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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人
93.初恋と卵焼き、再び 17
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すたすたと歩く足音が聞こえた。扉を開いた音に続いて足音が教室の中に入って来る。
──あっ、こっちに来た。
足音が近づくのを耳にして、笑香は肩を緊張させた。細い光が漏れ出している両開きの戸の間から、外の様子をうかがって見る。どうやら高学年の先生が、明日の授業で必要な物を教室に取りに来たようだ。
ここの戸棚の中は広くて、いくつか残っているだけの折り畳み式のいす以外、子供二人が隠れるくらいは十分なスペースがある。だが緊張感に気圧されて笑香は息が苦しくなった。普段遊んでいるかくれんぼの時とは数段違う緊張感だ。
その時、さらりと指先で自分の髪にふれられて、笑香は横にすわり込んでいる男の子の顔を見た。幼いけれども整った顔がはにかむように笑っている。
『見つかっちゃうかな?』
面白そうにこそっと問われ、笑香はどきどきしていた胸が少し落ち着いたのを感じた。
『なんでかな。僕、かくれんぼは好きじゃないんだけど。でもえみかちゃんと一緒だったら怖くない』
ささやき声にうれしくなって、笑香は喉から込み上げて来た笑いをあわてて噛み殺した。せまい空間に二人でいるのが何だか楽しくなってしまい、膝を抱えていた腕に勝手に力が入って来る。
探していた物が見つかったのか先生の足音が遠ざかる。二人で耳をそばだてながら、完全に足音が聞こえなくなったのを確認すると、笑香は隣の男の子とお互いの目を見合わせた。見つからなかった安心感に全身の力を抜いた後、二人そろってふき出してしまう。
一通り笑いが収まった後、ふと男の子が真剣な瞳を向けて来た。
『えみかちゃん』
どこか緊張したような響きに、笑香はぱちぱちとまばたきした。
『僕と……。ずっと、一緒にいてくれる?』
小さな声で伝えられた言葉に笑香は深くうなずいた。
『うん。いいよ』
満面の笑みを浮かべた笑香が男の子にそう約束すると、男の子の生真面目な顔が、今まで以上に近づいて来た。
そして──。
*
笑香はまぶたを閉じたまま、その先に続く光景を何とはなしに待っていた。だが現在の自分の意識が薄ぼんやりともどって来る。
──ええっと。ここは……。
夢うつつの記憶をたどり、かけている布団が何となく重い気がして寝返りを打つ。頬に固い何かが当たって、笑香はやっとまぶたを開いた。
「おはよう」
聞き慣れた低い声がした。史郎の裸の肩口が自分の目の前にあり、ぎょっとして完全に目が覚める。
──あっ、こっちに来た。
足音が近づくのを耳にして、笑香は肩を緊張させた。細い光が漏れ出している両開きの戸の間から、外の様子をうかがって見る。どうやら高学年の先生が、明日の授業で必要な物を教室に取りに来たようだ。
ここの戸棚の中は広くて、いくつか残っているだけの折り畳み式のいす以外、子供二人が隠れるくらいは十分なスペースがある。だが緊張感に気圧されて笑香は息が苦しくなった。普段遊んでいるかくれんぼの時とは数段違う緊張感だ。
その時、さらりと指先で自分の髪にふれられて、笑香は横にすわり込んでいる男の子の顔を見た。幼いけれども整った顔がはにかむように笑っている。
『見つかっちゃうかな?』
面白そうにこそっと問われ、笑香はどきどきしていた胸が少し落ち着いたのを感じた。
『なんでかな。僕、かくれんぼは好きじゃないんだけど。でもえみかちゃんと一緒だったら怖くない』
ささやき声にうれしくなって、笑香は喉から込み上げて来た笑いをあわてて噛み殺した。せまい空間に二人でいるのが何だか楽しくなってしまい、膝を抱えていた腕に勝手に力が入って来る。
探していた物が見つかったのか先生の足音が遠ざかる。二人で耳をそばだてながら、完全に足音が聞こえなくなったのを確認すると、笑香は隣の男の子とお互いの目を見合わせた。見つからなかった安心感に全身の力を抜いた後、二人そろってふき出してしまう。
一通り笑いが収まった後、ふと男の子が真剣な瞳を向けて来た。
『えみかちゃん』
どこか緊張したような響きに、笑香はぱちぱちとまばたきした。
『僕と……。ずっと、一緒にいてくれる?』
小さな声で伝えられた言葉に笑香は深くうなずいた。
『うん。いいよ』
満面の笑みを浮かべた笑香が男の子にそう約束すると、男の子の生真面目な顔が、今まで以上に近づいて来た。
そして──。
*
笑香はまぶたを閉じたまま、その先に続く光景を何とはなしに待っていた。だが現在の自分の意識が薄ぼんやりともどって来る。
──ええっと。ここは……。
夢うつつの記憶をたどり、かけている布団が何となく重い気がして寝返りを打つ。頬に固い何かが当たって、笑香はやっとまぶたを開いた。
「おはよう」
聞き慣れた低い声がした。史郎の裸の肩口が自分の目の前にあり、ぎょっとして完全に目が覚める。
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