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第八章 人の数だけ気持ちがある
195 神を愛したい者の回旋曲 ⑧
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もう一つ克服したいこと。
私にとってピンクは、自分では選べない色だった。私には似合わない、可愛らしい女の子を象徴する色だから。
母は「『女の子だからこうしなければならない』という型から自由でいてほしいの」と言って私を育ててくれた。素晴らしく正しい。
でも、そう言われると、いわゆる「女の子らしいもの」を却って手に取りづらくなってしまって。ユニセックスでシンプルなものを選択しがちになったし、実家ではほぼパンツスタイルで過ごしている。大学に入り、最初のバイト代で買ったものは、スカートだ。
母のせいにするのはやめよう。結局、可愛いものを身に着ける勇気がなかなか持てなかったのだ。
今日はひさしぶりのデート。若葉に選んでもらった淡いピンクのトップスをもう一度着ることにした。こういう考え方はよくないかもしれないけど、響にはピンクだってわからないんだから。バレないなら勇気も出しやすい。
待ち合わせ場所に行くと、響は先に来ていた。
「響! ごめん遅くなった!」
「いや、まだ時間になってな」
私を見るなり響が言葉を止めるので、なんだかどきどきしてしまう。
「ど、どうかした?」
「ドレミちゃん」
「な、何?」
「俺、あの時は見え方のこと言ってなかったし、自信もなかったんだけど」
「う、うん」
「もしかして、その服の色、ピンク?」
どうして! どうしてバレたんだ?! びっくりして頭がぐるぐるする。
「当たり?」
「…………当たり」
「やっぱりそうか」
私が力なくつぶやいたのを聞き、響は非常にご満悦の表情だ。悔しい。
「どうしてわかった……」
「家庭用の商品開発で、『女性がみんなピンクを好きって訳じゃないんですよ!』って意見は結構出るんだけどさ」
「うん」
「そういう意見を踏まえて、うちの商品は白と黒と紺のラインナップが増えてるんだけど、ピンクの商品は消えない。好きだって人も、やっぱり一定数いるから」
響は自分の中の順序通りに話をしたがるから、何を言いたいのか全然わからない。
「結論から言え。残りも聞くから」
「玲美がピンクを好きでもいいんじゃない? と思って」
「好きって……」
「キャラ的に女の子っぽい雰囲気に抵抗ある気がするし。それに、ほら、玲美は好きなものを好きって、なかなか言えないから」
響は見えないのにわかっていた。いろいろと。完敗である。
「色のことは正直わからんけど、勇気を出して好きなものに手を伸ばす玲美は、可愛い」
響の言葉を聞いて、私は勇気を出して、初めて自分から手を握った。
お昼を食べて、ぶらぶらウィンドウショッピングをして、ラブホに入る。
「あのね」
「うん」
もう少しだけ勇気を出して、初めて言葉にする。
「響が、好き」
この時の、響の嬉しそうな顔を、私は一生忘れないと思った。
私にとってピンクは、自分では選べない色だった。私には似合わない、可愛らしい女の子を象徴する色だから。
母は「『女の子だからこうしなければならない』という型から自由でいてほしいの」と言って私を育ててくれた。素晴らしく正しい。
でも、そう言われると、いわゆる「女の子らしいもの」を却って手に取りづらくなってしまって。ユニセックスでシンプルなものを選択しがちになったし、実家ではほぼパンツスタイルで過ごしている。大学に入り、最初のバイト代で買ったものは、スカートだ。
母のせいにするのはやめよう。結局、可愛いものを身に着ける勇気がなかなか持てなかったのだ。
今日はひさしぶりのデート。若葉に選んでもらった淡いピンクのトップスをもう一度着ることにした。こういう考え方はよくないかもしれないけど、響にはピンクだってわからないんだから。バレないなら勇気も出しやすい。
待ち合わせ場所に行くと、響は先に来ていた。
「響! ごめん遅くなった!」
「いや、まだ時間になってな」
私を見るなり響が言葉を止めるので、なんだかどきどきしてしまう。
「ど、どうかした?」
「ドレミちゃん」
「な、何?」
「俺、あの時は見え方のこと言ってなかったし、自信もなかったんだけど」
「う、うん」
「もしかして、その服の色、ピンク?」
どうして! どうしてバレたんだ?! びっくりして頭がぐるぐるする。
「当たり?」
「…………当たり」
「やっぱりそうか」
私が力なくつぶやいたのを聞き、響は非常にご満悦の表情だ。悔しい。
「どうしてわかった……」
「家庭用の商品開発で、『女性がみんなピンクを好きって訳じゃないんですよ!』って意見は結構出るんだけどさ」
「うん」
「そういう意見を踏まえて、うちの商品は白と黒と紺のラインナップが増えてるんだけど、ピンクの商品は消えない。好きだって人も、やっぱり一定数いるから」
響は自分の中の順序通りに話をしたがるから、何を言いたいのか全然わからない。
「結論から言え。残りも聞くから」
「玲美がピンクを好きでもいいんじゃない? と思って」
「好きって……」
「キャラ的に女の子っぽい雰囲気に抵抗ある気がするし。それに、ほら、玲美は好きなものを好きって、なかなか言えないから」
響は見えないのにわかっていた。いろいろと。完敗である。
「色のことは正直わからんけど、勇気を出して好きなものに手を伸ばす玲美は、可愛い」
響の言葉を聞いて、私は勇気を出して、初めて自分から手を握った。
お昼を食べて、ぶらぶらウィンドウショッピングをして、ラブホに入る。
「あのね」
「うん」
もう少しだけ勇気を出して、初めて言葉にする。
「響が、好き」
この時の、響の嬉しそうな顔を、私は一生忘れないと思った。
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