エデルフェーン王立学園物語 〜聖なる薔薇の乙女と守護者たち〜

ぎんげつ

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フラグ? 知らない子ですね

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 学園が始まると、王太子は毎朝きっちりトーニャを迎えに来た。
 最初はあーだこーだ部屋に立てこもり抵抗を試みていたトーニャも、公爵家と王太子が一丸となった結果ようやく観念したのか、あまり暴れなくなった。
 そりゃ、立てこもったところで、容赦なく部屋に突入した使用人たちに身支度を整えられ、王太子に横抱きにされて馬車に乗り込むことになるのだ。
 抵抗なんて意味がない。

 暴れなくなったトーニャに王太子は少し残念そうではあったが、それはそれでまた楽しそうに構い倒していた。
 僕は最近、王太子の趣味嗜好は、変わっているを通り越して変なんじゃないかと思い始めている。

 とはいえ、王太子はまだ十七でトーニャは十五だ。何かあるのは早すぎると、侍従と侍女がしっかりついている。
 僕も一緒に登校はしているが、別な馬車だ。
 さすがにふたりと同乗できるほど、神経は太くない。

 それにしても……入学式からひと月は経つというのに、未だヒロインは出てこない。
 トーニャが覚えている「攻略対象」の貴族令息の誰かと接触した気配もない。

 “ファユール・フィオリ”という名前は確認した。トーニャの話にあったヒロインの初期設定デフォルト名の、特待生の女子生徒がこの学園にいることは間違いなかった。
 なのに、まったく姿を見ないのだ。

 平民を集めた教室をこっそり覗いてみたけれど、やっぱり本人を確認することはできなかった。

 ヒロインには僕たちと接触するつもりは無いということか。
 つまり、ヒロインに乙女ゲームのシナリオを進める気はないということなのか。

 トーニャは、ヒロインの考えていることがさっぱりわからないと、やっぱり怯えている。怯えてはいるが、今のところ……少なくとも、王太子ルートに関わるゲームのイベントがまったく起こっていないことで、少しだけ安堵しているようでもある。
 王太子は相変わらずトーニャべったりだし、誰か他の女生徒に目を移すこともないのだ。きっとこのまま順調に進むんだろう。

 王太子は、トーニャのなだめ方もずいぶん上手になった。
 もうそろそろ、僕がついていなくてもトーニャが“発作”を起こすことなんて、ないのではないだろうか。

――なんて、油断していたのがいけなかったのだろうか。

「僕に、伝言?」
「はい。あの、お時間がありましたら、どうか裏庭園のガゼボに来てはいただけないかと……ファユール嬢から」

 まさかのヒロインからの呼び出しだった。

 いったいどんな意図があるのか……呼び出された時間は、いつもならトーニャと王太子がサロンでお茶を楽しむ時間だ。
 もちろん僕も同席することになっているが、僕だけが離席しても問題はない。
 問題はないけど――まさか、イレギュラーである僕がいない隙を狙って、本来のイベントの代わりに王太子に接触しようというのか?

 いや、それより何より、トーニャにこのことを話すわけにはいかない。トーニャが知ったら、いったいどんな酷い“発作”を起こしてしまうか……ヒロインの接触がないおかげで、ようやく落ち着いてきたのに、元の木阿弥だ。

 僕はしばし考える。
 考えて、結局、トーニャにヒロインのことは何も言わないことに決めた。ただ、「所用で遅れる」というサロンへの伝言だけを頼んで、ひとりで指定された場所へ向かうことにした。
 ヒロインの姿が見えなかったら、すぐに戻ればいいから、と。


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