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六日目 ー3
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「詩人くんにも聞いてみたんだけどお、本拠以外の特別な催しの場所までは抑えてないんだってえ」
夜、部屋に集まるなり、ナイアラが開口一番にそう言った。
「基本的にい、詩人くんと詩人くんのご主人様に影響ないとこは外してるからってえ。そういうのは、お友達の魔術師さんのほうが詳しいんだってさあ」
「なるほどね」
イリヴァーラとヘスカンは目を見合わせた。
「我々の方では、過去、カルトが根城にしていた場所の記録や、そういった儀式が行われた場所の記録を調べてみた。都の近くにはいくつかあるというのはわかったが、どれというのを絞りきるところまではいってない」
「さすがに、向こうもそうそう掴まれては困ると思っているんでしょうね。
だから、明日、もう一度変人魔術師を訪ねてみようと思ってるの。例の本に儀式の条件について書いてあれば、場所を絞るキーにできるわ」
それから、イリヴァーラはじっと眉根を寄せる。
「――確かに、本気で本拠を探りに行くことを考えたほうがいいかもしれないわね。
ナイアラには、明日、可能かどうかも含めて情報を集めてもらいましょう。カイルは準備をお願い」
「その間、ルカは」
「連れて行けばいいじゃない」
カイルが私の名前を出すと、イリヴァーラは実にあっけらかんと言ってのけた。
ヘスカンも横で頷いている。
「でも、私、足手纏いに……」
「ルカのひとりくらい、きっちり守れなくてどうするの。ねえカイル?」
「あ、ああ」
戸惑い顔のカイルに、私も少し慌ててしまう。
彼はきっと、教会にでも私を預けて行くつもりだったんだろう。
「でも、私が付いてったら、負担になるんじゃ……」
「私、ルカを連れて行かないと安心できないの」
「え」
イリヴァーラはキッと睨むように私を見る。
「別に、教会を信用してないわけじゃないけどね、でも、私が、ちゃんと手元で守りたいのよ。
――ちがう? カイル」
「も、もちろん、僕もだ」
慌てて応じるカイルに、これはまさか売り言葉に買い言葉なんじゃ、と思わずにいられない。
「だからあ、カイルはあ、明日ルカちゃんの装備も整えとくのよお?
守り厚めにねえ?」
「わかった」
今日1日、のんびり終わるかと思ったけれど、最後の最後に来たなあと思う。
まさか皆と一緒に本拠に乗り込むかもしれないなんて。
……本当に、皆がいいって言うからって、私も付いて行っていいのだろうか。
そんなことを考えていたはずなのに、ベッドに潜ったとたん、私はたちまち睡魔に襲われた。
いちめん白い世界に佇むカイル。
そこだけが光に照らされているように見える。さすが天上の血を引く者。
「僕が、神から命じられたんだ、ルカを守れってね」
うん、わかってる。わかってるよカイル。
「彼女は“神託の乙女”だから」
うん、そうだよね。それもわかってる。
「悪魔王の思う通りにはさせない。僕が神から彼女を託されたのだから」
あなたが私を大事に扱ってくれるのも、私をそばに置いてくれるのも、全部それが理由なのはわかっている。
きらきら輝いてて、何よりも綺麗で、握った手が頼もしくて、嬉しくて――でも、それはもうすぐ終わる。
わかってる。蝕が過ぎればそれはおしまいなの、わかってる。大丈夫。
――本当に、それでいいのか?
だって、しかたないから。
――しかたないで、諦められるのか?
だって、カイルの気持ちはカイルのものだから、私が思い通りにできるものじゃないから。
「なら、私のところにおいで。こんなに苦しそうな顔をして、かわいそうに」
ぱちりと目を開けると、薄い闇の中に、そのひとは立っていた。
慌てて周りを見ても、イリヴァーラもナイアラも起きてはいない。
「夢?」
「そう、夢。だから、お前の思う通りを口に出し、行動に出しても、誰も咎めたりはしない」
そのひとの姿は、ひとことで言って、“悪魔”だった。カイルが天上から降りた者なら、彼は地の底から現れた者。
──艶やかな皮の翼に磨いた黒曜石のような黒い角。燃えるように赤い皮膚とところどころ身体を覆う小さな鱗。そして爛々と輝きを放つ、どこか禍々しい金の目。
“悪魔混じり”とはまるで比べ物にならない、穢れを凝縮したかのような“悪魔らしさ”を持っていた。
カイルが清浄な空気を纏う天上のものの美しさで魅了するものだとしたら、彼は、自分が堕とされるとわかっていても抗うことができずに引き寄せられてしまう誘蛾灯のような、不浄な美しさと魅力を持つ生き物だった。
彼の甘言に誘われてはいけないとわかっているのに、耳を傾けずにはいられない。
「神の命がなければ、あの聖騎士はお前を歯牙にも掛けないのだ……わかるね?」
甘く、耳に心地よく蕩けるような声で彼は囁く。けれど、その囁きの内容に私は耳を覆いたくなる。
「そんなことはないと思いたいのだろう?
わかるよ、彼を信じたいというお前の儚い希望と、そうありたいという理想……けれど残念なことに、お前は彼のお荷物だ。
お前が自覚しているように。
戦うことも、抗うことも、守ることもできず一方的に庇護されるのみだというのに、どうして役に立てると思えるのか」
弱々しく首を振りながら、私は彼を見上げる。彼はゆっくりとこちらへ近づき、優しく私の頭を撫でて……。
「かわいそうに。
けれど、私に委ねてくれればお前の望みは叶う。お前は、お前自身の力で彼の助けとなることができるようになるんだよ」
私の頭を抱き寄せる。
「どうだい? たとえ彼に愛されなくても、彼の役に立ちたい。そう思っているのだろう?」
耳元で囁かれる声は甘く、優しく、心に染み入っていく。
彼の目と私の目が合った。赤い大地に燃え上がる炎のような金色の目は、優しく笑みを湛えて、私を覗き込む。
「私と一緒においで。望みを叶えてあげる」
──そして、その夜、ルカは姿を消した。
夜、部屋に集まるなり、ナイアラが開口一番にそう言った。
「基本的にい、詩人くんと詩人くんのご主人様に影響ないとこは外してるからってえ。そういうのは、お友達の魔術師さんのほうが詳しいんだってさあ」
「なるほどね」
イリヴァーラとヘスカンは目を見合わせた。
「我々の方では、過去、カルトが根城にしていた場所の記録や、そういった儀式が行われた場所の記録を調べてみた。都の近くにはいくつかあるというのはわかったが、どれというのを絞りきるところまではいってない」
「さすがに、向こうもそうそう掴まれては困ると思っているんでしょうね。
だから、明日、もう一度変人魔術師を訪ねてみようと思ってるの。例の本に儀式の条件について書いてあれば、場所を絞るキーにできるわ」
それから、イリヴァーラはじっと眉根を寄せる。
「――確かに、本気で本拠を探りに行くことを考えたほうがいいかもしれないわね。
ナイアラには、明日、可能かどうかも含めて情報を集めてもらいましょう。カイルは準備をお願い」
「その間、ルカは」
「連れて行けばいいじゃない」
カイルが私の名前を出すと、イリヴァーラは実にあっけらかんと言ってのけた。
ヘスカンも横で頷いている。
「でも、私、足手纏いに……」
「ルカのひとりくらい、きっちり守れなくてどうするの。ねえカイル?」
「あ、ああ」
戸惑い顔のカイルに、私も少し慌ててしまう。
彼はきっと、教会にでも私を預けて行くつもりだったんだろう。
「でも、私が付いてったら、負担になるんじゃ……」
「私、ルカを連れて行かないと安心できないの」
「え」
イリヴァーラはキッと睨むように私を見る。
「別に、教会を信用してないわけじゃないけどね、でも、私が、ちゃんと手元で守りたいのよ。
――ちがう? カイル」
「も、もちろん、僕もだ」
慌てて応じるカイルに、これはまさか売り言葉に買い言葉なんじゃ、と思わずにいられない。
「だからあ、カイルはあ、明日ルカちゃんの装備も整えとくのよお?
守り厚めにねえ?」
「わかった」
今日1日、のんびり終わるかと思ったけれど、最後の最後に来たなあと思う。
まさか皆と一緒に本拠に乗り込むかもしれないなんて。
……本当に、皆がいいって言うからって、私も付いて行っていいのだろうか。
そんなことを考えていたはずなのに、ベッドに潜ったとたん、私はたちまち睡魔に襲われた。
いちめん白い世界に佇むカイル。
そこだけが光に照らされているように見える。さすが天上の血を引く者。
「僕が、神から命じられたんだ、ルカを守れってね」
うん、わかってる。わかってるよカイル。
「彼女は“神託の乙女”だから」
うん、そうだよね。それもわかってる。
「悪魔王の思う通りにはさせない。僕が神から彼女を託されたのだから」
あなたが私を大事に扱ってくれるのも、私をそばに置いてくれるのも、全部それが理由なのはわかっている。
きらきら輝いてて、何よりも綺麗で、握った手が頼もしくて、嬉しくて――でも、それはもうすぐ終わる。
わかってる。蝕が過ぎればそれはおしまいなの、わかってる。大丈夫。
――本当に、それでいいのか?
だって、しかたないから。
――しかたないで、諦められるのか?
だって、カイルの気持ちはカイルのものだから、私が思い通りにできるものじゃないから。
「なら、私のところにおいで。こんなに苦しそうな顔をして、かわいそうに」
ぱちりと目を開けると、薄い闇の中に、そのひとは立っていた。
慌てて周りを見ても、イリヴァーラもナイアラも起きてはいない。
「夢?」
「そう、夢。だから、お前の思う通りを口に出し、行動に出しても、誰も咎めたりはしない」
そのひとの姿は、ひとことで言って、“悪魔”だった。カイルが天上から降りた者なら、彼は地の底から現れた者。
──艶やかな皮の翼に磨いた黒曜石のような黒い角。燃えるように赤い皮膚とところどころ身体を覆う小さな鱗。そして爛々と輝きを放つ、どこか禍々しい金の目。
“悪魔混じり”とはまるで比べ物にならない、穢れを凝縮したかのような“悪魔らしさ”を持っていた。
カイルが清浄な空気を纏う天上のものの美しさで魅了するものだとしたら、彼は、自分が堕とされるとわかっていても抗うことができずに引き寄せられてしまう誘蛾灯のような、不浄な美しさと魅力を持つ生き物だった。
彼の甘言に誘われてはいけないとわかっているのに、耳を傾けずにはいられない。
「神の命がなければ、あの聖騎士はお前を歯牙にも掛けないのだ……わかるね?」
甘く、耳に心地よく蕩けるような声で彼は囁く。けれど、その囁きの内容に私は耳を覆いたくなる。
「そんなことはないと思いたいのだろう?
わかるよ、彼を信じたいというお前の儚い希望と、そうありたいという理想……けれど残念なことに、お前は彼のお荷物だ。
お前が自覚しているように。
戦うことも、抗うことも、守ることもできず一方的に庇護されるのみだというのに、どうして役に立てると思えるのか」
弱々しく首を振りながら、私は彼を見上げる。彼はゆっくりとこちらへ近づき、優しく私の頭を撫でて……。
「かわいそうに。
けれど、私に委ねてくれればお前の望みは叶う。お前は、お前自身の力で彼の助けとなることができるようになるんだよ」
私の頭を抱き寄せる。
「どうだい? たとえ彼に愛されなくても、彼の役に立ちたい。そう思っているのだろう?」
耳元で囁かれる声は甘く、優しく、心に染み入っていく。
彼の目と私の目が合った。赤い大地に燃え上がる炎のような金色の目は、優しく笑みを湛えて、私を覗き込む。
「私と一緒においで。望みを叶えてあげる」
──そして、その夜、ルカは姿を消した。
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