神託の乙女になりました

ぎんげつ

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八日目 ー1

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「こんなに警戒してるなんて、思わなかったよお」

 夜明けとともに再び歩き始めた僕たちは、日が高くなる頃にようやく、“魔女の舞踏場”と呼ばれる目的地がある丘陵地帯の端に辿り着いていた。
 だが、さすがに悪魔王カルトの警戒は厳しく――

「“地獄の猟犬ヘルハウンド”まで放しているとはね。小悪魔インプの姿まで見えたわよ」
「それだけ本気なんですよ。今回の蝕の儀式は」

 岩陰に身を隠しながら、今後、どう進むかを検討する。

「隠れて進みたいけど、正直難しい気がするわ」
「でもお、洞窟の手前までは隠れたほうがいいと思うんだあ」

 ナイアラが簡単に書いた地図を広げる。
 “魔女の舞踏場”は、さすが、カルトの者以外が近づきにくい場所に作られている。
 洞窟の先の谷間がその場所なのだ。

「たしかに、そこまではいろいろと温存したいところですね」

 ヘスカンもナイアラに賛成のようだ。

「ねえ、あれ。透明の指輪つけて、カイルが時々上から偵察するのどうかなあ?」
「――悪くないわね」
「それでえ、上から手薄っぽいほうの目処をつけて、あたしがちゃんと偵察して、で、洞窟まで行こう?」
「それが一番現実的か。飛んだままでもいいんだけど」
「それだと、皆、カイルが見えないから意味ないよお」
「ああ、そうか」

 声を上げて合図をするわけにもいかないし、姿を表せばすぐに見つかるし、たしかに、いちいち飛んで降りてをやらなければならないのか。

「じゃあ、さっそくちょっと見てきてねえ」

 ナイアラに渡された指輪を嵌めて、僕は空へと舞い上がった。
 何ごとも無ければ、こうして飛ぶことはとても気分が良くて素晴らしいことなんだが。

 高みからぐるりと見回し、目を凝らす。
 ルカは無事でいるだろうか。
 イリヴァーラは何もされないはずだというが、悪魔がそばで甘言を囁き続けている可能性だってあるのだと考えると――焦燥にじりじりと焼かれるようだ。

 どうか、彼女のその心まで無事でいてほしい。
 神よ、どうか彼女にあなたの加護を。

 祈りながらも、ひととおり見えている範囲をじっくりと観察し、また降りて指輪を返す。

「やはり開けた場所が一番警戒が少ないようだ。次点で、西寄りの森のきわが安全に進めると思う」

 ヘスカンが、今度はもう少し詳細な地図を開く。

「西の森は少々遠回りになりますね。
 開けた丘陵はここからまっすぐ北に続いていますし、いっそ、突っ切って時間稼ぎをするのもありかもしれませんが……」
「ちょっと待って」

 イリヴァーラが手持ちの呪文の巻物を漁り、「ああ、ちゃんとあるわね」と呟いた。

「一応、全員が透明化できるだけの呪文は用意してあるの。
 だけど、透明化したらお互いが見えなくなるから逆に危険かもしれないし、戦いになればすぐに姿が現れてしまう。
 呪文の無駄撃ちになるだけかもしれないわ」
「けれど、敵の少ない場所を通るんだから、戦いは回避できるんじゃないのか?」

 僕の言葉にイリヴァーラは頷こうとして、不意に考え込む。

「あの“地獄の猟犬ヘルハウンド”じゃなきゃ、なんとかなるけど……あいつらが来たらすぐ見つかるわよ。さすがに臭いや音までは隠せないから」
「風は北寄りだしい、結構なんとかならないかなあ?」

 隠れるところのない丘陵地帯の真ん中で見つかってしまえば、あとはたどり着くまで連戦に次ぐ連戦となることは想像できた。

「ここまで来たんだし……一か八か、やってみましょうか」
「ええと、あたしは指輪があるから魔法はいらないけどお……でも、皆消えて迷子になったら困るからあ、あたしだけ消えないで、隠れながら行くねえ」
「大丈夫なのか?」
「あたしたち猫人は、こういう場所で隠れるの得意なんだあ。ちゃんとカイルたちにだけ見えるようにするから、大丈夫だよお」

 身を隠しながらナイアラが進み、その後を魔法で透明になった3人が慎重に付いていくという方法で、丘陵地帯を進んだ。

 このあたりで身を隠すものといえば、丈の高い草と背の低い茂みくらいのものだ。
 慣れたナイアラでなければたちまち見つかっていただろうが、巧みに草や茂みに身を隠しながら進むナイアラは、さすが猫人の本領発揮と言うべきか。
 時折、あたりを伺ったり、耳を澄ませたりしながら、どんどんと進んでいく。

 犬の遠吠えが聞こえた時ばかりは地面に張り付き、じっと身を竦めて慎重に、距離を測るようにあたりの様子を伺った。
 僕らは、その間、ナイアラのようすに合わせて、じっと音を立てないように身を縮こまらせるだけで精一杯だったが。

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