120 / 293
第五章 夢の終わり
5.
僕は憂いに満ちたまなざしで勇人のけわしい顔を見た。それは、僕がはるか昔に通り過ぎたはずの感傷だった。
風呂から出ると僕達はテレビの前に陣取って、結局行くことのできなかった最終予選の録画を見た。ぶかぶかの服を身にまとい、画面を真剣な表情で見ている勇人の横顔を眺めながら、僕はあらためて笑香に連絡した。一応、直接おばさんに許可を取ろうと電話したのだが、おばさんが電話に出なかったのだ。
『今、お父さんと話してる。仕事のこととお酒のことで。勇人を預かってくれてよかった』
笑香の返事に僕はほっとため息をついた。これで少しは良い方向に行ってくれればいいんだが。
「お兄ちゃん、見た? 今の田中の先制点!」
勇人に声をかけられて、僕はあいまいに微笑んだ。
「前半のPKでさ……」
明るく僕に話をしていた勇人の会話が、ふと途切れた。やるせなさそうに目をそらす。
「やっぱり目の前で見たかったな。あの田中のゴール、お兄ちゃんと。お姉ちゃんも一緒にさ」
つぶやくように言った言葉に胸がつかえる思いがする。勇人はきっぱりと言い切った。
「俺、やっぱりサッカー好きだ。お兄ちゃんとまたサッカーやりたい」
「わかった」
僕はうなずいた。
「僕の怪我が治ったら、また公園でサッカーの練習をしよう。──お姉ちゃんも一緒に」
「今度約束をやぶったら、絶対に許さないからな」
ふんぞり返って念を押す勇人に、今度は自然に微笑んだ。
*
そのままソファで眠ってしまった勇人の体を抱き上げて、僕は二階の部屋へ行き、自分のベッドに勇人を寝かせた。予想以上の勇人の重みに折れた肋骨が悲鳴を上げたが、何とか部屋に運び込めた。
結局姉の方ではなくて、弟とこの部屋で寝るのか。
未練がましく残る思いにほっとため息をつく。肩をすくめて邪念を払い、僕は父親の寝室へ向かった。自分用に布団を運び込むためだ。
僕が入院している間、父親はこのほこりっぽい寝室で寝泊まりしていたらしい。昨日父親の気配が残る布団が嫌で干しておいたのだ。
ベッドの隣に布団を敷いて、自分の今夜の寝床を作る。ふと思いつき、カーテンのすきまから外をのぞいた。木枯らしできしむ窓の向こうに笑香の部屋の明かりが見える。
僕はスマホを手に取った。
『史郎君』
一コールもしないうちに、笑香の柔らかな声が答える。
風呂から出ると僕達はテレビの前に陣取って、結局行くことのできなかった最終予選の録画を見た。ぶかぶかの服を身にまとい、画面を真剣な表情で見ている勇人の横顔を眺めながら、僕はあらためて笑香に連絡した。一応、直接おばさんに許可を取ろうと電話したのだが、おばさんが電話に出なかったのだ。
『今、お父さんと話してる。仕事のこととお酒のことで。勇人を預かってくれてよかった』
笑香の返事に僕はほっとため息をついた。これで少しは良い方向に行ってくれればいいんだが。
「お兄ちゃん、見た? 今の田中の先制点!」
勇人に声をかけられて、僕はあいまいに微笑んだ。
「前半のPKでさ……」
明るく僕に話をしていた勇人の会話が、ふと途切れた。やるせなさそうに目をそらす。
「やっぱり目の前で見たかったな。あの田中のゴール、お兄ちゃんと。お姉ちゃんも一緒にさ」
つぶやくように言った言葉に胸がつかえる思いがする。勇人はきっぱりと言い切った。
「俺、やっぱりサッカー好きだ。お兄ちゃんとまたサッカーやりたい」
「わかった」
僕はうなずいた。
「僕の怪我が治ったら、また公園でサッカーの練習をしよう。──お姉ちゃんも一緒に」
「今度約束をやぶったら、絶対に許さないからな」
ふんぞり返って念を押す勇人に、今度は自然に微笑んだ。
*
そのままソファで眠ってしまった勇人の体を抱き上げて、僕は二階の部屋へ行き、自分のベッドに勇人を寝かせた。予想以上の勇人の重みに折れた肋骨が悲鳴を上げたが、何とか部屋に運び込めた。
結局姉の方ではなくて、弟とこの部屋で寝るのか。
未練がましく残る思いにほっとため息をつく。肩をすくめて邪念を払い、僕は父親の寝室へ向かった。自分用に布団を運び込むためだ。
僕が入院している間、父親はこのほこりっぽい寝室で寝泊まりしていたらしい。昨日父親の気配が残る布団が嫌で干しておいたのだ。
ベッドの隣に布団を敷いて、自分の今夜の寝床を作る。ふと思いつき、カーテンのすきまから外をのぞいた。木枯らしできしむ窓の向こうに笑香の部屋の明かりが見える。
僕はスマホを手に取った。
『史郎君』
一コールもしないうちに、笑香の柔らかな声が答える。
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である