【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第一章 スパイダー

33.

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 雷鳴がとどろいた。ぽつり、ぽつりと雨粒が教室の窓をぬらして行く。
 僕はゆっくりと手をのばし、笑香の華奢な二の腕にふれた。笑香が飛びのいて距離を置く。

「だめだよ。もう、君は僕の物だ」

 一歩僕は前に出た。笑香の頬が恐怖に引きつる。
 僕は陶酔にも似た喜びに自分の欲望のすべてをゆだねた。
 本当になんて快感だ。目のくらむような甘美な瞬間。

「もう……だめ」

 石をまくような雨音の中で、笑香のつぶやきが耳朶を打った。
 その手がそろそろと上げられる。暗がりに光る青白い刃。
 僕は大きく眉尻を上げた。いつの間に用意したのだろうか。笑香はその手に果物ナイフを持っていた。

「……一体どうすればあなたにわかってもらえるのかと思ったんだけど……」

 落ち着いて聞こえる口調に反し、細いナイフを握る両手はがたがたと震えている。

「僕を殺す?」

 僕は薄く笑ってたずねた。

「親の犯罪をかくすために自分が罪を犯すのか。それだと『家族を守る』っていうもともとの君の目的が、根本からくつがえることになるけど」

 肩をすくめてつけ加える。

「いいさ、それでも。──君に殺されるなら本望だ」

 なんだ。
 僕は内心苦笑していた。結局僕も母親と同じような目に合うのか。
 だが次の瞬間に僕は両目を見開いた。

「何を……‼」

 笑香が刃先を僕ではなくて、自分の首筋に向けたのだ。

「もっと早くこうすればよかった」

 疲れた声でつぶやきながら、笑香が喉に刃を押し当てる。

「でも、まだ遅くないでしょう?」

 悲しみがにじむ無気力な言葉。僕は両方の拳を握りしめた。

「……やってみろ」

 低く地の底からはい出すようにおぞましく響く僕の声。

「君が死んだらその瞬間に僕は勇人を殺しに行くよ。生きたまま切りきざんだ後、君の墓の前につき出してやる」

 したたるような呪いの言葉に、笑香の瞳に動揺が走る。

「君がいなくなるくらいなら、君にかかわるすべての人間をまきぞえにして死んでやる。僕が今やれるすべてのことを全部ためした後で死ぬ。──この学校の生徒を全員、まきぞえにしたっていい。どれだけの人が死ぬことになっても、それは全部君のせいだ」

 僕は唇の両端を笑いの形につり上げた。

「僕を止められるのは、君だけだ」

 近くに雷が落ちた。
 反射的に笑香の気がそれて、刃先が白い喉から離れる。わずかなすきを見逃さず、僕は笑香の手首をつかんだ。動揺にゆるんだ指から無理やり果物ナイフを奪い、すぐに遠くへと投げ捨てる。
 すくませた細い肩をつかむ。絶望的な表情で僕を見上げる笑香の顔に、僕は抑揚のない声で告げた。

「言っただろう? 夏休みまで僕は待ったよ。今度こそ、君を逃がさない」

 笑香の肩がだらりと落ちた。
 笑香を守り続けたこの手が、笑香のすべてを破壊する。
 僕はそのまま肩を引きよせ、乾ききった唇を奪った。抵抗のない笑香の体を教室の床に押し倒す。
 叩きつけるような雨の中、僕は笑香にのしかかった。
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