56 / 293
第二章 おもちゃの密室
23.
しおりを挟む
──水嶋君、かわいそうね。
──でも、私達には関係ない。
僕にまとわりついた過去。笑香は知らない僕の過去。
僕は笑香に知られたくなかった。
「全部新保に聞いたんだろ? 僕のこと。新保は全部知ってたんだろ?」
新学期が始まったあの日、新保が僕を誘い出した時点ですでに勝敗は決まっていたのだ。
笑香は呆気にとられた顔で僕の言うことを聞いていた。
『初めは確かに好奇心だったんだ。先に水嶋のことが気になって、あんた達二人に興味を持った。あの日、部活で使うマイクを取りに専門室棟へ行ったら、たまたまあんた達がPC教室に入るのが見えて。悪いとは思ったんだけど、妙な雰囲気にちょっと立ち聞きしてたんだ。そしたらあんたの声が聞こえて』
誰もいない生徒会室で、習慣化した笑香のスマホ確認。その際、スマホに残されていたあいつと密会した証拠。
『あの時俺が聞いた話は、どう考えてもつきあってるやつらの会話じゃなかった。まさか、あの水嶋が、あんたにあんなこと言うなんて……』
凍りついたような沈黙の後、切々とした訴えが響く。
『はじめ、何の冗談かと思った。あの水嶋が、彼女のはずのあんたを脅してるだなんて。あの……いつもおだやかで、優等生の水嶋が……』
僕は全身を緊張させて、イヤホンから聞こえて来る音声に耳をそばだてていた。
落ち着け。とりあえずこの会話では、奴は笑香が脅迫されている事実は理解していても、「なぜ」笑香が僕に脅迫されているかは知らない。それならどんなに揺さぶられようとも、笑香は決して自分からその内容を語りはしない。──警察官の父親が僕の母親を殺した後、その罪を隠蔽したなんて。
新保の沈鬱な声音が続く。
『本当は今でも信じられない。はじめ、あんた達は本当に仲がよさそうで、ただ見てるだけの俺でさえ幸せそうだと思ってたんだ。でもふと気づくと、あんたはどんどん暗くなって行って──わかるんだ。あんたの目がいつも水嶋を警戒してるのが。顔は笑ってても目が違うんだ。どこか水嶋を気にしてて、でもそれは好きだからとか、そんな感じの目じゃなくて──』
だから僕達を見ていたのか。
僕は冷え切った感情の下で新保の視線を思い出した。何か言いたげな、粘りつくような、どこか気になる新保の視線。それは単なる嫉妬ではなく、疑惑の視線だったのか。
『でも俺は知ってたんだ。昔、まだ小さかった頃の水嶋を。それからいとこから聞いた水嶋の話を。それは二つともひどい話で──母親もいとこも水嶋の境遇に同情してた。だから俺は納得した。今の水嶋も無理はないって。まるで二重人格みたいな今の水嶋を作らなきゃ、きっとやっていけなかったんだろうなって。だけど……』
言葉を切って、再び語り出す。
『だけどそれとこれとは違うだろ。何の負い目があるのか知らないけど、水嶋があんたをあんなふうに脅迫していいことにはならない』
──でも、私達には関係ない。
僕にまとわりついた過去。笑香は知らない僕の過去。
僕は笑香に知られたくなかった。
「全部新保に聞いたんだろ? 僕のこと。新保は全部知ってたんだろ?」
新学期が始まったあの日、新保が僕を誘い出した時点ですでに勝敗は決まっていたのだ。
笑香は呆気にとられた顔で僕の言うことを聞いていた。
『初めは確かに好奇心だったんだ。先に水嶋のことが気になって、あんた達二人に興味を持った。あの日、部活で使うマイクを取りに専門室棟へ行ったら、たまたまあんた達がPC教室に入るのが見えて。悪いとは思ったんだけど、妙な雰囲気にちょっと立ち聞きしてたんだ。そしたらあんたの声が聞こえて』
誰もいない生徒会室で、習慣化した笑香のスマホ確認。その際、スマホに残されていたあいつと密会した証拠。
『あの時俺が聞いた話は、どう考えてもつきあってるやつらの会話じゃなかった。まさか、あの水嶋が、あんたにあんなこと言うなんて……』
凍りついたような沈黙の後、切々とした訴えが響く。
『はじめ、何の冗談かと思った。あの水嶋が、彼女のはずのあんたを脅してるだなんて。あの……いつもおだやかで、優等生の水嶋が……』
僕は全身を緊張させて、イヤホンから聞こえて来る音声に耳をそばだてていた。
落ち着け。とりあえずこの会話では、奴は笑香が脅迫されている事実は理解していても、「なぜ」笑香が僕に脅迫されているかは知らない。それならどんなに揺さぶられようとも、笑香は決して自分からその内容を語りはしない。──警察官の父親が僕の母親を殺した後、その罪を隠蔽したなんて。
新保の沈鬱な声音が続く。
『本当は今でも信じられない。はじめ、あんた達は本当に仲がよさそうで、ただ見てるだけの俺でさえ幸せそうだと思ってたんだ。でもふと気づくと、あんたはどんどん暗くなって行って──わかるんだ。あんたの目がいつも水嶋を警戒してるのが。顔は笑ってても目が違うんだ。どこか水嶋を気にしてて、でもそれは好きだからとか、そんな感じの目じゃなくて──』
だから僕達を見ていたのか。
僕は冷え切った感情の下で新保の視線を思い出した。何か言いたげな、粘りつくような、どこか気になる新保の視線。それは単なる嫉妬ではなく、疑惑の視線だったのか。
『でも俺は知ってたんだ。昔、まだ小さかった頃の水嶋を。それからいとこから聞いた水嶋の話を。それは二つともひどい話で──母親もいとこも水嶋の境遇に同情してた。だから俺は納得した。今の水嶋も無理はないって。まるで二重人格みたいな今の水嶋を作らなきゃ、きっとやっていけなかったんだろうなって。だけど……』
言葉を切って、再び語り出す。
『だけどそれとこれとは違うだろ。何の負い目があるのか知らないけど、水嶋があんたをあんなふうに脅迫していいことにはならない』
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる