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番外編1 溺愛は初生け式の後で
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みのりは目を丸くした。
「えっ、何言ってんの?」
「大体、お前はすきがありすぎる。さっきの男のこともそうだけど、お前ぜんっぜんわかってないな。もうちょっとまわりをよく見ろよ」
──さっきから雄基君何言ってんの?
思ってもいなかった言葉の羅列に頭の中がフリーズする。エアネトラレを心配してるなら、嫉妬深さもここに極まれりだ。
「私、雄基君以外の人に告白なんかされたことないよ?」
思わず唇をとがらせると雄基はため息を吐き出した。がしがしと頭をかいて不機嫌そうに言葉を続ける。
「……お前の家の前にある和菓子屋。最近入ったやつがいるだろ? あいつ、お前のこと狙ってるぞ」
「えっ──ええええ!?」
「俺がお前の家から出るとあいつににらみつけられる。俺と一緒に出かけた時、たまたま会って挨拶しただろ。メチャクチャ俺がからまれてたのに何で気がつかないんだよ」
思ってもいなかったことを告げられ、みのりはひっくり返りそうになった。
みのりの家のななめ向かいには和菓子屋が店を構えていて、老舗のたぐいに入るだろう。ガイドブックにものる名店でわざわざ遠方から来る客も多い。幾人かの若い職人が店主について修行をしていて、新人が一人入ったばかりだ。
なにしろ目の前のご近所さんだし、華道関係のつきあいもあってみのりもお使いに顔を出す。店の人間もみのりが行けば世間話をするくらいには親しい。そこで話した手荒れに悩む新人くんに同情し、ハンドクリームをあげたのだ。
だが、それを耳にした雄基は強くこめかみを押さえてうめいた。
「──多分それだ。どうせお前のことだから、愛想よく笑って渡したんだろ。お前は何も考えてなくても向こうはカン違いしたんだよ! ……まるっきり俺と同じじゃないか」
「えー!? だって、私は雄基君にもらったハンドクリームがあるから、あまってた在庫をあげただけだよ? 何もそんな」
手荒れを苦にした彼女のみのりに、雄基がクリスマスプレゼントと称して高いクリームをくれたのだ。だがそこから派生した問題で、まさかプレゼントをくれた本人に二度も叱られるとは思わなかった。
みのりがひたすら面食らっていると、雄基がもどかしそうに続けた。
「お前な、いくら何でも鈍すぎるだろ。いいか、お前は、か──」
そこまで言って次の句につまる。そのままぷいと横を向いた。
「……か?」
みのりが首をかしげて聞くと、見る見るうちにその端正な横顔が耳まで真っ赤になった。
「か……か、か、かわいいんだよ‼ 他の男に目をつけられるくらい、自分が可愛いって思っとけ‼」
──あらー……。
みのりはぱちぱちとまばたきした。いじらしいような彼氏の言葉に、何だか感動してしまう。方向性はどうかと思うが、そこまで彼氏に思われている自分は本当に幸せ者だ。
みのりはベッドへ近づいた。自分を見上げる雄基に笑い、長いたもとに気を使いつつ太い首筋へ腕を回す。
「雄基君、すごくかわいい」
「……それはお前の方だろう」
まだ頬を赤らめたままの彼のまなざしを受け止める。みのりは笑顔で言葉を続けた。
「今日、雄基君が会場まで見に来てくれてうれしかった。私は雄基君以外の人なんて、ぜんぜん目に入ってないよ? 助けてくれてありがとう」
彼氏に裏拳を使う所を見られずにすんで助かった──とは、口に出さないでおく。
「えっ、何言ってんの?」
「大体、お前はすきがありすぎる。さっきの男のこともそうだけど、お前ぜんっぜんわかってないな。もうちょっとまわりをよく見ろよ」
──さっきから雄基君何言ってんの?
思ってもいなかった言葉の羅列に頭の中がフリーズする。エアネトラレを心配してるなら、嫉妬深さもここに極まれりだ。
「私、雄基君以外の人に告白なんかされたことないよ?」
思わず唇をとがらせると雄基はため息を吐き出した。がしがしと頭をかいて不機嫌そうに言葉を続ける。
「……お前の家の前にある和菓子屋。最近入ったやつがいるだろ? あいつ、お前のこと狙ってるぞ」
「えっ──ええええ!?」
「俺がお前の家から出るとあいつににらみつけられる。俺と一緒に出かけた時、たまたま会って挨拶しただろ。メチャクチャ俺がからまれてたのに何で気がつかないんだよ」
思ってもいなかったことを告げられ、みのりはひっくり返りそうになった。
みのりの家のななめ向かいには和菓子屋が店を構えていて、老舗のたぐいに入るだろう。ガイドブックにものる名店でわざわざ遠方から来る客も多い。幾人かの若い職人が店主について修行をしていて、新人が一人入ったばかりだ。
なにしろ目の前のご近所さんだし、華道関係のつきあいもあってみのりもお使いに顔を出す。店の人間もみのりが行けば世間話をするくらいには親しい。そこで話した手荒れに悩む新人くんに同情し、ハンドクリームをあげたのだ。
だが、それを耳にした雄基は強くこめかみを押さえてうめいた。
「──多分それだ。どうせお前のことだから、愛想よく笑って渡したんだろ。お前は何も考えてなくても向こうはカン違いしたんだよ! ……まるっきり俺と同じじゃないか」
「えー!? だって、私は雄基君にもらったハンドクリームがあるから、あまってた在庫をあげただけだよ? 何もそんな」
手荒れを苦にした彼女のみのりに、雄基がクリスマスプレゼントと称して高いクリームをくれたのだ。だがそこから派生した問題で、まさかプレゼントをくれた本人に二度も叱られるとは思わなかった。
みのりがひたすら面食らっていると、雄基がもどかしそうに続けた。
「お前な、いくら何でも鈍すぎるだろ。いいか、お前は、か──」
そこまで言って次の句につまる。そのままぷいと横を向いた。
「……か?」
みのりが首をかしげて聞くと、見る見るうちにその端正な横顔が耳まで真っ赤になった。
「か……か、か、かわいいんだよ‼ 他の男に目をつけられるくらい、自分が可愛いって思っとけ‼」
──あらー……。
みのりはぱちぱちとまばたきした。いじらしいような彼氏の言葉に、何だか感動してしまう。方向性はどうかと思うが、そこまで彼氏に思われている自分は本当に幸せ者だ。
みのりはベッドへ近づいた。自分を見上げる雄基に笑い、長いたもとに気を使いつつ太い首筋へ腕を回す。
「雄基君、すごくかわいい」
「……それはお前の方だろう」
まだ頬を赤らめたままの彼のまなざしを受け止める。みのりは笑顔で言葉を続けた。
「今日、雄基君が会場まで見に来てくれてうれしかった。私は雄基君以外の人なんて、ぜんぜん目に入ってないよ? 助けてくれてありがとう」
彼氏に裏拳を使う所を見られずにすんで助かった──とは、口に出さないでおく。
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