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第一章 スパイダー
19.
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結局、僕はまる三日間風邪で学校を休んだ。新保に渡された原稿は期限ぎりぎりだったから、どうやら担任の判断は正しかったと言えるだろう。
あの後笑香が僕の家を訪れることはなかった。代わりに笑香のおばさんが朝夕食事を作っては、僕の様子を見るためにうちまで運んで来てくれた。
「あの子、持って行けって言っても風邪がうつるから嫌だって言うの。あなた達めずらしくケンカでもしたの?」
苦笑交じりのおばさんの言葉に、僕は殊勝な顔で答えた。
「僕が笑香に言ったんです。風邪がうつるから来なくていいって」
喉の痛みに声がしゃがれる。どうやらあの時の怒鳴り合いでひどく喉を痛めたらしい。
三日ぶりに身支度を整え、笑香を迎えに隣へ行くと、おばさんがエプロンで手をふきながらうかない表情で謝った。
「ごめんね。しばらく朝早いから朝ご飯もいらないって出て行っちゃって……。あの子部活でも始めたのかしら。史郎君、聞いてない?」
僕は首をかしげて見せると少しかすれる声で答えた。
「そうですね。テニス部の見学をするようなことを言ってたから、朝錬を見に行ってるのかな」
礼を言って借りていた食事のうつわを返す。
僕が一人で登校すると、いの一番に担任が僕の所へやって来た。気弱そうな微笑みで僕の体調をたずねて来る。
僕が笑顔で原稿を渡すと職員室へ早々に消えた。まあ、下手につきまとわれるより、適度に距離を置いてくれた方がこちらとしても都合がいい。
「大変だったみたいだな」
新保に声をかけられて僕は再び作り笑いを浮かべた。
「すまなかったな。わざわざうちまで原稿を持って来てくれたのに、何も出さずに帰らせて」
あの時の無愛想な対応は病気のせいだと思わせるため、慎重に言葉を選ぶ。
「いや、こっちこそ悪かったよ。本当に具合が悪そうだったから、連絡の一つも入れてから行けばよかったと思って……」
新保が申し訳なさそうに言い、ぽんと僕の肩を叩いた。
「治ったからってまだ無理すんなよ」
その時、僕は背後から向けられた刺すような視線に気がついた。
振り返って相手を見る。そこには思わせぶりな表情で腕を組んで僕を見る、大西美優の姿があった。
授業の合間の休み時間に借りたノートを写していると、ここぞとばかりに大西が僕のそばまでやって来た。とがった声でたずねる。
「水嶋君。笑香、あなたが風邪だって知らなかったみたいよ。ここニ、三日はずっとふさぎこんでて、私にも何にも話してくれないし……。日曜日、あの後何があったの?」
おせっかいな大西の問いかけに、僕は内心うんざりしながらも口を開いた。
「寝込んだ初日は学校に言っただけで、笑香に連絡できなかったんだ。後でラインに入れたんだけど気がつかなかったみたいでさ。その上、風邪がうつるから来るなって言われて怒ってるんだよ。大西からも後で笑香に言っておいてくれないか? 僕が謝ってたって」
おだやかな僕の返答に、大西はあっさり今までの態度をくつがえした。
「なーんだ。そんなことだったんだ」
あの後笑香が僕の家を訪れることはなかった。代わりに笑香のおばさんが朝夕食事を作っては、僕の様子を見るためにうちまで運んで来てくれた。
「あの子、持って行けって言っても風邪がうつるから嫌だって言うの。あなた達めずらしくケンカでもしたの?」
苦笑交じりのおばさんの言葉に、僕は殊勝な顔で答えた。
「僕が笑香に言ったんです。風邪がうつるから来なくていいって」
喉の痛みに声がしゃがれる。どうやらあの時の怒鳴り合いでひどく喉を痛めたらしい。
三日ぶりに身支度を整え、笑香を迎えに隣へ行くと、おばさんがエプロンで手をふきながらうかない表情で謝った。
「ごめんね。しばらく朝早いから朝ご飯もいらないって出て行っちゃって……。あの子部活でも始めたのかしら。史郎君、聞いてない?」
僕は首をかしげて見せると少しかすれる声で答えた。
「そうですね。テニス部の見学をするようなことを言ってたから、朝錬を見に行ってるのかな」
礼を言って借りていた食事のうつわを返す。
僕が一人で登校すると、いの一番に担任が僕の所へやって来た。気弱そうな微笑みで僕の体調をたずねて来る。
僕が笑顔で原稿を渡すと職員室へ早々に消えた。まあ、下手につきまとわれるより、適度に距離を置いてくれた方がこちらとしても都合がいい。
「大変だったみたいだな」
新保に声をかけられて僕は再び作り笑いを浮かべた。
「すまなかったな。わざわざうちまで原稿を持って来てくれたのに、何も出さずに帰らせて」
あの時の無愛想な対応は病気のせいだと思わせるため、慎重に言葉を選ぶ。
「いや、こっちこそ悪かったよ。本当に具合が悪そうだったから、連絡の一つも入れてから行けばよかったと思って……」
新保が申し訳なさそうに言い、ぽんと僕の肩を叩いた。
「治ったからってまだ無理すんなよ」
その時、僕は背後から向けられた刺すような視線に気がついた。
振り返って相手を見る。そこには思わせぶりな表情で腕を組んで僕を見る、大西美優の姿があった。
授業の合間の休み時間に借りたノートを写していると、ここぞとばかりに大西が僕のそばまでやって来た。とがった声でたずねる。
「水嶋君。笑香、あなたが風邪だって知らなかったみたいよ。ここニ、三日はずっとふさぎこんでて、私にも何にも話してくれないし……。日曜日、あの後何があったの?」
おせっかいな大西の問いかけに、僕は内心うんざりしながらも口を開いた。
「寝込んだ初日は学校に言っただけで、笑香に連絡できなかったんだ。後でラインに入れたんだけど気がつかなかったみたいでさ。その上、風邪がうつるから来るなって言われて怒ってるんだよ。大西からも後で笑香に言っておいてくれないか? 僕が謝ってたって」
おだやかな僕の返答に、大西はあっさり今までの態度をくつがえした。
「なーんだ。そんなことだったんだ」
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