276 / 293
番外編1 柳沢笑香の完璧な恋人
104.初恋と卵焼き、再び 28
しおりを挟む
笑香は自分の心の中がしずまって行くのを感じ取った。
史郎は怒っていなかった。自分が史郎に取った態度にも、今の父親の話にも。それは多分彼が前より大人になった証拠だろう。以前の苛烈な史郎だったら今の話に反発し、雅史と笑香の両方に怒りをぶつけていたはずだ。
ほぐれた緊張にうれしくなって、笑香は自分の頬にふれている史郎の手の甲に左手を重ねた。すると史郎の生真面目な顔が今まで以上に近づいて来た。そして自分の唇に、唇が優しく押しつけられる。
ふれた唇を離した後で史郎が小さくささやいた。
「──それで結局、君はどっちの味方なんだ?」
笑香はわずかに眉をよせた。
「え?」
史郎は真正面から笑香を見すえると、固い声音で問いかけた。
「僕と、親父の。君は何だか親父の方に肩入れしてる気がするけど。今あっちの味方だって言ったら怒るぞ」
──史郎君、やっぱり根に持ってる。
笑香は大きく嘆息した。そう簡単に彼の性格がおだやかに落ち着くはずがなかった。苦笑いを漏らした後で、いたずらっぽく史郎を見上げる。
「おじさん、やっぱりかっこいいね」
笑香が言った内容に史郎は目をむいて笑香を見た。
「もしかして……。一昨日君が僕を意識したのは、親父に似てたからなのか?」
「えっ、そんな……そういう訳じゃ」
否定しかけて一瞬視線を上に向ける。
──あれ? そういうことなのかな?
そんな笑香の様子を眺め、史郎は信じられないといった表情をした。
「もう二度と、君の前で眼鏡なんかかけないからな」
憤然としたその口ぶりに笑香は思わず吹き出した。こいつ、と言うようなつぶやきの後、史郎が両手で頬をはさんで深く唇を重ねて来る。
強いつながりを求める彼に、笑香は愛おしい気持ちになって彼の背中に腕を回した。父の告白──長い懺悔を耳にした彼を思いやり、今自分がそばにいることがどれほど彼に重要なのか、笑香にももうわかっていた。
目の前の史郎を肌身で感じ、自身の家族を思い浮かべる。今自分の目の前に再びあの時の情景が現れたとしても、自分は彼を助けるために父親が下ろした刃の前へと躊躇なく飛び込むだろう。それが、例え父親の命を奪う結果になったとしても。
一旦史郎の唇が離れ、角度を変えてもう一度重なる。熱のこもった彼の行為に「そろそろまずい」と笑香が思い始めた時。
ぐうっと史郎の腹の方から空腹を知らせる音がした。一瞬二人とも硬直した後、唇を離してお互いの顔を見合わせる。
「……ごめん。朝、起きた時から腹が減ってて──」
情けない声で史郎がつぶやく。こらえきれずに笑香は声を上げて笑った。
史郎は怒っていなかった。自分が史郎に取った態度にも、今の父親の話にも。それは多分彼が前より大人になった証拠だろう。以前の苛烈な史郎だったら今の話に反発し、雅史と笑香の両方に怒りをぶつけていたはずだ。
ほぐれた緊張にうれしくなって、笑香は自分の頬にふれている史郎の手の甲に左手を重ねた。すると史郎の生真面目な顔が今まで以上に近づいて来た。そして自分の唇に、唇が優しく押しつけられる。
ふれた唇を離した後で史郎が小さくささやいた。
「──それで結局、君はどっちの味方なんだ?」
笑香はわずかに眉をよせた。
「え?」
史郎は真正面から笑香を見すえると、固い声音で問いかけた。
「僕と、親父の。君は何だか親父の方に肩入れしてる気がするけど。今あっちの味方だって言ったら怒るぞ」
──史郎君、やっぱり根に持ってる。
笑香は大きく嘆息した。そう簡単に彼の性格がおだやかに落ち着くはずがなかった。苦笑いを漏らした後で、いたずらっぽく史郎を見上げる。
「おじさん、やっぱりかっこいいね」
笑香が言った内容に史郎は目をむいて笑香を見た。
「もしかして……。一昨日君が僕を意識したのは、親父に似てたからなのか?」
「えっ、そんな……そういう訳じゃ」
否定しかけて一瞬視線を上に向ける。
──あれ? そういうことなのかな?
そんな笑香の様子を眺め、史郎は信じられないといった表情をした。
「もう二度と、君の前で眼鏡なんかかけないからな」
憤然としたその口ぶりに笑香は思わず吹き出した。こいつ、と言うようなつぶやきの後、史郎が両手で頬をはさんで深く唇を重ねて来る。
強いつながりを求める彼に、笑香は愛おしい気持ちになって彼の背中に腕を回した。父の告白──長い懺悔を耳にした彼を思いやり、今自分がそばにいることがどれほど彼に重要なのか、笑香にももうわかっていた。
目の前の史郎を肌身で感じ、自身の家族を思い浮かべる。今自分の目の前に再びあの時の情景が現れたとしても、自分は彼を助けるために父親が下ろした刃の前へと躊躇なく飛び込むだろう。それが、例え父親の命を奪う結果になったとしても。
一旦史郎の唇が離れ、角度を変えてもう一度重なる。熱のこもった彼の行為に「そろそろまずい」と笑香が思い始めた時。
ぐうっと史郎の腹の方から空腹を知らせる音がした。一瞬二人とも硬直した後、唇を離してお互いの顔を見合わせる。
「……ごめん。朝、起きた時から腹が減ってて──」
情けない声で史郎がつぶやく。こらえきれずに笑香は声を上げて笑った。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる