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六日目 ー2
しおりを挟む本の1冊でも読めればよかったのだけど、あいにく、私にこちらの文字は読めない。
携帯ゲーム機があれば全然違うのに。
「それにしても、外に出ないとこんなに手持ち無沙汰なんだね」
「確かに」
頬杖をつく私に、カイルが苦笑する。
「カイルは、こういう時っていつもどうしているの?」
「だいたいは、教会にいることが多いかな」
「教会?」
「そう。教会の仕事を手伝ったり、鍛錬に参加したり、信徒の方々と話をしたり……そんなところだ」
なるほど、カイルはやっぱり聖職者なんだ。
日本では、私の近くにこんな風に真摯に宗教を信仰する人はいなかった。
信仰ってどんなものなんだろう。神が実在するこの世界と日本じゃ、信仰もまた違うのかもしれないけど。
「日本じゃ、いろんな神様をごたまぜに拝んでたからなあ」
「こちらでも、教会の人間や熱心な信者以外はそんなものだよ。
皆、その時々で自分に都合のいい神に祈るしね」
「そうなの?」
「そう。勝負に勝ちたいときは幸運の神に祈るし、旅に出るときは旅の神に祈る。
だいたいそんなものさ」
ああ、たしかに。
実際にご利益が降りてくるなら、逆にそうなるものかもしれない。
「カイルは、どうして正義と騎士の神の聖騎士になったの?」
「どうしてと言われても――」
カイルはうーんと考え込む。
「僕の父は十天国界で正義と騎士の神に仕える天使だし、母は教会の司祭だった。
なんというか、聖騎士になることは僕にとって必然だったんだ」
「必然」
「そう。それ以外には考えられないっていうか……とても自然なことだったんだ」
そうか、とどこかで納得する。
カイルはそのために生まれてきたんだ、と。
「そういう風に、自分を心から捧げられるものがあるのって、いいね」
「そう、なのかな?」
「うん。ちょっと羨ましいな」
これまで私にそんなものがあっただろうか。
考えても何にも思いつかないことに気づき、つい笑ってしまう。
「私、カイルたちみたいに、何かをすごく一生懸命やったことって、なかったみたい」
「今頑張ってるじゃないか」
微笑んで即答するカイルに、一瞬目を瞠る。
「でも、神託のことも言葉のことも何もかもおんぶに抱っこで、私だけじゃ何もできないのに」
「そんなことはないよ。神託は、あれは僕が受けたもので、だから僕たちがどうにかするのは当然だ。
言葉は、今の問題が落ち着いてから、ゆっくり学べばいいことだよ」
「そう、なのかな」
「そうだよ」
カイルは私の頭をぽんぽんと叩く。
これも、いつものことになってしまった。
最初は自分が子供扱いされてるような気がして抵抗があったけれど、いつの間にかそうでもなくなってしまった。
考えてみれば、彼らは皆、各々が自分のやるべきことやできることを弁えていて、急な出来事にも落ち着いて対処できるのだ。
私なんて本当に幼いだろう。
「それに、皆、ルカのことを気に入ってる」
「そう、かな」
“気に入ってる”か、と、カイルもそうなのかとはやっぱり訊けずに、私は曖昧に笑う。
そこへ、「ただいまあ!」という元気な声が割って入った。
「ナイアラ、おかえり」
「お腹すいたあ。お昼食べちゃった?」
「まだだよ」
「じゃあ、一緒に食べよう!」
さっそく同じテーブルに座ったナイアラは、手をぶんぶんと振って「今日のお昼は何ー?」と大声で給仕のお姉さんに尋ねた。
「それでねえ、今日聞いた話だとお、あんまり本拠に変化がないみたいなのよお」
「変化がないって?」
「んー、なんていうかねえ、特別なイベントが来る割に、あんまりそれっぽい動きがないんだってえ」
ふむ、とカイルも眉根を寄せて考え込む。
「今夜あたり、詩人くんにもういっかい聞いてみようかなあって思ってるの」
カイルが少し嫌そうな顔になったけど、でもナイアラの判断は正しいだろう。彼ならもっと細かい情報を得ている可能性は高い。
「専用の場所を、他に作っているのかもしれない。条件に合うような場所を」
「その可能性、高そうだよねえ」
「なら、イリヴァーラとヘスカンが調べ上げてくるんじゃないか?」
そうだねとナイアラも同意する。
「カイルはふたりが帰ってくるの、待っててねえ。あたしはもうちょっと聞いてくるからあ。
ルカちゃんも、カイル見張っててねえ」
お昼を食べ終わると、ナイアラは「あとでねえ」と、また慌ただしく出て行ってしまった。
見張ってるって、何をだろう。
カイルも難しい顔で考え込んだままだ。
「本拠を、調べなきゃいけないかもしれない」
カイルが急にぼそりと呟いた。
「本拠を?」
「ヘスカンたちの調査の結果次第だけど、そこで有用な情報がなかったら、本拠を叩いて調べるしかないかもしれない」
確かに、本拠になら儀式のこととか場所のこととか、もっと詳しい情報があるかもしれない、けれど。
「でも、危険じゃないの?」
「危険は承知だけど、必要ならやらなきゃならない」
やっぱり、と思う。
「じゃあ、そうなったら、私は教会で待ってればいいのかな」
「君も――いや、そこはちゃんと相談して決めよう。
そうは言っても、まだ行くと決まったわけじゃないし、ナイアラかヘスカンたちがきっちり調べ上げてくるかもしれないんだ。
どっちにしろ、今夜の結果しだいだよ」
「確かに、そうだね」
私は笑って頷く。「まだわからないことを心配してもしょうがないしね」と。カイルも安心したように、「今夜、皆が揃ってからだ」と笑った。
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