【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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第五章 夢の終わり

7.

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 翌朝、僕は浮かない気分で勇人と食事を取っていた。先ほど今日の予定について笑香に連絡したのだが、肝心の笑香が出なかったのだ。
 昨日の夜はつい勢いであんなことを口にしてしまったが、もしかすると笑香は僕に引いていたんだろうか。

 勇人がシチューの残りを平らげ、上目づかいで僕を見る。勇人の頬は一晩で腫れが引き、ほとんど目立たなくなっていた。これで明日学校へ行っても不審がられはしないだろう。

「これ、おいしかったからまた今度作ってよ。お兄ちゃんがお姉ちゃんに教えてやってもいいけどさ。……本当にお姉ちゃんと結婚しないの?」

 いたずらっぽく勇人に問われ、僕は半分うわの空で答えた。

「お姉ちゃんが結婚してくれればな」

 勇人はくすりと笑みをこぼした。

「そんなのするに決まってんじゃん。お姉ちゃん、しょっちゅうスマホでお兄ちゃんの写真見てるぜ」

 僕はぽかんと口を開けた。

「──本当か?」
「うん。運動会の時の写真かな。お兄ちゃん、はちまきしてバトン持ってた」

 思わず頬をゆるませる。
 勇人はにやにやして言った。

「昨日、お姉ちゃんも一緒に泊まればよかったのに」
「馬鹿。いいからちゃんと野菜も食べろ。今日はトマトを残すなよ」

 厳しい声を作って言うと、勇人は黙って首をすくめた。その時、ちょうどスマホに着信が来て、僕はあわててテーブル上に置いたスマホを取り上げた。席を立って勇人から離れる。

『ごめん。昨日なかなか眠れなかったせいで、電話に気がつかなくて。──勇人はどう?』

 いつもと同じ笑香の声に、僕はほっと胸をなで下ろした。

「大丈夫だよ。頬の腫れも引いたし、朝ご飯をおかわりしてる」

 笑香が小さく笑いを漏らす。だがその奥にひそんだ影を感じ取り、僕は難しい思いを持った。

「そっちは?」
『うん。とりあえず落ち着いた。それで、悪いんだけど……』

 遠慮がちに笑香が続ける。

『朝ご飯を食べ終わったら、勇人を連れてうちに来て。──お父さんが、史郎君にちょっと聞きたいことがあるって』

 僕は一瞬、腹にずしりと重たいものを抱えた気がした。
 一体何が聞きたいのだろう。心当たりがありすぎて、気持ちの整理が追いつかない。
 だが、すぐに静かに答えた。

「わかった。それじゃ、すぐに行くよ」

 いよいよか。
 僕は着信が切れたスマホを、無言のままで凝視した。
 きっとこれが終わった時には何らかの結論が出ているだろう。
 僕は一度だけスマホを握り、自分のポケットにしまい込んだ。

     *

 食事の後片づけを済ませると、僕は渋る勇人を連れて柿崎家の門をくぐった。ひどく面やつれしたおばさんに迎えられ、心なしか暗い玄関に入る。体を固くする勇人の肩に、僕は優しく手を乗せてやった。

「ごめんなさいね、史郎君。勇人が迷惑をかけてしまって」

 目の下に濃いくまをつくったおばさんの声はしゃがれていた。それだけで僕には昨日の嵐の大きさがうかがい知れた。
  そのおばさんの後ろには、ぴったりとしたタートルのニットとスカート姿の笑香がいた。
  何だか以前会った時より細くなったような気がする。笑香は僕達の方を見ながら、リビングにつながるガラスの引き戸にその背中を預けていた。

「……おはよう」

 小さな声だった。
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