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おまけ:俺様王子様と青天の霹靂 後編
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レオナルはさらにエルトゥーニアのところへと通った。
相変わらず嫌だと絶叫し、号泣して部屋に閉じこもるエルトゥーニアを、公爵の許しを得たうえで部屋から引きずり出す。
エルトゥーニアは、最初こそ断固拒否を貫こうと暴れ続けていた。
しかし、そのうちどう足掻いてもレオナルが決して諦めないことを悟ったらしい。一度部屋から引っ張り出しさえすれば、おとなしく従うようになったのだ。
ついでに、公爵や兄であるエストリオにも、公爵家の使用人たちにもそれとなく探りを入れて、エルトゥーニアが何故か強い妄想に囚われていることも知った。
ならば、次は、レオナルが彼女の思い込む人物像とは違うことを示すのだ。
会うたびにエルトゥーニアが絶叫と共に吐き出す言葉を拾い、その逆の人間になることを目指す。
ああ見えてエルトゥーニアは意外に鋭い。
ごまかしなどでは即気取られてしまうからと、レオナルは本気でわがままや癇癪を抑え、王太子に相応しい人物となれるように心がけた。
もちろん、エルトゥーニアの好きなものを探ることも忘れない。
甘くてきれいな菓子やかわいらしい小物を折々に持参し、部屋に籠もる彼女を引きずり出しては機嫌を取る。
泣き顔は酷いくせに、時折零れる笑顔は思いのほかかわいかった。
引きこもりかたも、心なしか形ばかりのものに変わってきたように感じられた。
まるで、怯えてすぐに物陰に逃げ込んでしまう臆病な野良猫を手懐けるように、レオナルは注意深く時間を掛けてエルトゥーニアを慣らしていく。
そう。顔立ちは父親である公爵に似て少々きついけれど、性格はとても臆病だ。けれど、時折油断して緩む表情はとても愛らしい。
警戒心の強い猫という例えは我ながらなかなか的を射ているのではないかと、レオナルは考えている。
変化があったのは、レオナルが十三、エルトゥーニアが十一の時だった。
公爵が、ずいぶん昔に出奔した弟の行方をとうとう見つけたといって、その息子を引き取ったのだ。
正直、おもしろくなかった。
そのエルトゥーニアの従弟、ヴェルナスは、引き取られてすぐに、エルトゥーニアに受け入れられたのだから。
自分はようやく少しだけ信用してもらえるようになったところなのに、ヴェルナスは一年も経たないうちにエルトゥーニアと馴染んでいた。
何より、ヴェルナスのおかげでエルトゥーニアの号泣や引きこもりの頻度が減ったというのだ。必死に何年もかけて慣らしてきたレオナルの立場がない。
「おもしろくない」
ぼそりと呟くレオナルに、侍従が「いかがしましたか?」と首を傾げた。
「なぜ、俺ではだめなのに、従弟ならいいのだ」
「血縁であるがゆえの気安さでございましょう」
「俺だって、もう……六年も構ってきたんだぞ。どうしてエルトゥーニアは未だに泣くんだ」
悔しさに眉が寄る。心なしか、目尻も赤くなっているようだ。
侍従が、ふ、と笑った。
「殿下。エルトゥーニア様はちゃんと殿下を受け入れておられますよ。あれは甘え泣きでございます」
「甘え泣き?」
「泣いても殿下が甘やかしてくださるかを、確かめているのでございましょう」
「そういう泣き方があるのか?」
「素直に甘えるだけでよいところを甘えたくて泣くというのは、それをうまく表せない幼い子供に多いことだと聞いております」
レオナルはぱちくりと目を瞬かせる。
「甘えたい、のか。俺に。エルトゥーニアが」
「殿下のご訪問時、エルトゥーニア様は部屋に籠もられますけれど、逃げ出したり隠れたりはなさりませんでしょう?
それに、エルトゥーニア様があのように泣くのは、殿下がお相手の時のみでございますよ」
「――そうか!」
本当は甘えたいのか。
俺に甘えたいから、あんなに泣くのか。
ならば存分に甘やかさなければ。
レオナルの気分はたちまち上向いた。
すぐに次の訪問に備え、持参する贈り物を選定しよう。
エルトゥーニアは、ああ見えて、宝飾品のような高価なものよりも、まるで市井の者たちが好むような安価でかわいらしいものを好む。
そこも、エルトゥーニアのあの見た目や公爵令嬢という肩書らしからぬかわいらしいところで、レオナルは、ついつい甘やかさずにいられないのだ。
「ああ……そういえば、母上の侍女が、最近市井で流行っている菓子の話をしていたな。次はそれを贈ろうか。あとは、北のガラス細工が良いという話もだったか――じい、商人の選定を頼む。品は俺自身が選ぶ」
「はい」
次の訪問で、エルトゥーニアはまた笑ってくれるだろうか。
最近、エルトゥーニアが笑顔を見せる頻度が上がっているような気がするが……きっと、それは気のせいではないはずだ。触れても嫌がらないし、長椅子で隣に座っても逃げ出そうとしなくなった。
あの従弟とやらも早めに片付けたほうが良いだろう。
誰か適当な相手をあてがって、エルトゥーニアの側から引き離さないと。
――あてがうなら、誰が良いだろうか?
レオナルは次の訪問に想いを馳せつつも、これからの計画を立てようと考えた。
相変わらず嫌だと絶叫し、号泣して部屋に閉じこもるエルトゥーニアを、公爵の許しを得たうえで部屋から引きずり出す。
エルトゥーニアは、最初こそ断固拒否を貫こうと暴れ続けていた。
しかし、そのうちどう足掻いてもレオナルが決して諦めないことを悟ったらしい。一度部屋から引っ張り出しさえすれば、おとなしく従うようになったのだ。
ついでに、公爵や兄であるエストリオにも、公爵家の使用人たちにもそれとなく探りを入れて、エルトゥーニアが何故か強い妄想に囚われていることも知った。
ならば、次は、レオナルが彼女の思い込む人物像とは違うことを示すのだ。
会うたびにエルトゥーニアが絶叫と共に吐き出す言葉を拾い、その逆の人間になることを目指す。
ああ見えてエルトゥーニアは意外に鋭い。
ごまかしなどでは即気取られてしまうからと、レオナルは本気でわがままや癇癪を抑え、王太子に相応しい人物となれるように心がけた。
もちろん、エルトゥーニアの好きなものを探ることも忘れない。
甘くてきれいな菓子やかわいらしい小物を折々に持参し、部屋に籠もる彼女を引きずり出しては機嫌を取る。
泣き顔は酷いくせに、時折零れる笑顔は思いのほかかわいかった。
引きこもりかたも、心なしか形ばかりのものに変わってきたように感じられた。
まるで、怯えてすぐに物陰に逃げ込んでしまう臆病な野良猫を手懐けるように、レオナルは注意深く時間を掛けてエルトゥーニアを慣らしていく。
そう。顔立ちは父親である公爵に似て少々きついけれど、性格はとても臆病だ。けれど、時折油断して緩む表情はとても愛らしい。
警戒心の強い猫という例えは我ながらなかなか的を射ているのではないかと、レオナルは考えている。
変化があったのは、レオナルが十三、エルトゥーニアが十一の時だった。
公爵が、ずいぶん昔に出奔した弟の行方をとうとう見つけたといって、その息子を引き取ったのだ。
正直、おもしろくなかった。
そのエルトゥーニアの従弟、ヴェルナスは、引き取られてすぐに、エルトゥーニアに受け入れられたのだから。
自分はようやく少しだけ信用してもらえるようになったところなのに、ヴェルナスは一年も経たないうちにエルトゥーニアと馴染んでいた。
何より、ヴェルナスのおかげでエルトゥーニアの号泣や引きこもりの頻度が減ったというのだ。必死に何年もかけて慣らしてきたレオナルの立場がない。
「おもしろくない」
ぼそりと呟くレオナルに、侍従が「いかがしましたか?」と首を傾げた。
「なぜ、俺ではだめなのに、従弟ならいいのだ」
「血縁であるがゆえの気安さでございましょう」
「俺だって、もう……六年も構ってきたんだぞ。どうしてエルトゥーニアは未だに泣くんだ」
悔しさに眉が寄る。心なしか、目尻も赤くなっているようだ。
侍従が、ふ、と笑った。
「殿下。エルトゥーニア様はちゃんと殿下を受け入れておられますよ。あれは甘え泣きでございます」
「甘え泣き?」
「泣いても殿下が甘やかしてくださるかを、確かめているのでございましょう」
「そういう泣き方があるのか?」
「素直に甘えるだけでよいところを甘えたくて泣くというのは、それをうまく表せない幼い子供に多いことだと聞いております」
レオナルはぱちくりと目を瞬かせる。
「甘えたい、のか。俺に。エルトゥーニアが」
「殿下のご訪問時、エルトゥーニア様は部屋に籠もられますけれど、逃げ出したり隠れたりはなさりませんでしょう?
それに、エルトゥーニア様があのように泣くのは、殿下がお相手の時のみでございますよ」
「――そうか!」
本当は甘えたいのか。
俺に甘えたいから、あんなに泣くのか。
ならば存分に甘やかさなければ。
レオナルの気分はたちまち上向いた。
すぐに次の訪問に備え、持参する贈り物を選定しよう。
エルトゥーニアは、ああ見えて、宝飾品のような高価なものよりも、まるで市井の者たちが好むような安価でかわいらしいものを好む。
そこも、エルトゥーニアのあの見た目や公爵令嬢という肩書らしからぬかわいらしいところで、レオナルは、ついつい甘やかさずにいられないのだ。
「ああ……そういえば、母上の侍女が、最近市井で流行っている菓子の話をしていたな。次はそれを贈ろうか。あとは、北のガラス細工が良いという話もだったか――じい、商人の選定を頼む。品は俺自身が選ぶ」
「はい」
次の訪問で、エルトゥーニアはまた笑ってくれるだろうか。
最近、エルトゥーニアが笑顔を見せる頻度が上がっているような気がするが……きっと、それは気のせいではないはずだ。触れても嫌がらないし、長椅子で隣に座っても逃げ出そうとしなくなった。
あの従弟とやらも早めに片付けたほうが良いだろう。
誰か適当な相手をあてがって、エルトゥーニアの側から引き離さないと。
――あてがうなら、誰が良いだろうか?
レオナルは次の訪問に想いを馳せつつも、これからの計画を立てようと考えた。
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