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ドコニイル?
04
しおりを挟む『毒を盛るってことは、まあ誰かを害したいって意思があるんだよな』
『この学校の誰かなんだろ? ……まさか俺ら?!』
『いや……』
さすがにそれはかわいそうな気がする。それに百歩譲って龍はあったとしても歩には一二三は敵意を懐いてないと思う。信じようぜ、と宥めると彼も本気ではなかったのかごめんと顔のまえに片手を立てる。なんとなくオッサンみたいなしぐさ。
『動機は何だろうな』
『何いってんだよ龍、そりゃ愛か金って相場が決まってんじゃん?』
『へー』
相場は知らないが、それなら恐らく愛のほうだろうと龍には思えた。大学生の身で、いくら小遣いが厳しいとはいえ罪をおかしたくなるほどの金に用があるとは考えにくいからだ。一二三は浪費家ではないし誰かに分不相応なほど貢いでいる様子もない。あの両親がいてそんなだらしない生活はできない気がする。
ならば愛。そう言われても、これまたおなじくらい想像がつかないので困った。
「あー暑」
歩がずぽっと人面猫になったので龍も顔を出した。汗なのか蒸気なのか判別のつかない水分で湿っていた肌から熱が奪われていくのが心地よい。汗拭き用のタオルはまだ必要なかった。思いの外気温が上がってないし、一応学生は帰宅しなければいけないので人口密度が減っている。この校舎へ来てからは一段とお祭り感が薄らいだ。
ちらっと見えるだけでも教室の中で白衣の背中が忙しなく行き来していて、不真面目な学生ですみませんと謝りたくなる。頼まれ事さえなければ龍もとっとと人間に戻ってバイトへ行っていたと思うのだが、今のところ音からの連絡も来てないため焦燥感は募る一方だった。
一二三は気分で行動を変えるような性格とは思えない。一度やると決めたら絶対にやるし、そのまえに頭の中で何回もトライアンドエラーを繰り返して、その末に実行に移した筈だ。だから彼女の予定を変更させたければ外部から働きかけるしかない。自分でやめさせるのでなく、龍や歩などが説得や拘束をして止めるしかないのだ。
「――あ、ネっさん」
「え」
驚いて歩の視線の先を辿ると、恰幅のいい男子学生がネコミミをつけていた。たしかに似ているというかコンセプトがおなじではあるが裸ではない。それにあれは中身が本物の猫なので、自由にさせるといろいろとやらかしそうでまずいのではないだろうか。元の姿に戻ってもそれはそれで大騒ぎだ。たちまち一二三はどこぞやの偉いところに罰されて魔法を使えなくされてしまうかもしれない。
あれを使って代わりに手を下させるのでは、という龍のひらめきは自らの手で握り潰した格好になった。ハイ次。
「なんで裸なんだろうな」
「そりゃあ……猫だから?」
「オス猫はあれなのに、メス猫はえらい美女だったよな」
「やばかったな~あれ」
局部が見えないほど腹の出たメタボ体型は誰かを参考にしたのかと思ったが、一二三の父は中肉中背、音は運動部に所属していたとかでスポーツ系のマッチョと聞いた。服の上から見た感じでも丸くはない。
魔法を使う時、具体的にどのようにするのだろう。聞いても応用する場がないためスルーしていたがただ呪文?を唱えるだけでなく、完成形を想像するのであればあれが一二三の頭の中ということになる。もし自分で男に変身する場合もああなるのかもしれない。だって特に面白くしようとか変な姿にしようと悪意を持って猫に接しているとは考えづらい。あのNPOに動物が嫌いな人はいない筈だ。
猫をおっさんに変えるのではなく、男に変える魔法だったとすると。
「……あのさ、女子って自分でする時エロ本的なものとか見たりすんのかな」
「は?」
ちょっと掻い摘みすぎたか。珍しく真っ赤になって、トランシーバーを使っているわけでもないのに口元に手をあてた歩がおそるおそる言葉を継ぐ。
「なに龍どうした?? 龍のくちからそんなこと聞くと昂奮す」
「キモい。」
みなまで言わせるかこの野郎。
「俺は物心ついた時から父としか風呂も入ったことねえから、真面目に女の裸って未だによくわかってねえんだよ」
「えっ」
それどころか画像も映像も意識的に避ける。だから考えてみたのだが、もし龍も魔法が使えたとして、女に変身するとしたら、美術の授業で眺めた裸婦のようなかたちになる気がするのだ。そのくらいしか知識がない。
何故かはさておき一二三もそれとおなじでメタボなおじさんになる。異性の裸を見る機会がなく、興味もなく、同級生の男を家に泊めてもひとつも気にしない。龍と歩の関係を識っても、すんなり受け入れていたのはひょっとして自分もおなじだからという真相は苦しいだろうか。
「そんなことって……あるのか?」
「わかんねえけど」
それに仮説が当たっていたとして今はヒントにならない。やっぱり更衣室にいて女漁りをしている、などということは一二三にかぎってあり得ないだろう。痴情のもつれを想定するなら人間関係を辿るべきなのだが、如何せん自分達が恐らく一番彼女と親しくしている友人なので、知らなければ他の誰も知らない感じがとてもするのだ。
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