【完結】優等生の幼なじみは私をねらう異常者でした。

小波0073

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番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人

104.初恋と卵焼き、再び 28

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 笑香は自分の心の中がしずまって行くのを感じ取った。
 史郎は怒っていなかった。自分が史郎に取った態度にも、今の父親の話にも。それは多分彼が前より大人になった証拠だろう。以前の苛烈な史郎だったら今の話に反発し、雅史と笑香の両方に怒りをぶつけていたはずだ。

 ほぐれた緊張にうれしくなって、笑香は自分の頬にふれている史郎の手の甲に左手を重ねた。すると史郎の生真面目な顔が今まで以上に近づいて来た。そして自分の唇に、唇が優しく押しつけられる。
 ふれた唇を離した後で史郎が小さくささやいた。

「──それで結局、君はどっちの味方なんだ?」

 笑香はわずかに眉をよせた。

「え?」

 史郎は真正面から笑香を見すえると、固い声音で問いかけた。

「僕と、親父の。君は何だか親父の方に肩入れしてる気がするけど。今あっちの味方だって言ったら怒るぞ」

──史郎君、やっぱり根に持ってる。

 笑香は大きく嘆息した。そう簡単に彼の性格がおだやかに落ち着くはずがなかった。苦笑いを漏らした後で、いたずらっぽく史郎を見上げる。

「おじさん、やっぱりかっこいいね」

 笑香が言った内容に史郎は目をむいて笑香を見た。

「もしかして……。一昨日君が僕を意識したのは、親父に似てたからなのか?」
「えっ、そんな……そういう訳じゃ」

 否定しかけて一瞬視線を上に向ける。

──あれ? そういうことなのかな?

 そんな笑香の様子を眺め、史郎は信じられないといった表情をした。

「もう二度と、君の前で眼鏡なんかかけないからな」

 憤然としたその口ぶりに笑香は思わず吹き出した。こいつ、と言うようなつぶやきの後、史郎が両手で頬をはさんで深く唇を重ねて来る。
 強いつながりを求める彼に、笑香は愛おしい気持ちになって彼の背中に腕を回した。父の告白──長い懺悔を耳にした彼を思いやり、今自分がそばにいることがどれほど彼に重要なのか、笑香にももうわかっていた。

 目の前の史郎を肌身で感じ、自身の家族を思い浮かべる。今自分の目の前に再びあの時の情景が現れたとしても、自分は彼を助けるために父親が下ろした刃の前へと躊躇なく飛び込むだろう。それが、例え父親の命を奪う結果になったとしても。

 一旦史郎の唇が離れ、角度を変えてもう一度重なる。熱のこもった彼の行為に「そろそろまずい」と笑香が思い始めた時。
 ぐうっと史郎の腹の方から空腹を知らせる音がした。一瞬二人とも硬直した後、唇を離してお互いの顔を見合わせる。

「……ごめん。朝、起きた時から腹が減ってて──」

 情けない声で史郎がつぶやく。こらえきれずに笑香は声を上げて笑った。
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