愛してしまうと思うんだ

ゆれ

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ドコニイル?

07

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「……」

 匂坂もそう感じるのか。

 てっきり否定しなかったことを怒られると思って待っていた歩が、黙り込む龍に不思議そうにする。たしかに龍も、これが歩じゃなかったら身構えたし躱していただろう。子どもではないのだ。手を繋ぐことさえ友人とも滅多にしないし肩に触れたり、況してや髪や顔に触れるなど。
 女同士でもそうなのに無頓着に許していたのは親しいからだ。本人が今そう言った。ただこの先は推測でしかない。物証が無いので怖くはあるのだが、時間が迫っているため龍はくちを開く。匂坂が話してみると全然印象が違った所為もある。寛容というか高圧的じゃないというか、まるで普通だった。

 彼女が言っていたように。

「――あの、因みにその噂の相手って、玉山だったりしませんか……?」
「はあ???」

 歩の馬鹿みたいな返事が人けのない校舎を響かせ、やがてしんと静まり返る。その間誰もひとこともくちを利かなかった。遠くの喧騒と何か物理的にでも遮蔽されたような完璧な静寂は学内ではまず殆ど聞くことのないもので。

「龍ってば何? どうした? さっきからちょっと様子が変よ」
「お前もな」
「だってあんまりじゃん。自分がそうだからって、そんな誰もかれも」
「それはそうだけど……」

 一応龍の中では判断材料があっての問いだったのだ。でもよく考えなくても失礼だったなと素直に反省する。歩は歩で勢いとはいえ龍に無神経な発言を浴びせてしまい自己嫌悪に悶えている。他人の性的志向を勝手にアウティングするなど国によっては訴訟ものだ。滅多に落ち込まない彼がひとりで暗い靄を背負っている横で、匂坂は、華奢なネックレスで飾った喉元まで真っ赤に染め上げて絶句していた。

 勿論詭弁を弄したんじゃない。絶対に秘密は守るし、ひきかえと言うのもなんだが龍の秘密も匂坂に渡した。立場を脅かすような真似は誰も得をしない。況して友人の恋路を邪魔するつもりなど、ふたりにはさらさらなかった。一二三は応援してくれていたのだ。残念な結果に終わってしまったことも、誰よりも惜しんでくれた。

「ちっ……がう、何それ、なな何の事かしら?!」
「うわあ、先生絶望的に嘘がヘタすね」
「嘘?! 何が!!?」

 たかが男子学生に鬼教官が翻弄され、みゃーみゃー言っていたが御蔭でぼんやりと事情がわかってきた。やはり愛の仕業だったようだ。龍が必死こいて受験のために憶えてきた世界各地で起きた歴史的な大事件の数々も、突き詰めると案外それが真相だったりするのかもしれない。

 恋人の愛も、親の愛も、なくては生きてゆけない人もいる。ないほうが幸せだった人もいる。求める人と与える人がうまくかみ合うシステムでもあればと折に触れ思うのは自分が取り損ねた側の人間だからなのだろうか。

「わかった逆だ!」

 廊下の終点から徐に男子学生が姿を現したので歩と匂坂が黙り、龍だけがいきなり大声を発した格好になった。遠くで彼がビクッと肩を揺らしている。威かして申し訳なかったがそれどころじゃない。

「何が?」
「宇賀神を捜すんだよ!」
「は? 宇宙人を?」



 
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