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51.名前 2

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 語り終えると、考え深げな顔でグラタスはうなずいた。

「そうですね。たしかに人為的なものと、魔性のものが起こすしわざは一般に区別がつきにくい。……神官団が神の御業や黒い力を調べる時、気をつけるのはその点です。我々の機関に調査を依頼し、助けを求めるもののほとんどは人為的なことが原因でした。人知の及ばぬ領域にあるものはごくわずかです。──しかし、あの医師は最初からあなたに原因を求めていた。それが私は気になります」

 ミラはぽかんと口を開けた。彼が語った内容はまるでその道の専門家だ。よく考えれば彼は魔性をその身に封じたのだった。不浄を清める高潔な(?)神官を誘惑する魔性は多いらしい。
 彼は依り代になりながら、その強靭な精神で自分の意思を保ち続けた。すぐさま黒い力に自身を受け渡すようなことはせず、ミラが来るまで封じていた。そんなことができる人材は神官の中でも一握りだろう。魔女見習いのミラなどより、高位神官だった彼の方が魔道に造詣が深いはずだ。

「グラタス……あなた、神殿で何の仕事をしていたの?」

 思わずミラがたずねた言葉にグラタスは口角をつり上げた。だが、それはミラが見慣れた優しい笑いの形ではなく、背筋がひやりとするものだった。

「私はただの補佐官でしたよ。そして今は一介の師教です」

 からかうような口ぶりに、ミラはごくんと息をのんだ。謙遜にも似た答えのせいで一層疑惑が深まってしまう。
 彼には謎が多すぎる。何を考えているのかも、今までのこともわからない。

──私はこの人のことを何も知らない。

 ミラは内心の思いを留め、違う言葉を口にした。

「グラタス……は、どうして神官になったの」

 問いかけが意外だったのか、彼は一瞬眉尻を上げた。だがすぐ曖昧に微笑む。

「信仰が必要だったからです」

 すわっていたいすから立ち上がり、グラタスはさりげなく視線をそらした。

「あなたは疲れているはずです。信仰についての問答は次の機会を選びましょう。──その寝台を使いなさい。私は寝椅子で十分です」

 グラタスは広い部屋を渡るとすみの寝椅子に腰を下ろした。寝台の前で逡巡しているミラの姿に目をやって、いつものように笑みを浮かべる。

「さあ、早く中へ入りなさい。でないと破廉恥な格好で誘っているとみなします。こんなところであなたと愛をたしかめる気にはなれませんが、あなたから誘われるなら別です。……十数える前に寝なければ、遠慮なく誘いに応えますよ」

 いたずらっぽく告げた後、本当に数を数え始める。ミラはあわてて寝台にのった。彼の視線に見守られながらそっと天蓋の幕を下ろす。
 布団にもぐり込もうとした時、ミラは自分が式服の上着をはおっているのに気づいた。一瞬とまどい、肩からはずす。
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