【完結】インキュバスな彼

小波0073

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番外編1 溺愛は初生け式の後で

5.

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 そっと雄基の腕が動いてみのりの腰に回された。強い力で抱き上げられ、すわった彼の膝の上へ子供のように乗せられてしまう。

「あ……」

 恥ずかしい姿勢とあいまって、なれない着物でくっつくことに何だか視線を合わせられない。ゆらゆらゆれる足袋《たび》を見ていると、整った顔がそばによった。ばっちり化粧ずみの頬にやわらかくキスを落とされる。

──よかった、化粧直ししておいて。

 パーティ会場へ向かう途中で、「あんた、せっかく着かざってるんだから口紅くらい直しなさい」と裏方の母親に叱られてしまい、しかたなく化粧直ししたのだ。みのりも一応乙女だし、せっかく彼氏に見てもらえるなら完璧な姿で見て欲しい。だけどやっぱり恥ずかしい。
 相反する思いの中でみのりがもじもじしていると、すぐ耳元でつぶやかれた。

「……着物着たお前を会場で見た時、何だかちょっとびっくりした」

 そろそろと彼氏の顔を見ると、ドアップでせまる彼の瞳が熱っぽく自分を見下ろしている。どこか切なげな表情で続けた。

「人形みたいにきれいで、かわいくて……多分あの会場の中でお前が一番かわいかった。だからまわりにいる男にちょっかい出されるのも無理ないなって」
「いやあ、それは言いすぎだって」

 大げさな彼氏の称賛につい照れながら頭をかく。何だかんだ言っても結局、彼はみのりに甘いのだ。
 頭にふれてしまったせいで、ショートの髪にかざった造花の百合の髪かざりが落ちる。拾おうと体をはなしかけると雄基の腕に止められた。そのままのばした指先を大きな手のひらに捕らえられる。
 口元へ持って行かれた指がぱくりとくわえられてしまい、みのりは肩に力が入った。

「え! え!?」

 ふくまれた指を軽く噛まれて、恥ずかしさにかあっと頬がほてる。

「──消毒。あいつにさわられた所」

 唇をはなして雄基がつぶやき、再び抱きよせられる。唇と唇が重なった。

「……!」

 熱い吐息が互いにこぼれ、彼の腕の力が強まった。もう一度深く唇が重なり、なごりおしそうにいったん離れる。

「……あ、口紅ついちゃった」

 彼の口元に残ってしまった赤い跡にみのりが告げると、あわてて雄基が拳でぬぐった。とまどっている彼氏の顔になんだかみのりもはにかんでしまう。
 雄基がやるせなさそうにみのりを見つめて口を開いた。

「その着物、きれいだけど。ここで脱がせてもいいか」
「いいけど……でも、ちょっと着物のたたみ方に自信がないかも」

 自身の女子力の足りなさに、情けない思いをしながら言う。雄基は笑って言葉を続けた。

「たたみ方くらい調べてやる。着替えはここにあるんだし」
「えーっと、下着、着物用だから見ても全然楽しくないよ?」
「そんなのどうだっていいから。ほら、それでどうすればいいんだ?」
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