神託の乙女になりました

ぎんげつ

文字の大きさ
28 / 33

九日目 ー3

しおりを挟む
 がばりと起き上がり、僕は大きく息を吐いた。夢、だろうか? それにしてはとても生々しい感覚に、額に浮かんだ汗を拭う。
 そう、とても嫌な感覚だった。何か、とても嫌な……。

「ん……時間?」

 イリヴァーラが目を覚ました。
 もぞもぞと皆が動き出し、起き上がる。ふうと伸びをして、こきこきと関節を鳴らし、ナイアラが「そろそろって感じかなあ?」と呟いた。

「少しだけ入り口を開けて、外を見てみるわ。静かにしてて」

 イリヴァーラが“小部屋”の入り口を開けると、まだ日が沈んでまもないくらいの時間だったようだ。西の空にはまだ赤みが残り、昇り始めた月が東の空の低い場所にあった。

「頃合ね」

 イリヴァーラの言葉に全員が頷き、すぐに準備を整える……整えるといっても、一部、休むために外していた鎧をつけ直すくらいなのだが。

 ふたたび慎重に入り口を開き、外の様子を伺った後、まずナイアラが外へと出た。彼女はそのままじっと耳を澄まし、あたりの安全を確認する。ナイアラの合図を待ってから、僕らはなるべく音を立てないよう、慎重に外へ滑り出た。

「昼間よりは、ちょっと静かかも」

 小声でボソボソと話しながら、ナイアラが先を進む。
 考えたとおり、夜目の利かないカルト員たちは、松明やランタンを片手に森を歩いているようだった。
 灯りを使わない僕らからしてみれば、視界の利かない森の中でも遠目に見つけることができる。非常にありがたい。

「じゃあ、なるべく静かに、急いで進むからねえ」

 ナイアラの宣言どおり、木々の隙間から差し込む月明かりを頼りに、僕らはどんどんと先を急ぐ。
 時折見える灯りに動きを止めてやり過ごしたり、迂回したりしながら、それでも、戦いながら移動した昼間よりもずっと早く移動できた。

「最初から、こうしておけばよかったわね」
「いやいや、あの隠れ場所のないところでは、いかに灯りがなくてもカイルの白い翼は目立ったでしょうし、私たちが森にいると知られてからのほうが都合よかったはずですよ。ですから、これが正解なんだと思っておきましょう」

 溜息を吐くイリヴァーラに、ヘスカンが笑みを含んだ声で機嫌良く応える。

「この調子なら、たぶん月が中天になる頃には洞窟に到着できるよお」

 ナイアラがきらりと目を光らせながら、小さく言った。
 夜のうちに洞窟に入れれば……ルカが囚われているとしたら、洞窟かその先、“魔女の舞踏場”がある谷間のどちらかだろう。

 昼間とは打って変わり、一度だけはぐれか何かだろうと思われる“猟犬”と戦ったくらいで、すんなりと、斜面にぽっかりと穴を開けた洞窟の入り口まで辿り着くことができたのだった。

「いい? ひとつ断っておくけど、入ったら入り口を“石壁”で閉じてしまおうと思っているの」

 イリヴァーラが洞窟の入り口を睨みながら、宣言する。

「つまり、退却はできなくなるわ」
「僕は構わないよ」
「だって、ルカちゃん見つけるまで帰らないんでしょう? だったら、閉じちゃったほうが応援来なくていいしぃ」
「反対は誰もいませんね」
「そう。それじゃ遠慮なくそうするわ」

 外に出ているものたちはそれなりの数だろう、その考慮を排除できるなら、たぶんそのほうがいい。

「見張りは“麻痺”で無力化する。呪文を唱えたら、すぐに入り口内部の確保をお願い」
「わかった」

 イリヴァーラの魔法で見張りが倒れたのを合図に、僕とナイアラは隠れていた茂みを飛び出した。

 もうすぐだ。もうすぐで、ルカのところへ辿り着ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります

樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。 勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。 平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし! 影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。 色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。 前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。 ※この作品は小説家になろうで完結済みです

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

処理中です...