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最終章 ジャックにはジルがいる
342 時に世界は一瞬で変わる ⑤
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翌日、メッセージで指定されたお店に行くと、ハジメくんが一人で座っていた。
「アリスちゃんは、まだ?」
「先に始めててって、連絡がきたから、飲んでようよ」
席をすすめられたので、しばらく二人で飲むけれど、全然落ち着かない。
「あ、アリスちゃんから連絡きた。今日は来れないって」
「え……」
「ほら、料理も頼んでいるし、食べようよ」
じっと見つめられて、なんだか私は動けなくなった。とりあえず食べ終えてから、さっと帰ろう、そう思った。
「『はじめに言葉があった。言葉は神であった』」
「……一体、なあに?」
「新約聖書の『ヨハネによる福音書』の冒頭。僕の名前の由来」
ハジメくんはご両親とお姉さんの四人家族だと言っていた。みなさん敬虔なカトリックの信者だとも聞いたことがある。
「言葉は神であった。これ、人間は言葉に支配されるって意味だとずっと思っていたけど、本当は違うらしいね。宇宙の根源的な原理は神の言葉によって表される、といったところかな。でも、僕には、間違いであるはずの意味の方が、よほど正しく思える」
ハジメくんは薄く笑った。新くんとは違う、冷たさを感じさせる笑い。
「名前は、とても強力な言祝ぎであり呪いだよね。エリック・ギルのフォントは、ギル・サンが最も有名だし代表作だ。でも、本当は、パーペチュアこそ彼の名を冠したものだと、僕は思っているよ」
「どういうこと? 伝説の聖女の名前じゃ……」
「エリックはスカンジナビア系の言葉で『永遠の支配者』という意味だ。彼にぴったりだよ。支配しているのか、支配されているのかは、わからないけどね」
「支配……?」
「エリック・ギルは性的なものに対する興味と欲求が本当に強い人間で、作品にもそれは滲み出ている。僕は彼の境地にはまだ達していないけど、セックスは根源的な欲求に基づく行為だし、大いに堪能すべきだと思ってるよ」
ハジメくんの言葉を聞いて、エリック・ギルという名をどこで見たのか、思い出した。授業の資料だ。
彼はBBCの外壁を飾るプロスペロー像の作者。像を破壊した人達は「彼は自分の妹や娘や犬を性的に虐待して関係を持った倫乱な人物である。そのような人物の作品は、この場にふさわしくない」と主張したんだ。
「アリスちゃんは、まだ?」
「先に始めててって、連絡がきたから、飲んでようよ」
席をすすめられたので、しばらく二人で飲むけれど、全然落ち着かない。
「あ、アリスちゃんから連絡きた。今日は来れないって」
「え……」
「ほら、料理も頼んでいるし、食べようよ」
じっと見つめられて、なんだか私は動けなくなった。とりあえず食べ終えてから、さっと帰ろう、そう思った。
「『はじめに言葉があった。言葉は神であった』」
「……一体、なあに?」
「新約聖書の『ヨハネによる福音書』の冒頭。僕の名前の由来」
ハジメくんはご両親とお姉さんの四人家族だと言っていた。みなさん敬虔なカトリックの信者だとも聞いたことがある。
「言葉は神であった。これ、人間は言葉に支配されるって意味だとずっと思っていたけど、本当は違うらしいね。宇宙の根源的な原理は神の言葉によって表される、といったところかな。でも、僕には、間違いであるはずの意味の方が、よほど正しく思える」
ハジメくんは薄く笑った。新くんとは違う、冷たさを感じさせる笑い。
「名前は、とても強力な言祝ぎであり呪いだよね。エリック・ギルのフォントは、ギル・サンが最も有名だし代表作だ。でも、本当は、パーペチュアこそ彼の名を冠したものだと、僕は思っているよ」
「どういうこと? 伝説の聖女の名前じゃ……」
「エリックはスカンジナビア系の言葉で『永遠の支配者』という意味だ。彼にぴったりだよ。支配しているのか、支配されているのかは、わからないけどね」
「支配……?」
「エリック・ギルは性的なものに対する興味と欲求が本当に強い人間で、作品にもそれは滲み出ている。僕は彼の境地にはまだ達していないけど、セックスは根源的な欲求に基づく行為だし、大いに堪能すべきだと思ってるよ」
ハジメくんの言葉を聞いて、エリック・ギルという名をどこで見たのか、思い出した。授業の資料だ。
彼はBBCの外壁を飾るプロスペロー像の作者。像を破壊した人達は「彼は自分の妹や娘や犬を性的に虐待して関係を持った倫乱な人物である。そのような人物の作品は、この場にふさわしくない」と主張したんだ。
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