愛してしまうと思うんだ

ゆれ

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一生一緒にいてあげよう

04

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「安心したわ。……まだ俺のことどうでも良くなったわけじゃねえんだってな」

 聞けば聞くほど八色もごく普通に感情に振り回されていて、悩みがないわけでも龍ばかりなわけでもまるでなかったのだとわかって笑ってしまった。経験値や顔面偏差値の高低はちっとも影響しないらしい。相手が違えば立場も変わる。想いには優位も劣位もない対等が事実だと思うけれど、誰だって自分ばかりがと思い込むもののようだ。
 大きくてあたたかな手が肩をくるむ。ほっとして、おなじだけどきどきもする唯一の手。離したくないなんて大それたことを願ってもいいのだろうか。

「なくならねえ絆もあるって、一生かけて証明するからよ。俺を信じろ。龍」
「――……」

 何も解決したわけじゃない。恐らくこれからもっと挫けそうになるような障害がふたりのまえに現れるだろう。龍はともかく八色の家は厳格そうで、そこでもまた揉める未来は目に見えているけれど、困ったことに嬉しい気持ちが否定できない。巻き込みたくない気持ちを凌駕して、胸がいっぱいで、言葉にならなかった。
 こんなことまで言ってくれるひとはきっとこの先二度と出会えない。直感の命ずるがまま、龍は強くうつむくと肩に置かれた八色の左手にそっとくちを付けた。ありがとうとごめんなさいを乗せて。

「っ、ん」

 噛みつくように重なった唇をかるく仰のいて受け止める。後頭部が壁にあたってちいさく音を立てた。合わせ目を舌先でぬるりと抉じ開け、龍の舌を吸い上げてくる八色に逆らわずくちを開いて迎え入れる。
 広い面をすり合わせ、流し込まれる唾液をすすって、息継ぎも惜しんで深く交わると腰からじわりと熟れた熱がまわっていく。八色がそうなのだから龍だって久し振りだった。いつしか白金の頭を抱え込むように倒錯的に貪り返していた。

 八色の掌が服をかいくぐりじかに背中を撫でおろしてくる。膝のあわいに入られ、身体で身体を壁に押しつけられて、持ち上げた片脚で龍からも彼の腰を引き寄せる。プラトニックなんて、俺はもう無理だとさっき宇賀神の話をしていた時思った。

「……は、っ欲しい、香」

 直截的すぎる誘い文句は嫌いだろうか。そんな斟酌をする余裕もなく訴えると八色はニヤリとあくにんの笑みをして、ひょいと龍を抱え上げた。「頭打つなよ」と念のために言われたがまったくその心配はいらないほど鴨居も天井も高い。
 寝室のドアもちゃんと閉じないまま広いベッドに投げ出されて、シーツのやわらかな冷たさに身震いする。全部屋一括で温度調整されているらしく、ややもせず寒さは気にならなくなった。八色はもう上を脱いでいて腰にまとわせた柑橘系のラストノートが鼻先を撫でる。パーカーを脱がされ、Tシャツも捲られて、肌にくちを付けようとしたので思わず「待って」と阻んだ。

「シャワーしてねえから」
「……」
「ぅぁ、……ちょ、」

 べろーっと胸の真ん中を舐めあげられて、ぞくぞくと肌が一気に粟立つ。汗みずくになる季節ではないものの清潔でもないのに。裸にならずに済む絶好の言い訳だったが間に合わなかった。

「つか龍、お前」
「あ~待てマジでやだ、萎えちゃダメ……」
「オイ……」

 心臓の真上から、まっすぐおりて臍まわり、脇腹、あばら、張りだした腰骨まで乾いた掌が這いまわるたび恥ずかしいやら情けないやらで龍は顔を背ける。もういいだろとばかりに、乳首の上まできていた裾を元の位置まで引き下ろした。

「やたら軽いとは思ったが、これちゃんと食ってたのか?」
「……ほんとに今だけだから。いろいろ、考えることあって、忘れがちだったっつうか後回しにしてたっつうか……」

 自分でもあんまりだと思ってはいたのだ。この展開は予想してなかったので本気で無頓着に食事をさぼっていたら大層みすぼらしい身体になってしまっていた。自宅にいると必ず自炊なので疲れたり悩んだりしている時はどうしても面倒になる。買って帰るのすら億劫で、一日一食と水などというめちゃくちゃな食生活がすこしだけ続いていた。
 八色と一緒に暮らしていた頃はちゃんと食べて疲れてよく眠っていた。基本それは変わってない。別に何かの症状があるわけじゃない、ただの怠惰なので、あまりツッコまないでほしかった。すぐに元に戻る筈なのだ。

「服の趣味が変わったのかと思ったらこういうことか」

 見栄を張ってシルエットの曖昧なオーバーサイズを着て誤魔化していたのだが、さすがにベッドに至ってしまうと無駄な工作だった。勿論改善するつもりはあるので心配は無用なのだけれど、ぺたぺたと下腹に手をあてられたり鎖骨をなぞられたり、二の腕を掴まれたりすると、気まずくて仕方ない。

「あの、やめとくか?」
「は?」
「だって萎えて……ねえな」
「ヤるに決まってんだろ。クソ、絶対俺が太らせてやる」
「あれ?」

 結局Tシャツも剥ぎ取られて素肌をさらす羽目になった。八色は脱がないまま腰を重ねると、擦り付けるような突き上げるような動きで龍を責め、腰からすべらせた手で龍の尻を揉む。かたい布地越しにも本当に萎えてないのは感じて、焦れて自分でベルトを緩めた。
 
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