神託の乙女になりました

ぎんげつ

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八日目 ー2

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 そうやって慎重に進み、丘陵地帯も半ばをすぎたあたりだろうか。

「ナイアラ、危ない!」

 太陽も半ば傾いて、このまま順調に進めば夕刻には北側の森の際まで余裕を持って到達できるだろうと目処が立ったころ、僕らは空から襲撃を受けた。
 さすがのナイアラも、空にいるものに対しては、完全に姿を隠しきれなかったということか。

 咄嗟に翼をはためかせて飛び出して、僕はナイアラを庇うように襲撃者の前に立ち塞がる。ギリギリ構えられた盾で攻撃を受け止めると、相手は――

悪魔デヴィル、か」

 黒い翼を持つ女悪魔。
 ただし、その美しい見た目とは裏腹に戦いに長け、九層地獄界インフェルノでは優秀な戦士として名を馳せるという悪魔だ。
 一説には悪魔王の甘言に唆され、堕天した天使の成れの果てだとも言われている。

「ここまでよく頑張って辿り着いたわねえ。褒めてあげる。
 もう進ませないけどね!」

 あははははと哄笑しながら、女悪魔は黒い炎をまとわりつかせた剣を振り回した。
 そして、さらには、獣の唸る声までが近づいてくる。

「“地獄の猟犬ヘルハウンド”まで」

 イリヴァーラは渋面で呪文の詠唱を開始した。ヘスカンも、腰に下げたメイスを抜いて構える。

「“猟犬”が6、というところですね。他に来ないとも限りません。手早く片付けましょう」
「そうは言っても、ちょっと多いしい」

 そう言いながらナイアラはイリヴァーラたちのところまで下がり、いつの間にか構えていた弓を“猟犬”目掛けて射ていた。

「さすがに1発じゃ倒れてくれないしい」

 続けて2射め、3射めを射ながらどうにか足留めを狙うが、“猟犬”の足はまったく止まらない。
 ナイアラの射かけた矢はそれほど大きな負傷にはなっていないようだ。
 “猟犬”たちが間近に迫るのを見て、ナイアラはとうとう弓を捨てて小剣に持ち替えた。ヘスカンも、手の届く距離に来た“猟犬”にメイスの一撃を叩き込み、氷の“ブレス”を浴びせかけている。

「余所見してると、すぐ死ぬわよ!」

 “猟犬”に囲まれてしまった仲間のほうを見る僕に、女悪魔は、立て続けにいくつもの斬撃を浴びせ掛けた。
 そこへイリヴァーラの最初の呪文がようやく完成し、鷲獅子グリフィンが3頭現れた。
 もう一度ちらりとそちらを見て、僕はほっと息を吐いた。

「これで、なんとか凌げるでしょ。
 ──カイル、そっちに、アレ、やるわ」
「了解!」
「私がなぜ“善き魔術師”と呼ばれるかを、教えてあげる」

 イリヴァーラはぼそりと呟いた。
 それからひと息つく間もなく僕に向かって警告を発して、上空の女悪魔を睨んで次の呪文の詠唱を開始する。
 広い範囲を巻き込む魔法では、僕までを巻き込んでしまう。さらに言えば、悪魔は押し並べて魔法への耐性が高いから、生半可なものではたいした影響を与えられない。

「悪魔、悔い改めるなら今のうちだぞ」

 僕が笑ってそういうと、女悪魔は歪んだ嘲笑をその美しい顔に浮かべた。

「お前こそ、悪魔王に忠誠を誓うと言うなら、命は助けてやらないでもない」

 だが、イリヴァーラが少々変わった祈りの言葉に似た呪文を完成させたとたん、女悪魔の顔から笑みが消えた。

「まさか」

 それだけを口にして、女悪魔は突然自分を襲った光の奔流に悲鳴をあげた。

 僕のような天上の血を引くものには何の影響もない、けれど穢れた下方世界の生き物には致命的な、天より降り注ぐ聖なる光の奔流だ。
 イリヴァーラは善なるもののみが使える、この特別な魔法を習得している。それが、彼女の“善き魔術師”という称号の理由なのだ。

 女悪魔は声にならない叫びをあげ続け、苦痛に身悶える。
 光に焼かれた身体は、ぶすぶすと煙を上げている。

 僕の祈りの言葉に合わせて、手にした剣の輝きが増し――その剣を、女悪魔目掛けてひと息に振り下ろす。

 衝撃で地面へと叩き落された奴は、息も絶え絶えによろめき立ち上がった。
 まだ完全に絶命はしていなかったようだ。
 魔法を使おうとでもいうのか。
 僕は片手を上げて言葉を発しようする奴へと急降下し、勢いを乗せた追撃を喰らわせる。
 女悪魔は倒れ伏し、ようやく動かなくなった。

 “猟犬”はと振り返れば、鷲獅子とナイアラでようやく2頭を減らせたところのようだ。

「カイル早く手伝ってよお」

 ナイアラの声に苦笑しながら、僕はすぐに“猟犬”へと斬りかかった。
 ナイアラは本来、正面から斬り合うよりも背後からの奇襲を得意としている。誰かが正面にに立って敵を惹きつけてくれなければ、本来の半分も力が出せないのだ。
 イリヴァーラもくすりと笑って、また呪文の詠唱を始めた。



 残りの“猟犬”を片付けた後、すぐに僕らは先を急いだ。
 もう透明化の魔法はないし、派手に戦ってしまったのだ、すぐに新手が来ることは間違いないだろう。
 それまでに距離を稼ぎ、少しでも目的地へと進まなければならない。

 それからも何度か散発的に襲ってきた“猟犬”を返り討ちにしながら、ようやく僕らは北の森の入り口に到達した。
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