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番外編1 溺愛は初生け式の後で
3.
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聞きなれた声の硬い響きに目を丸くして振り返る。
「あ、雄基君……」
先ほど人垣の中で目にした制服姿の長身が、みのりの真後ろに立っていた。番犬よろしく冴えた瞳で不審者を見る存在は、まだ高校生の身ながらもどこか威圧感がある。
突如現れた男の姿に相手の指がわずかにゆるんだ。みのりはあわててその手を振り切り、彼氏の背後に逃げ込んだ。
「すみません、迎えが来たのでこれでもう失礼します」
一応みのりが頭を下げると息子はふんと鼻を鳴らしたが、周囲の視線が気になったのかそのままみのり達から離れた。
雄基は精悍な口元を引き結び、羽織袴と茶髪の背中を黙って見送っていた。が、みのりへとその視線を移して告げた。
「行こう。先生が帰っていいって」
「どうして雄基君が……」
内心うれしかったものの、ふいに現れた彼氏の姿に困惑が勝って問いかける。たしかパーティー会場の中には関係者以外入れなかったはずだ。
しかし雄基は硬い表情をくずさないまま、問いに答えた。
「さっき裏で先生に呼ばれた。ちょっと気になるから迎えに行けって。そのままいっしょに帰れって」
気がきく母親の行動にほっと胸をなで下ろす。ちょうどもどって来た友人へ先に帰ることを告げ、みのりはにぎやかな会場を後にした。
「……もしかして、雄基君怒ってる?」
ホテルのホールから下りる広いエレベーターの中で、口もきかない彼氏にたずねる。しかし雄基は無言のままでみのりをホテルから連れ出すと、そのままタクシーへ押し込んだ。
──えっ、本気で怒ってる? 手を握られたから? それだけで?
心が広いはずの彼氏が嫉妬深いことは知っていたが、まさかこれほどとは思わなかった。居心地が悪すぎる車内の空気にみのりは心底困惑した。
*
はなやかな晴れ着姿の彼女を強引に自分の部屋へ上げ、嫉妬深かったらしい彼氏はどさりとベッドへ腰を下ろした。何だか疲れた顔をしている。
みのりは当惑したままで部屋の中央に立っていた。いいかげん着物を脱ぎたいし、替えの私服もここにはあるが、さすがに雄基の目の前で帯を解くのは恥ずかしい。紺を基調にした部屋の中で、あでやかなえんじ色の着物がひときわ目立つような気がする。
どうしたものかと考えあぐね、みのりが彼氏をながめていると、雄基は視線を床に落とした。ぼそっとみのりへ告げて来る。
「──今は女子高に通ってるからちょっと安心してたけど。つきあい始めたらけっこうお前がモテることに気がついた。やっぱり考えが甘かった」
「あ、雄基君……」
先ほど人垣の中で目にした制服姿の長身が、みのりの真後ろに立っていた。番犬よろしく冴えた瞳で不審者を見る存在は、まだ高校生の身ながらもどこか威圧感がある。
突如現れた男の姿に相手の指がわずかにゆるんだ。みのりはあわててその手を振り切り、彼氏の背後に逃げ込んだ。
「すみません、迎えが来たのでこれでもう失礼します」
一応みのりが頭を下げると息子はふんと鼻を鳴らしたが、周囲の視線が気になったのかそのままみのり達から離れた。
雄基は精悍な口元を引き結び、羽織袴と茶髪の背中を黙って見送っていた。が、みのりへとその視線を移して告げた。
「行こう。先生が帰っていいって」
「どうして雄基君が……」
内心うれしかったものの、ふいに現れた彼氏の姿に困惑が勝って問いかける。たしかパーティー会場の中には関係者以外入れなかったはずだ。
しかし雄基は硬い表情をくずさないまま、問いに答えた。
「さっき裏で先生に呼ばれた。ちょっと気になるから迎えに行けって。そのままいっしょに帰れって」
気がきく母親の行動にほっと胸をなで下ろす。ちょうどもどって来た友人へ先に帰ることを告げ、みのりはにぎやかな会場を後にした。
「……もしかして、雄基君怒ってる?」
ホテルのホールから下りる広いエレベーターの中で、口もきかない彼氏にたずねる。しかし雄基は無言のままでみのりをホテルから連れ出すと、そのままタクシーへ押し込んだ。
──えっ、本気で怒ってる? 手を握られたから? それだけで?
心が広いはずの彼氏が嫉妬深いことは知っていたが、まさかこれほどとは思わなかった。居心地が悪すぎる車内の空気にみのりは心底困惑した。
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はなやかな晴れ着姿の彼女を強引に自分の部屋へ上げ、嫉妬深かったらしい彼氏はどさりとベッドへ腰を下ろした。何だか疲れた顔をしている。
みのりは当惑したままで部屋の中央に立っていた。いいかげん着物を脱ぎたいし、替えの私服もここにはあるが、さすがに雄基の目の前で帯を解くのは恥ずかしい。紺を基調にした部屋の中で、あでやかなえんじ色の着物がひときわ目立つような気がする。
どうしたものかと考えあぐね、みのりが彼氏をながめていると、雄基は視線を床に落とした。ぼそっとみのりへ告げて来る。
「──今は女子高に通ってるからちょっと安心してたけど。つきあい始めたらけっこうお前がモテることに気がついた。やっぱり考えが甘かった」
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