黒蠟濡の森

土の味舐め五郎

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ロベリア

ロベリアと二人の傭兵

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 ペンゲルースの町で、私はもうすぐ十二歳になる。
 小さな田舎町だけど住んでる人はみんな優しくて、女手一つで私を育てている母さんの事を助けてくれるし、食べる物にだって困らないし、聖堂の司祭様が文字の書き方だって教えてくれる。

「勉強はあんまり好きじゃないけど……」

 私は今、町はずれにある畑の小さな畦道を歩いている。お弁当を届けるためだ。
 この畑は町で共有しているもので、個人で畑を持たない人が仕事を請け負って耕し、作物を育てている。……って母さんが言ってた。

「おーい!お昼ご飯だよー!」

 大きな声で呼びかけると、二人の屈強そうな男達が鍬を置き、こっちを見る。弁当が待ち遠しかったらしく、顔を皺だらけにして嬉しそうに笑った。まだまだ歳は若いはずなのに、すっかり農民のおじさんみたいになってる。

 この二人はダノルとジョーラム。この町で、私と母さんの事を一番助けてくれてる人達だ。そのかわり、私達は二人にご飯を作ってあげてる。
 ダノルはちょっと細くて、ちょっと頭がよくて、逃げ足が速い。
 ジョーラムはちょっと太くて、ちょっと力持ちで、鼻がいい。
 そして、どっちも口が悪くって、どっちもとっても優しい。
「待ちくたびれたぜロベッち~」
「腹減ったよぉ~~~」
 私が来るとすぐふざけ始める。仕事をしてるときは少しカッコいいのに。
 二人は十年くらい前は城塞都市で衛兵をやってたって言うし、きっと、もっとカッコよかったんだろうなぁ。悪い上司に嫌われたり、悪い貴族に嫌われたりしたせいで追い出されるなんて、運が悪いなぁ。それで衛兵やってるのが馬鹿馬鹿しくなって、傭兵になったんだって。とはいっても、この町ではすっかり何でも屋みたいになっちゃってるけどね。

「ねぇねぇ二人とも。私明日で十二歳になるんだ」
「へぇーー」「ふーん」
「それだけ?」
「よかっふぁな~」「よかっふぁね~」
 二人はサンドイッチを頬張るのに夢中になっている。
「もう!バカ!!」
 中身のたっぷり入った革の水筒を投げつける。ダノルは難なく避け、ジョーラムの頭に直撃した。
 私は怒りながら畦道を走って家へ帰った。

「あーあ怒らせちゃった」
「いや、お前もだよ。俺だけのせいにするなよ」
「ていうか去年も同じノリでさ、次の日にちゃんと髪飾りとかあげたの忘れてんのかなアイツ」
「女の子はね。未来を大切にしてるんだよ」
「くさっ」
「くさくねーよ!!」

 畦道を出て町の広い通りに出ても、私は鼻息荒く大股で歩いていた。
 小さな我が家まではまだ少し遠いが、よく見ると扉が開いているのがわかった。
「お母さん!!」
 怒っていたことなど一瞬で吹き飛び、駆け出す。あっという間に家の玄関へと辿り着いた。
 入ってすぐの居間に、椅子に腰かけた母がいる。三日ぶりの再会に涙が零れそうになった。
「おかえりなさい!!ちゃんと前の日に帰って来てくれたね!」
「ロベリー……!当然じゃないの……。出かける前にそう約束したでしょ?」
 なんだか母さんの様子が変だ。
「……母さん大丈夫?ちょっと元気がなさそう」
「……そうね。滅多に馬車になんて乗らないから疲れちゃったのかな」
 その時、なんとなくそれだけが原因じゃないような気がしたけど、誕生日を直前に控えていた私は深く考えなかった。

 後から考えてみると、母がこの三日間どこに行っていたのか頑なに教えてくれなかった事もおかしかった。
 
 その日の夜、私は、とても恐ろしく、悍ましい夢をみた。 
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