドさん、自分が年上だからって、なんだかんだ結構おごってくれてるけど、今日は気合いが違うらしい。
「何かあったんですか?」
「こないだの新年会で、無礼講ってことでボスに訊ねたんだけど」
「何を?」
「俺の採用理由」
「ああ、それ。資格の多さと職安での判断に伯父が感心したからですよ」
「それも聞いたけど、それだけじゃなかった」
「え?」
他の理由なんて、伯父は言ってたか……? 記憶を辿るけれど思い当たらない。
「通訳」
「通訳?」
リカルドさん、確かに資格たくさん持ってたけど、建築関係ばかりで、語学系のものはなかったはず。
「現場の先輩の言うことと、マッテオの言うこと、俺なら両方理解できるだろうと期待したんだって」
「……なるほど、生活しやすくなった訳だ」
「お前がコミュニケーション能力高かったら、俺、雇ってもらえてないかもしれない! そしたらジュリエッタとの生活もままならない訳で! だからせめておごり!」
「さりげなく失礼なこと言ってますけど。リカルドさんのおかげで俺もめちゃくちゃ助かってるし、大切な彼女もできたので、むしろ今日は俺のおごりです」
「そんな! かっこつかない」
「たまには先輩の言うことに従ってもらわないと」
「えっ? ここで、それを出す?!」
あわてている姿が珍しくて、思わず笑ってしまう。
リカルドさんは俺の年上の後輩だけど、それ以上に、大切な人生の先輩。
「ちょっと」
「はあ」
「あの兄ちゃん、採用した方がいいと思う?」
伯父が単刀直入に切り出してきたので、困ってしまった。
今、人は充分足りてるから、リカルドさんが仕事のできない人なら経費の無駄だ。伯父は、出すところには気前よく出すけど、無駄は徹底して省く。
悪い人じゃなさそうだった。むしろいい人そうで気も利いていた。でも、仕事の能力が高い人かどうかは、俺には判断する自信がない。なにより、俺の一言で、あの人の人生が変わってしまうなんて。責任重大すぎる。
「流されて生きてきたマッテオ坊ちゃんには難しすぎたか。じゃあ、質問変えよう。あの兄ちゃん、話しやすかったか?」
「はい、すごく」
「即答」
「あんなに話が伝わって楽なの、久しぶりでした。初対面なのに」
「ふうん」
そう言うと伯父はニヤニヤといつもの食えない笑顔を浮かべる。
「じゃ、採用しよ」
「え、そんな簡単に……」
伯父は俺に書類を渡した。履歴書?
「見て、いいんですか?」
「いいよ」
履歴書はリカルドさんのもので、見ているうちに目を疑った。
「…………すごい数の資格」
「上級学校行ってなくて、これはすごいよね。努力家だ」
「……でも、迷ってたんですよね、採用」
「まあ、人、足りてるしな」
「じゃあ、どうして」
「投資っつうか、不良債権の再生っつうか」
伯父の言葉が理解不能で疑問符が舞う。
「あの兄ちゃん、職安で『募集かかってるのブラックな企業しかないから、この町で一番安定してる建築業者教えてくれ』って食らいついたらしい。なかなかハングリーだろ?」
そう言って伯父はニヤニヤ笑う。
「面接で『どうしてブラックだと判断したのか』って訊ねたら、『どこも「随時募集」だったから入れ替わりが激しいと想像できたし、社員の平均年齢が極端に低いところばかりで、まともな人材が抜けてってると思った』だってさ。傑作だろ」
そう言って伯父はまたニヤニヤ笑う。目が笑ってないけど。
「俺に訊ねる前から、雇うの決めてるじゃないですか」
「いわゆる能力だけだったら、儂じゃなくても決められるだろ。学歴や資格だったら、同じレベルの人間も探せばいる。でもここまでうちに来たいって意欲がある人間はあんまりいないから、真面目に働いてくれそうなのと……」
伯父はまた俺を見て、今度は心からの笑みを浮かべる。小さい頃に遊んでくれた時の優しい目だ。
「どうせ働くなら楽しい方がいいじゃないか。あの兄ちゃんとなら、楽しくやれそうだろ。儂も、お前も」
「……そうですね」
こうして、リカルドさんはうちで雇われることになった。履歴書の資格ももちろん役立っているけど、それよりも判断力と調整能力の高さが重宝されているし、気さくな人柄だからみなさんともすぐに打ち解けた。
それからの俺はといえば、リカルドさんが天然扱いしてくれたおかげで、格段に生活しやすくなった。まどろっこしいことばっかり言ってると思ったら、むしろ根は小学生みたいじゃないか、なんて可愛がられるようになったのはリカルドさんのおかげだ。
年明けにリカルドさんから飲みに誘われた。
「今日は俺がおごるから、好きに飲んで食べて!」
「はあ……」
リカルドさん、自分が年上だからって、なんだかんだ結構おごってくれてるけど、今日は気合いが違うらしい。
「何かあったんですか?」
「こないだの新年会で、無礼講ってことでボスに訊ねたんだけど」
「何を?」
「俺の採用理由」
「ああ、それ。資格の多さと職安での判断に伯父が感心したからですよ」
「それも聞いたけど、それだけじゃなかった」
「え?」
他の理由なんて、伯父は言ってたか……? 記憶を辿るけれど思い当たらない。
「通訳」
「通訳?」
リカルドさん、確かに資格たくさん持ってたけど、建築関係ばかりで、語学系のものはなかったはず。
「現場の先輩の言うことと、マッテオの言うこと、俺なら両方理解できるだろうと期待したんだって」
「……なるほど、生活しやすくなった訳だ」
「お前がコミュニケーション能力高かったら、俺、雇ってもらえてないかもしれない! そしたらジュリエッタとの生活もままならない訳で! だからせめておごり!」
「さりげなく失礼なこと言ってますけど。リカルドさんのおかげで俺もめちゃくちゃ助かってるし、大切な彼女もできたので、むしろ今日は俺のおごりです」
「そんな! かっこつかない」
「たまには先輩の言うことに従ってもらわないと」
「えっ? ここで、それを出す?!」
あわてている姿が珍しくて、思わず笑ってしまう。
リカルドさんは俺の年上の後輩だけど、それ以上に、大切な人生の先輩。
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041