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四日目 ー3
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時間を見計らい、訪れた酒場の教えられていたテーブルにいたのは、人間ではない種族……立派な角に長い尻尾の、“悪魔混じり”と呼ばれる種族の男性だった。
年齢はよくわからないけれど、私と同年代か幾分か上に思う。
彼は私たちに気づくとすぐに立ち上がって優雅に一礼し、おもむろに私の手を取って指先に口付けた。
「吟遊詩人のアートゥと申します。以後お見知り置きを、お嬢さん」
もちろん、こんな扱いなど受けたことのない私はどぎまぎしてしまうだけだ。
それにしてもカイルはガン無視なのか? 私と繋いだままのカイルの手に、ぐぐっと力が篭る。
「あ、あの、ルカです、よろしくです。こちらは……」
「へえ、ルカちゃんて言うんだ? 男の子みたいな名前だけど、君に似合ってるね。かわいいなあ」
彼は本気でカイルは構わないつもりか、にっこりと微笑んで急に崩れた口調でさらりと言ってのけた。
私はますますどうしていいかわからなくなってしまう。
だが、機嫌の良い彼に反して、背後のカイルの機嫌は急降下しているようだ。背中に不穏な空気がひんやりと冷気を帯びて伝わってきて……振り向くのが、少し怖い。
「ルカ、こういう“悪魔混じり”は自分の衝動と欲望に忠実な種族で信用ならないんだ。言ってることをまともに聞いちゃいけない」
「え? え?」
私の肩に手を置き、アートゥにも聞こえるように言うカイルに少し慌ててしまうが、目の前の詩人は目を細めて笑みを深くするだけだった。
「さすが教会の聖騎士様は言うことが違うね。そのお高く尊い聖騎士様連れの麗しい女性が、僕に何の用なのかな?
――ふうん、なるほど、この子が教会の大切な……ってわけか」
「なぜそれを知ってる!」
ますますいきり立つカイルにはらはらする。ここで彼に帰られてしまっては、元の木阿弥だ。
「ああ怖い。そんなに睨まないでくれるかな? 僕は詩人だよ? 意味はわかるよね?」
くすくすと笑いながらその“悪魔混じり”の吟遊詩人は瞳も瞳孔もない金一色の目を細めた。
ああ、あまり挑発しないでほしい。
「悪辣な行いに手を染めるというならこの場で斬り捨てるだけだぞ」
「やだなあ。悪辣な行いって何のことだよ。僕は善良な吟遊詩人なのに」
「ええと、カイル、落ち着いて?」
慌てて腕を抑えると、見るに見かねてか、ひょこんとナイアラが横から顔を出した。
「そうだよおー。ねえ、あんまりうちの切り込み隊長煽らないで欲しいんだあ。見た目チャラいけど実はバカが付くくらい真面目だし、融通もどっかに置き忘れてきちゃってるから、耐性低いんだよねえ」
「僕は別に気にしてないよ? なんだか友人に似ているなあと思ったくらいで」
くくっと笑って、ナイアラに応じるアートゥと、深呼吸するカイルに少しだけ安心する。それから、改めてアートゥは私に向き直り、にっこりと微笑んだ。
「で、僕と話をしに来たのは君だよね、ルカちゃん。僕に、何が聞きたいのかな?」
「あの、あく……」
アートゥは、“悪魔王のカルト”と言おうとした私の口に素早く指を当てて「ちょっと待った」と言葉を止める。
「こういう、誰が聞いてるかわからない場所で、そんな風に喋っちゃうのはよくないよ」
アートゥは軽くウィンクをすると、忙しく歩き回る給仕を捕まえて部屋を用意させた。
「さ、こっちで話そう」
手慣れた調子で手招きつつ部屋へと入る彼に、私たちも続く。
「じゃ、改めて――聞きたいのは、“悪魔王カルト”の動きだろう?」
私とカイルだけが部屋に招き入れられたとたん、彼にずばりと問われて思わず頷いた。
「でも、どうして?」
「君は、彼らの間ではすごく有名なんだ、とだけ。
それで教えてもいいんだけど、見返りは何?」
「見返り?」
口調だけは軽いけれど、彼の目は笑っておらず、口だけが笑みの形になっている。
「当たり前じゃないか。タダより高いものはないって言葉、知らないのかな? 世の中ってそういうものじゃない?」
困ったなあと肩を竦めながら、彼はくすくす笑う。
「だいたい、僕が情報を集めるのは僕自身と主人のためなんだよ。
それをぽっと出の君たちに教えてくれと言われて、ほいほい渡してくれると思ってた?」
急にそんなことを言われてしまい、どうしたらいいのかおろおろしてしまう。
カイルもどう切り出したらいいのかと考えあぐねているようだった。アートゥはそんな私ににっこりと笑みを作る。
「だから、ルカちゃん、僕と取引だ。そいつは抜きで、僕と話をしよう」
「だめだ、ルカ。こいつの甘言に乗るな」
カイルが慌てて私の手を握る力を強め、引き止める。
「やだなあ。別にとって食おうとはしないよ。君はともかく、ルカちゃんと話がしたいだけさ。
──で、ルカちゃんはどうする?」
アートゥがじっと見つめる。
ここで怖気付いたら、きっと元の木阿弥だ。
だから私も腹をくくることにした。硬く握られたカイルの手を撫でて、ゆっくりと解く。
「話を聞く。だから、カイル、ちょっと待ってて。大丈夫」
年齢はよくわからないけれど、私と同年代か幾分か上に思う。
彼は私たちに気づくとすぐに立ち上がって優雅に一礼し、おもむろに私の手を取って指先に口付けた。
「吟遊詩人のアートゥと申します。以後お見知り置きを、お嬢さん」
もちろん、こんな扱いなど受けたことのない私はどぎまぎしてしまうだけだ。
それにしてもカイルはガン無視なのか? 私と繋いだままのカイルの手に、ぐぐっと力が篭る。
「あ、あの、ルカです、よろしくです。こちらは……」
「へえ、ルカちゃんて言うんだ? 男の子みたいな名前だけど、君に似合ってるね。かわいいなあ」
彼は本気でカイルは構わないつもりか、にっこりと微笑んで急に崩れた口調でさらりと言ってのけた。
私はますますどうしていいかわからなくなってしまう。
だが、機嫌の良い彼に反して、背後のカイルの機嫌は急降下しているようだ。背中に不穏な空気がひんやりと冷気を帯びて伝わってきて……振り向くのが、少し怖い。
「ルカ、こういう“悪魔混じり”は自分の衝動と欲望に忠実な種族で信用ならないんだ。言ってることをまともに聞いちゃいけない」
「え? え?」
私の肩に手を置き、アートゥにも聞こえるように言うカイルに少し慌ててしまうが、目の前の詩人は目を細めて笑みを深くするだけだった。
「さすが教会の聖騎士様は言うことが違うね。そのお高く尊い聖騎士様連れの麗しい女性が、僕に何の用なのかな?
――ふうん、なるほど、この子が教会の大切な……ってわけか」
「なぜそれを知ってる!」
ますますいきり立つカイルにはらはらする。ここで彼に帰られてしまっては、元の木阿弥だ。
「ああ怖い。そんなに睨まないでくれるかな? 僕は詩人だよ? 意味はわかるよね?」
くすくすと笑いながらその“悪魔混じり”の吟遊詩人は瞳も瞳孔もない金一色の目を細めた。
ああ、あまり挑発しないでほしい。
「悪辣な行いに手を染めるというならこの場で斬り捨てるだけだぞ」
「やだなあ。悪辣な行いって何のことだよ。僕は善良な吟遊詩人なのに」
「ええと、カイル、落ち着いて?」
慌てて腕を抑えると、見るに見かねてか、ひょこんとナイアラが横から顔を出した。
「そうだよおー。ねえ、あんまりうちの切り込み隊長煽らないで欲しいんだあ。見た目チャラいけど実はバカが付くくらい真面目だし、融通もどっかに置き忘れてきちゃってるから、耐性低いんだよねえ」
「僕は別に気にしてないよ? なんだか友人に似ているなあと思ったくらいで」
くくっと笑って、ナイアラに応じるアートゥと、深呼吸するカイルに少しだけ安心する。それから、改めてアートゥは私に向き直り、にっこりと微笑んだ。
「で、僕と話をしに来たのは君だよね、ルカちゃん。僕に、何が聞きたいのかな?」
「あの、あく……」
アートゥは、“悪魔王のカルト”と言おうとした私の口に素早く指を当てて「ちょっと待った」と言葉を止める。
「こういう、誰が聞いてるかわからない場所で、そんな風に喋っちゃうのはよくないよ」
アートゥは軽くウィンクをすると、忙しく歩き回る給仕を捕まえて部屋を用意させた。
「さ、こっちで話そう」
手慣れた調子で手招きつつ部屋へと入る彼に、私たちも続く。
「じゃ、改めて――聞きたいのは、“悪魔王カルト”の動きだろう?」
私とカイルだけが部屋に招き入れられたとたん、彼にずばりと問われて思わず頷いた。
「でも、どうして?」
「君は、彼らの間ではすごく有名なんだ、とだけ。
それで教えてもいいんだけど、見返りは何?」
「見返り?」
口調だけは軽いけれど、彼の目は笑っておらず、口だけが笑みの形になっている。
「当たり前じゃないか。タダより高いものはないって言葉、知らないのかな? 世の中ってそういうものじゃない?」
困ったなあと肩を竦めながら、彼はくすくす笑う。
「だいたい、僕が情報を集めるのは僕自身と主人のためなんだよ。
それをぽっと出の君たちに教えてくれと言われて、ほいほい渡してくれると思ってた?」
急にそんなことを言われてしまい、どうしたらいいのかおろおろしてしまう。
カイルもどう切り出したらいいのかと考えあぐねているようだった。アートゥはそんな私ににっこりと笑みを作る。
「だから、ルカちゃん、僕と取引だ。そいつは抜きで、僕と話をしよう」
「だめだ、ルカ。こいつの甘言に乗るな」
カイルが慌てて私の手を握る力を強め、引き止める。
「やだなあ。別にとって食おうとはしないよ。君はともかく、ルカちゃんと話がしたいだけさ。
──で、ルカちゃんはどうする?」
アートゥがじっと見つめる。
ここで怖気付いたら、きっと元の木阿弥だ。
だから私も腹をくくることにした。硬く握られたカイルの手を撫でて、ゆっくりと解く。
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