8 / 293
第一章 スパイダー
8.
しおりを挟む
金曜日の授業が終わった。
集めたプリントを提出し、委員長としての仕事を終えると僕は五組の中をのぞいた。
今日の朝、いつものように笑香を家まで迎えに行くと、出て来た笑香のおばさんにすでに登校したことを告げられた。さわがしくしゃべる女子達の奥で笑香は自席に腰をかけ、ただ頬杖をついていた。午後の日差しが逆光になり、その表情は読み取れない。
笑香らしくない。
僕は思って肩をすくめた。当たり前だ。普段通りに友達と話をしているわけがない。
「笑香」
教室の外から声をかける。
振り返り、笑香は露骨に表情をこわばらせた。のろのろとその場から立ち上がり、重い足取りでそばに来る。
「何なの?」
僕は笑顔で問いに答えた。
「授業、終わったんだろ? 一緒に帰らないか」
「……」
笑香はきつく唇を噛んだ。昨夜は眠れなかったのだろう、充血した目が痛々しい。
何か言おうとためらいがちに笑香がその口を開いた。だが、その時。
「柿崎さん、迎えに来たよ」
明るく太い声が響いて、笑香の言葉は散ってしまった。
僕は眉間にしわをよせた。
この不愉快な声は新保だ。
「笑香。何してるの?」
ショートカットの大西美優が、僕達の間に顔を出す。
「あ、やっぱり水嶋君も誘うことにしたんでしょ? ねえ、一緒に映画見に行こうよ。新しくできた駅前のシネコン、すっごくきれいなんだって」
どんぐり眼をくりくり動かし、いたずらっぽく大西は言った。
大西は僕や笑香と同じ中学校の出身で、この高校では僕と同様、一組に席を置いている。親友である笑香とは中一からのつきあいだ。その大西の後ろには、僕より頭一つ分も背の高い新保が照れた様子で立っていた。
腹の底にある不愉快を押しつぶし、僕はおだやかな笑顔を作った。
「ああ。先月開館した映画館か。僕招待券を持ってるけど」
新保と大西は色めきたって口々に話しかけて来た。
「ならちょうどいいな。水嶋に頼むか」
「ねえやっぱり一緒に行こうよー」
「──悪いんだけど」
ぴたりと言葉を止めた二人に、僕はにっこり笑って言った。
「家にあるんだ。いったん取りにもどらないと……だから日曜日に改めて遊びに行かないか」
二人の反応は言うまでもなかった。
さっそく計画を立て始める二人に後を任せると、僕は笑香にささやいた。
「後で。また連絡する」
笑香が不安げな表情で僕と二人を見比べる。
僕はかまわず手を振って、笑香に背を向け歩き出した。
集めたプリントを提出し、委員長としての仕事を終えると僕は五組の中をのぞいた。
今日の朝、いつものように笑香を家まで迎えに行くと、出て来た笑香のおばさんにすでに登校したことを告げられた。さわがしくしゃべる女子達の奥で笑香は自席に腰をかけ、ただ頬杖をついていた。午後の日差しが逆光になり、その表情は読み取れない。
笑香らしくない。
僕は思って肩をすくめた。当たり前だ。普段通りに友達と話をしているわけがない。
「笑香」
教室の外から声をかける。
振り返り、笑香は露骨に表情をこわばらせた。のろのろとその場から立ち上がり、重い足取りでそばに来る。
「何なの?」
僕は笑顔で問いに答えた。
「授業、終わったんだろ? 一緒に帰らないか」
「……」
笑香はきつく唇を噛んだ。昨夜は眠れなかったのだろう、充血した目が痛々しい。
何か言おうとためらいがちに笑香がその口を開いた。だが、その時。
「柿崎さん、迎えに来たよ」
明るく太い声が響いて、笑香の言葉は散ってしまった。
僕は眉間にしわをよせた。
この不愉快な声は新保だ。
「笑香。何してるの?」
ショートカットの大西美優が、僕達の間に顔を出す。
「あ、やっぱり水嶋君も誘うことにしたんでしょ? ねえ、一緒に映画見に行こうよ。新しくできた駅前のシネコン、すっごくきれいなんだって」
どんぐり眼をくりくり動かし、いたずらっぽく大西は言った。
大西は僕や笑香と同じ中学校の出身で、この高校では僕と同様、一組に席を置いている。親友である笑香とは中一からのつきあいだ。その大西の後ろには、僕より頭一つ分も背の高い新保が照れた様子で立っていた。
腹の底にある不愉快を押しつぶし、僕はおだやかな笑顔を作った。
「ああ。先月開館した映画館か。僕招待券を持ってるけど」
新保と大西は色めきたって口々に話しかけて来た。
「ならちょうどいいな。水嶋に頼むか」
「ねえやっぱり一緒に行こうよー」
「──悪いんだけど」
ぴたりと言葉を止めた二人に、僕はにっこり笑って言った。
「家にあるんだ。いったん取りにもどらないと……だから日曜日に改めて遊びに行かないか」
二人の反応は言うまでもなかった。
さっそく計画を立て始める二人に後を任せると、僕は笑香にささやいた。
「後で。また連絡する」
笑香が不安げな表情で僕と二人を見比べる。
僕はかまわず手を振って、笑香に背を向け歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる