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ロベリア
ロベリアとニルン
しおりを挟むどうしてあの男の人は責められているの?
どうしてあんなに酷い目にあっているの?
恐ろしい獣のような悲鳴。
血がいっぱい出てる。
手足はどこにいったの?。
口が布と紐で縛られてて息苦しそう。
まるで、何かを吐き出さないように押さえつけてるてるみたい。
覆面をした大きな人が、同じくらい大きな斧を持ってきた。
血だらけの男の人は縛り付けられた柱から解放され、乱暴に倒された。
どうしてだろう。もうほとんど動いていないのに、あの男の人がまだ生きているとわかる。
大きな斧が振り上げられる。
どうしてそんな事をするの?
誰の問いには誰も答えず、斧に叩き切られた男の人の首が勢いよく転がった。
私の胸は、張り裂けそうになった。
「いやぁ!!!」
悲鳴と共に私は目覚めた。体中、汗でびっしょり。朝みたいだけど家の中はまだ暗く、隣のベッドにいるはずの母さんもよく見えない。
「……ロベリー?どうしたの?」
よかった。ちゃんとそこにいるよね。
「お母さん……。私とっても怖い夢を見たわ。男の人が血まみれになって、大きな斧で首を斬られるの」
そう言うとお母さんは飛び起きるようにして私の事を抱きしめてくれた。
「大丈夫……。大丈夫よ。あなたにはそんな怖いことは起こらないから、母さんが守ってあげるから……」
母さんは汗でぐしゃぐしゃの私を優しく撫でたあと、すぐにタオルで身体を拭いて着替えも用意してくれた。
「ベッドのシーツは後で替えましょう。こっちにいらっしゃい」
そう言って自分のベッドに私を招いてくれる。いつも通りの優しいお母さんだ。おかげで私は、お日様が町を明るくするまでの短い時間でぐっすり眠ることが出来た。
「ねえロベリー。あなたに話しておかなくちゃいけないことがあるの」
朝食を終えた後、母さんが真剣な眼差しで言った。地面に膝をついて私の両手を握り真っすぐ目を見る。こういう時の話は必ず私にとってすごく大事なものだと知っている。
だけど、母さんの震える手が、いつもより少し違った。
「なぁにお母さん?」
私はなるべく笑顔で返事をした。
「ロベリー。私はあなたの事をとても愛してる。これからもずっと、私の大切な娘よ。……でも、ちゃんとあなたに教えてあげなきゃならないこともあるの。あなたがどこで、誰から産まれたかを」
「私は、お母さんからうまれたんじゃないの?」
「違うのロベリー……。あなたはベスレーレという貴族のお嬢様が産んだ子なのよ」
衝撃はあった。拠り所にしていたものが遠くに離れていく感覚すらあった。だけど、私にはちょっとした心構えがあった。
聖堂の司祭様が時々教えて下さる事の中に『血の繋がらない家族』についての話があった。世の中には生まれてすぐに親を亡くした子供がいて、そういった子を本当に血の繋がった家族のように愛し育てている人がいると。
実際に、司祭様は身寄りのない子供たちを何人も引き取り育てていて、みんな司祭様を本当の父親のように慕っている。
その話を聞いてから、私ももしかしたら母さんの本当の子供じゃないのかもしれないと薄々思っていた。母さんはあまり昔の話をしたがらない。大好きだったっていう亡くなったお父さんの話もほとんどしない。ただひたすらに、私の事を愛してくれていた。その一生懸命さが、私に純粋な血の繋がり以外の何かを感じさせたのかもしれない。
まだまだ幼い、何もわからないはずの心で、私は覚悟していたのだ。
「わたしね。お母さんの本当の子供じゃないかもってずっと思ってたの」
覚悟はしていたのに、言葉にした途端、涙が零れだした。
「司祭様がね、血の繋がらない子供でも本当の家族みたいに愛してくれる人がいるっていう話をしたことがあってね、それでね、なんでかね、わたしもそうなんじゃないかって、おもっちゃって」
もう涙が止まらなくなって、私は喋ることができなくなった。
「怖かったよねロベリー……。もっと早く言えばよかったかな……。大丈夫、ずっとずっとあなたは私の家族よ」
ニルン母さんは私が泣きやむまでずっと優しく抱きしめてくれていた。
私が落ち着きを取り戻した後、母さんは昨日出かけた先でベスレーレという女の人と偶然会った事を話してくれた。その女の人が、赤ん坊の私を産んでくれた人だという。
ベスレーレさんは一度でいいから成長した娘を見てみたいと言ったらしい。
私は、どうして今頃になってと思った。
母さんが言うには、ベスレーレさんは怖い父親のせいで自分で子供を育てることが出来ず、仕方なく別の誰かに育ててもらうしか方法が無かったらしい。
「お母さんは、その人と私が会った方がいいと思う?」
少し嫌な質問をしてしまったかもしれない。
予想通り、母さんは首を横に振った。
「きっとあなたも会いたくないわよね。それじゃあ、ベスレーレには会わないって彼女に伝えに行かないと」
「もう一度会いに行くの?手紙でいいじゃない」
「それがね、もしダメならもう一度私が会いに行くことになってるの」
私はその時、恐ろしい寒気がした。母さんが二度と戻って来ないような、そんな気がした。
「ダメ!!お母さん行かないで!私、その人に会いに行く!もう私達に関わらないでって、言うから!」
自分でも驚くくらい大きな声で母に宣言した。
そして次の日の朝。私はニエルティへと赴くことになる。
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