15 / 293
第一章 スパイダー
15.
しおりを挟む
次の日、僕は学校を休んだ。ぬれたままソファでうたたねし、どうやら風邪をひいたらしい。
体がだるくて熱を測ると三十八度を超えていた。担任にそう伝えると、くどいくらいに心配されてうんざりしながら電話を切った。
熱を出して寝込むなんて小学生の時以来だ。
解熱剤を飲んで横になる。昔、風邪をひいた時、笑香がわざわざおばさんに習って生米からおかゆを作ってくれた。だが肝心の米が生煮えで、僕は風邪の高熱の上に腹まで下してしまったのだ。
当時のことを思い出し、僕は思わずくすくすと笑った。あの時の笑香のしょげ返る顔は本当にかわいくて、逆に幸せな気持ちになって病床についていたような気がする。
少し眠ってまぶたを開く。僕が着ていたTシャツは汗でびっしょりになっていた。シャツを着替えて何か飲もうと一階のキッチンへ向かう。
もう四時か。
玄関にある置き時計で今の時刻を確認すると、待っていたようにチャイムが鳴った。僕はだるい体をおして玄関へ足を進めた。インターホンをのぞいてため息をつく。門からこちらを眺めていたのは制服姿の新保だった。
「新保、どうしたんだ?」
僕はかすれた声でたずねた。水分が無くて喉がひりつく。そういえば、以前何かの拍子に新保に家を教えた気がする。だが、いったい何の用で?
『ごめん。具合が悪そうだな』
インターホンから返事がもどった。
『真下に言われて持って来たんだ。生徒会の、所信表明用の原稿だって』
僕は小さく舌打ちした。頼りにならない担任のあいまいな笑顔を思い出す。
明日でいいと言ったのに。
「わかった。入ってくれ」
仕方なく玄関の鍵を開けると、きょろきょろと物珍しそうな顔で新保が中に入ってきた。僕は分厚い原稿の束をげんなりしながら受け取った。
「あれ? お前一人なのか?」
新保が細い目を丸くする。
「父親は単身赴任。母親は八年前に死んだよ」
僕が答えると、新保は恐縮した顔で大きな体をちぢめて言った。
「ごめん。悪いことを聞いたな」
「べつに、慣れてる」
そっけない僕の返答に新保はますます肩を小さくした。
「じゃ、早く治せよ」
新保は言って、僕に広い背中を向けた。扉に手をかけ、ふと思いついたように振り返る。
「あの後何かあったのか?」
僕は露骨に眉をしかめた。
「どういう意味だ?」
「いや、昨日は、特に具合は悪くなさそうだったから……」
「雨にぬれたせいだよ」
僕はさらにそっけなく答えた。嘘ではなく、先ほどから寒気がひどい。
「そうか。じゃ、な」
新保は軽く頭をかくと、今度こそ玄関のドアを閉めた。
僕はのろのろとキッチンに向かい、冷蔵庫の扉を開けるとむさぼるようにミネラルウォーターを飲んだ。
寒い。
進まない足を引きずりながら階段を上って部屋に入る。そのままベッドへ倒れこみ、意識を失うように眠りについた。
体がだるくて熱を測ると三十八度を超えていた。担任にそう伝えると、くどいくらいに心配されてうんざりしながら電話を切った。
熱を出して寝込むなんて小学生の時以来だ。
解熱剤を飲んで横になる。昔、風邪をひいた時、笑香がわざわざおばさんに習って生米からおかゆを作ってくれた。だが肝心の米が生煮えで、僕は風邪の高熱の上に腹まで下してしまったのだ。
当時のことを思い出し、僕は思わずくすくすと笑った。あの時の笑香のしょげ返る顔は本当にかわいくて、逆に幸せな気持ちになって病床についていたような気がする。
少し眠ってまぶたを開く。僕が着ていたTシャツは汗でびっしょりになっていた。シャツを着替えて何か飲もうと一階のキッチンへ向かう。
もう四時か。
玄関にある置き時計で今の時刻を確認すると、待っていたようにチャイムが鳴った。僕はだるい体をおして玄関へ足を進めた。インターホンをのぞいてため息をつく。門からこちらを眺めていたのは制服姿の新保だった。
「新保、どうしたんだ?」
僕はかすれた声でたずねた。水分が無くて喉がひりつく。そういえば、以前何かの拍子に新保に家を教えた気がする。だが、いったい何の用で?
『ごめん。具合が悪そうだな』
インターホンから返事がもどった。
『真下に言われて持って来たんだ。生徒会の、所信表明用の原稿だって』
僕は小さく舌打ちした。頼りにならない担任のあいまいな笑顔を思い出す。
明日でいいと言ったのに。
「わかった。入ってくれ」
仕方なく玄関の鍵を開けると、きょろきょろと物珍しそうな顔で新保が中に入ってきた。僕は分厚い原稿の束をげんなりしながら受け取った。
「あれ? お前一人なのか?」
新保が細い目を丸くする。
「父親は単身赴任。母親は八年前に死んだよ」
僕が答えると、新保は恐縮した顔で大きな体をちぢめて言った。
「ごめん。悪いことを聞いたな」
「べつに、慣れてる」
そっけない僕の返答に新保はますます肩を小さくした。
「じゃ、早く治せよ」
新保は言って、僕に広い背中を向けた。扉に手をかけ、ふと思いついたように振り返る。
「あの後何かあったのか?」
僕は露骨に眉をしかめた。
「どういう意味だ?」
「いや、昨日は、特に具合は悪くなさそうだったから……」
「雨にぬれたせいだよ」
僕はさらにそっけなく答えた。嘘ではなく、先ほどから寒気がひどい。
「そうか。じゃ、な」
新保は軽く頭をかくと、今度こそ玄関のドアを閉めた。
僕はのろのろとキッチンに向かい、冷蔵庫の扉を開けるとむさぼるようにミネラルウォーターを飲んだ。
寒い。
進まない足を引きずりながら階段を上って部屋に入る。そのままベッドへ倒れこみ、意識を失うように眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる