【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第一章 スパイダー

1.

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 午前七時五十分。
 僕が門の前に立つと、今日から夏服になった君が玄関から顔を出した。白地に紺のラインが入った、清楚なデザインのセーラーカラー。えんじ色をしたスカーフが笑香えみかの笑顔によく似合う。

「おはよう。今日も時間ぴったりだね」

 肩で切りそろえられた髪をゆらしながら、君は明るく僕に言う。
 カバンを右手に持ち直し、僕は満面の笑みで答えた。

「おはよう。あれ、勇人ゆうとは?」

 本当は知っている。小学生の君の弟は、もう三十分ほど前にあわてて家を出て行った。今日はサッカーの朝練があるから、七時半までに小学校の校庭に集合しなければならない。
 門へと続く階段を一歩で軽くとびこえて、君は僕の目の前におりた。
 風圧で紺のスカートがめくれ、わずかに白い太腿が見える。動揺を微笑で押し隠し、僕は低い門ごしに笑香の明るい笑顔を見つめた。
 柿崎かきざき笑香。僕の大切な幼なじみ。

「ほら、もうすぐ少年サッカーの地区大会があるでしょう? その朝錬が七時半からだって、七時二十分に出て行ったのよ」

 僕を見上げる黒目がちの瞳。ととのった眉を軽くひそめて弟の心配をする笑香。とがらせた唇がかわいい。

「だから昨日は早く寝なさいって言ったのに。ずっとテレビを見てるんだから」

 それも僕は知っている。ピンクのパジャマ姿の君が、リビングにいた弟に「早く寝ろ」って怒っていた。
 僕は微笑みをたやさずに門のかんぬきに手をかけた。ここのかんぬきは回りがしぶくて毎回僕をいらだたせる。

史郎しろう君、今日もやっぱり門に嫌われてるね」

 何か簡単なコツがあるのか、かたいかんぬきをあっさり開けると笑香は柿崎家の門を開いた。

「あ、家庭教師の件ね、お母さんがまだいいって。勇人はまだ二年生だし、だいたい今は勉強なんかよりサッカーの方に夢中でしょ。今無理やり勉強させても身につかないってあきらめてたわ」

 笑香はよく笑い、よくしゃべる。そのよく動く黒い瞳でいつも何かを見つけ出す。
 
「そう」

 僕はうなずいた。まだ、あせらない。そのうちにすべて僕の思い通りになるだろう。

「史郎君はもうサッカーしないの? 須藤すどう先輩にもさそわれてたじゃない」

 笑香の無邪気な問いかけに、僕はくすりと笑って見せた。
 冗談じゃない。君に会っている時間が少なくなるじゃないか。義務だった部活動が終わって、やっと君のそばにいられるのに。

「高校では勉強に専念したいからね」
 
 僕が答えると、笑香は頬をふくらませた。

「もう十分よ。中間テストは一番だったんでしょう? それに美優みゆの話だと、真下ましも先生が生徒会役員に史郎君を推薦するって。まだ一年生でも十分見込みがあるからって」

 僕は思わず苦笑いをした。優等生の僕の仮面はどうやら高校でも通用しそうだ。

「僕はそんなに器用じゃないよ」

 僕が言うと、笑香は不意にうつむいた。

「史郎君がほめられてるのを聞くのはうれしいんだけど、ちょっとさみしい気もするの。なんだか、ずいぶん遠くなっちゃったような気がして。昔はいつもそばにいたのに……」
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