【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第一章 スパイダー

30.

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 夏休みが始まった。

 僕は休みの前と変わらず毎日生徒会室へ通った。一応覚悟はしていたものの、生徒会役員の行う仕事は下手な体育会系の部活動よりも数が多い。
 一年生の僕は自ら下働きを買って出たから、先輩達よりさらに雑用が多かった。これでサッカー部にでも入ろうものなら、僕の高校生活は健全で破綻してしまう。

 その日も一日うだるような暑さで、僕は心底うんざりしながら学校案内の準備を行った。湿気の多さもあいまって、かいた汗がまったく引かずに後から流れ落ちてくる。やってきた他校の生徒達も、暑い校舎の中を出歩く案内などには興味を示さず、結局クーラーがよく効いた生徒会室にこもりっきりのありさまだった。

 だが、さすがに五時をまわると昼間の熱も引いてきた。他校の生徒が帰った後の反省会も終了し、すべての後片づけをすませて、生徒会役員の一学期分の仕事が終わった。
 他の役員が出て行った後、僕は自分がうけおっていた数々の書類を整理して、やっと生徒会室を後にした。

 笑香は一つだけ明かりのついた玄関口で待っていた。ノースリーブのワンピース姿で靴箱によりかかっている。

「ごめん。遅くなった」

 僕が言うと、笑香は首を横に振った。茜色をした校庭にいくつもの笑い声が響く。
 さわがしく校門から出て行く一団に、笑香が視線を向けてたずねた。

「あれ、他の役員の人達?」
「そう。僕は後片づけをしていて遅くなった」
「一年生だから? 大変ね」

 笑香がめずらしく感情を込めてつぶやく。僕は笑った。

「そうでもないさ。──一人で残ればそれだけ色々なことができる」
「……」

 笑香はそのまま口をつぐんだ。
 あたりは急速に暗くなっていた。玄関口のにぶい明かりに集まって来た、小さなガの羽音が気になる。

「それで? 前から言ってた、僕に用って?」

 静かに僕がたずねると、笑香は答えずに廊下を見やった。教室へと向かう見慣れた廊下は、薄暗いたそがれの中でしんと静まり返っていた。

「教室にはまだ入れるの?」
「八時までならね。僕が鍵を閉めて、職員室へ持って行くことになってる」

 笑香は僕の言葉を聞くと、はいていたサンダルをその場に脱ぎ捨て、歩き出した。

「おい?」
「教室に忘れ物があるの。取りに行ってもいい?」

 それだけ言うと返事も聞かずにすたすたと歩いて行ってしまう。僕は仕方なくその後を追った。
 廊下の窓からもれる光が笑香の影をのばしている。誰もいない教室の並びは、まるで異世界へと向かう暗い階段のようだった。
 笑香は五組の教室に入ると躊躇なく自分の机に向かった。僕は無言でついていった。笑香は自分の机に座り、忘れ物を探すわけでもなく、うつむいたままで机の角をそっと指先でなぞっている。

「何してるんだ」

 近づく僕の顔を見上げ、笑香はさみしそうに笑った。

「前にもこんなことがなかったっけ」
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