【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

5.柳沢笑香の完璧な恋人 5

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『前からちょっと考えてたの。史郎君が私にこだわったのは、もしかしてすり込みだったのかなって。ほら、卵からかえったひなが、一番始めに会ったものを親鳥とまちがえるって話。最初に会ったのが私だったから、史郎君は私のこと──』
『そんな勝手に僕の気持ちを解釈されてたまるか。そんな簡単な思いだったら、僕は今君のそばにいない。大体、もしもすり込みだったら何だっていうんだ? 誰かに代わって欲しいのか?』

 ふと、以前史郎と交わした会話のことを思い出す。
 一度は彼に否定されたが、笑香はやはり自分の価値にあまり自信が持てないでいた。史郎にとっては初めて自分が彼を受け入れた存在であり、だからこそ自分にこだわっているのであって、もしかすると本当は、彼には自分よりふさわしい人間がどこかにいるのではないだろうか?

「……おまたせ。じゃあ乗って」

 ちょうどその時、湯浅の車が二人の前に停められた。それがまた、いかにも高級そうな乗用車で、笑香は湯浅が史郎の父親の社長秘書であることを思い出した。
 一瞬気圧された笑香の前で、史郎は全く臆することなく車の背後に回り込み、笑香が持って来たキャリーケースをトランクの中に乗せている。

「ほら、早く乗って」

 史郎に軽くうながされ、笑香は車のドアを開いた。
 後部座席に乗り込むと、史郎が当然のように続いて笑香の隣に腰かけた。今まで以上に近い空間で制服姿の史郎を感じ、笑香の背筋がぴんとのびる。

「で? 湯浅さん、結局どこに行く?」

 車を発車させながら湯浅が史郎の問いに答えた。

「いつもの所でいいんじゃないかな。笑香ちゃんも一緒だし、史郎君も制服じゃ、焼肉だと匂いがついちゃうだろ?」
「そうか。焼肉、食べたかったんだけど」

 なれた様子で会話する二人に、笑香は微笑ましいものを感じた。
 いつもはその年齢以上の印象を受ける史郎だが、幼い頃からの理解者である湯浅と一緒にいる時は、彼も年相応の素顔を見せる。それはまるで弟の勇人が、実の兄のように慕っている彼と話をしている時に似ていた。

「この時間なら、混んでないからすぐ入れるな。……腹減った」

 史郎が自分の腕時計で時間を確認するのを見て、笑香は瞳を見開いた。彼が腕時計をしている姿など、今まで見たことがなかったのだ。
 笑香の視線に気がついたのか史郎は肩をすくめて言った。

「いちいちスマホをひっぱり出すよりこっちの方が楽なんだ。家にいる時は水仕事の邪魔になるから……」
「史郎君、主婦みたいだね」

 湯浅にからかうように告げられ、史郎が口元を引き結ぶ。

「しかたないだろ。僕がやらなきゃ、誰があの部屋を掃除するんだ。食べる物だってろくに作れないし……」

 同居している雅史のことを言っているのに気がついて、笑香は再び微笑んだ。湯浅もバックミラー越しに目元が笑っているのがわかる。
 何だかんだと文句を言いつつ、史郎が自分の父親とそれなりに仲良く暮らしているのを、笑香はよくわかっていた。
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