黒蠟濡の森

土の味舐め五郎

文字の大きさ
12 / 20
ロベリア

ロベリアとニルン

しおりを挟む

 どうしてあの男の人は責められているの?
 どうしてあんなに酷い目にあっているの?
 恐ろしい獣のような悲鳴。
 血がいっぱい出てる。
 手足はどこにいったの?。
 口が布と紐で縛られてて息苦しそう。
 まるで、何かを吐き出さないように押さえつけてるてるみたい。
 覆面をした大きな人が、同じくらい大きな斧を持ってきた。
 血だらけの男の人は縛り付けられた柱から解放され、乱暴に倒された。
 どうしてだろう。もうほとんど動いていないのに、あの男の人がまだ生きているとわかる。
 大きな斧が振り上げられる。
 どうしてそんな事をするの?
 誰の問いには誰も答えず、斧に叩き切られた男の人の首が勢いよく転がった。
 私の胸は、張り裂けそうになった。
 
「いやぁ!!!」
 悲鳴と共に私は目覚めた。体中、汗でびっしょり。朝みたいだけど家の中はまだ暗く、隣のベッドにいるはずの母さんもよく見えない。
「……ロベリー?どうしたの?」
 よかった。ちゃんとそこにいるよね。
「お母さん……。私とっても怖い夢を見たわ。男の人が血まみれになって、大きな斧で首を斬られるの」
 そう言うとお母さんは飛び起きるようにして私の事を抱きしめてくれた。
「大丈夫……。大丈夫よ。あなたにはそんな怖いことは起こらないから、母さんが守ってあげるから……」
 母さんは汗でぐしゃぐしゃの私を優しく撫でたあと、すぐにタオルで身体を拭いて着替えも用意してくれた。
「ベッドのシーツは後で替えましょう。こっちにいらっしゃい」
 そう言って自分のベッドに私を招いてくれる。いつも通りの優しいお母さんだ。おかげで私は、お日様が町を明るくするまでの短い時間でぐっすり眠ることが出来た。

「ねえロベリー。あなたに話しておかなくちゃいけないことがあるの」
 朝食を終えた後、母さんが真剣な眼差しで言った。地面に膝をついて私の両手を握り真っすぐ目を見る。こういう時の話は必ず私にとってすごく大事なものだと知っている。
 だけど、母さんの震える手が、いつもより少し違った。
「なぁにお母さん?」
 私はなるべく笑顔で返事をした。
「ロベリー。私はあなたの事をとても愛してる。これからもずっと、私の大切な娘よ。……でも、ちゃんとあなたに教えてあげなきゃならないこともあるの。あなたがどこで、誰から産まれたかを」
「私は、お母さんからうまれたんじゃないの?」
「違うのロベリー……。あなたはベスレーレという貴族のお嬢様が産んだ子なのよ」

 衝撃はあった。拠り所にしていたものが遠くに離れていく感覚すらあった。だけど、私にはちょっとした心構えがあった。
 聖堂の司祭様が時々教えて下さる事の中に『血の繋がらない家族』についての話があった。世の中には生まれてすぐに親を亡くした子供がいて、そういった子を本当に血の繋がった家族のように愛し育てている人がいると。
 実際に、司祭様は身寄りのない子供たちを何人も引き取り育てていて、みんな司祭様を本当の父親のように慕っている。
 その話を聞いてから、私ももしかしたら母さんの本当の子供じゃないのかもしれないと薄々思っていた。母さんはあまり昔の話をしたがらない。大好きだったっていう亡くなったお父さんの話もほとんどしない。ただひたすらに、私の事を愛してくれていた。その一生懸命さが、私に純粋な血の繋がり以外の何かを感じさせたのかもしれない。
 まだまだ幼い、何もわからないはずの心で、私は覚悟していたのだ。

「わたしね。お母さんの本当の子供じゃないかもってずっと思ってたの」
 覚悟はしていたのに、言葉にした途端、涙が零れだした。
「司祭様がね、血の繋がらない子供でも本当の家族みたいに愛してくれる人がいるっていう話をしたことがあってね、それでね、なんでかね、わたしもそうなんじゃないかって、おもっちゃって」
 もう涙が止まらなくなって、私は喋ることができなくなった。
「怖かったよねロベリー……。もっと早く言えばよかったかな……。大丈夫、ずっとずっとあなたは私の家族よ」
 ニルン母さんは私が泣きやむまでずっと優しく抱きしめてくれていた。

 私が落ち着きを取り戻した後、母さんは昨日出かけた先でベスレーレという女の人と偶然会った事を話してくれた。その女の人が、赤ん坊の私を産んでくれた人だという。
 ベスレーレさんは一度でいいから成長した娘を見てみたいと言ったらしい。
 私は、どうして今頃になってと思った。
 母さんが言うには、ベスレーレさんは怖い父親のせいで自分で子供を育てることが出来ず、仕方なく別の誰かに育ててもらうしか方法が無かったらしい。
「お母さんは、その人と私が会った方がいいと思う?」
 少し嫌な質問をしてしまったかもしれない。
 予想通り、母さんは首を横に振った。
「きっとあなたも会いたくないわよね。それじゃあ、ベスレーレには会わないって彼女に伝えに行かないと」
「もう一度会いに行くの?手紙でいいじゃない」
「それがね、もしダメならもう一度私が会いに行くことになってるの」
 私はその時、恐ろしい寒気がした。母さんが二度と戻って来ないような、そんな気がした。
「ダメ!!お母さん行かないで!私、その人に会いに行く!もう私達に関わらないでって、言うから!」
 自分でも驚くくらい大きな声で母に宣言した。

 そして次の日の朝。私はニエルティへと赴くことになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

今日の怖い話

海藤日本
ホラー
出来るだけ毎日怖い話やゾッとする話を投稿します。 一話完結です。暇潰しにどうぞ!

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...