2 / 56
1.おいしい餌とオカン吸血鬼
1.吸血鬼ミカちゃん
しおりを挟む
「は……く、ふぅ……」
「今回もたいへん良いお味でした」
吐息を漏らして惚ける私の首筋を、最後にもう一度だけぺろりと舐めて正座で合掌し、ミカちゃんは丁寧なお辞儀をした。
本日は月に一度の吸血の日とあって満ち足りた笑顔を満面に浮かべている。きらきらと輝くような笑顔だ。金髪碧眼、黒マントの着こなしもバッチリの王子様系イケメン吸血鬼の笑顔とあって、相当に眼福である。
まあ、いかに王子様系でもサマータイム忘れてアラームの時刻合わせを間違えるとか、今時普通ありえないドジっ子だと思うと笑えてしかたないけどね。
「律子さん、立ち眩み等の問題はありませんね?」
「大丈夫だよ」
「血圧も問題ありませんでしたし……はい、では今日のお弁当です」
頷く私にお弁当の入った小さな手提げを寄越して「行ってらっしゃい」と手を振るミカちゃんは、なんというか。
「ありがと。それじゃ行ってきます」
なんというか、エプロン姿のミカちゃんには吸血時の色気も何も感じられず、気分としては、母に見送られているとでも言ったほうがいいかもしれない。
うん、オカンだ。ミカちゃんはなんというか、オカンだわ。
ああ、確かにミカちゃんっていろいろオカンだよなあ。
* * *
そして今日は金曜日だ。いや、すでにもう土曜日か。
ああ今週もよく働いた。いやむしろ働きすぎだよな――と考えつつ玄関をがちゃりと開けると、そこにはミカちゃんが立っていた。
腕を組み仁王立ちで私を待ち伏せていたのだ。
「律子さん」
「ん……ただいま。ミカちゃん、仁王立ちして何? どうしたの?」
ひきつる私をじっと見つめる大魔王……いや、ミカちゃんは、どう見ても夜遊びを叱ってやろうと待ち構えていたオカンの雰囲気をムンムンに漂わせていた。
彼の眉間には、くっきりと皺まで寄っている。
やはりオカンである。
実家の母もかくやと言わんばかりのオカンである。
「遅くなる時は連絡くださいと言いましたよね」
「んー、ごめん、忘れてた。もう、忙しくってさあ」
あははと手をぶらぶらさせ、定時ギリギリに故障対応とか入るんだよ、ありえないよねと私は笑ってみたが、ミカちゃんは誤魔化されなかった。
ますます眉間の皺を深くするばかりだ。
「いかに日本とはいえ、このあたりも物騒ですし、遅くなるときは駅まで迎えに行くとも言いましたよね」
「あー、そっか、ごめん。もしかして眠かったのに待っててくれた? でもミカちゃんて夜行性だよね?」
時刻はすでに深夜2時。
だが、ここはかなり遅くまで終電のある路線沿線であり、終電ラッシュで電車が遅れて帰宅がこの時間になってしまうこともあまり珍しくはないという、首都圏のそんな地域でもある。
「それにまあ、駅から十分もかかんないし、変な道もないし、交番の前も通るんだから大丈夫だよ」
「そういう問題ではありません」
ミカちゃんはくわっと眉を吊り上げ、最近起こった凶悪事件をあれこれと数え上げるように並べ立て始める。その、いかに夜道の一人歩きが危ないかを説く姿は、まさにオカンだ。高校時代、暗くなってからの帰宅をああだこうだと心配しまくっていた、実家の母の姿と重なること甚だしい。
ミカちゃんてば、ほんとオカンだなあ。
「いやほんとごめん。次はちゃんと気をつけるから」
拝み倒すように謝る私に、ミカちゃんは、はあ、と諦めたような溜息を吐く。
「それで夕食は食べたんですか?」
「――時間なくってさあ」
「そんなことだろうと思いました」
テヘペロと頭を掻く私に、ミカちゃんはまた溜息を吐く。
まったく仕方のない娘だよと嘆く、実家の母のように。
「消化のよいものを用意しますから、その間にお風呂を済ませてください」
「はーい」
正直、ミカちゃんが私の「健康と血液の管理を」などと言い出した時は、いったい何をするつもりなのかとかなりビビった。なぜなら、王道吸血鬼が家事雑事こなせるなんて思わなかったからだ。ラノベでよくありそうな、吸血鬼的なよくわからない何か怪しげなことでもされるんじゃないかと、心の底から私はビビっていたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば、まさかこれほどまでに華麗に完璧に主婦業をこなしてくれるとは。ミカちゃんはいったい何者なんだろうか。ただの吸血鬼じゃない何者でもいいけど、本当に嬉しい誤算である。
このままミカちゃんを嫁に貰っても、いいんじゃないだろうか。
就職して一人暮らしを初めて激務を体験すれば、誰でも、母のありがたみを思い知るものだと思う。私だって、同僚と「彼氏より嫁が欲しい」などと冗談を言い合っていた。
それを考えれば、現状はまるで夢のような暮らしぶりだ。
美人で家事完璧な理想の嫁!
――まあ、実際は、嫁より母よりむしろオカンなので、非常にうるさいんだけど。
私自身の名誉のために言っておくが、もちろん、私だって家事は一通りできる。
だが、仕事が不規則すぎるのだ。
生鮮食料やら生野菜の買い置きなど言語道断。ちょっと残業が続けばあっという間に傷んで腐る。週末に作り置きをすれば……などと言ったところで、作ったものを翌週食べられる保証などもない。おかげで何度冷蔵庫を腐海に沈めたことか。
さらに言えば、週末なんて不足した睡眠を補い溜まった洗濯物を片付け掃除機を掛ければ、それですべてが終わってしまう。
儚い。休日、マジ儚い。
女性週刊誌がドヤ顔で提唱するような「上質な暮らし」など、所詮、豊かな収入と定時帰りにバックアップされたファンタジーなのだ。定時帰りなど都市伝説でしかない現状、そんなものにどうがんばれば手が届くというのか。
もちろん異論は認めない。
……だがしかし。今の私の生活を見てみろ。
イケメンな嫁が飯と風呂の用意をして帰宅を待っていてくれる。
弁当も毎日作ってくれるし洗濯も掃除もばっちりで布団まで干してくれる。
勝ち組万歳! 嫁って素晴らしい!
恋人でもなんでもなく私を捕食対象だと思ってる人外オカンでも関係ない!
スパダリと呼んだっていい。
「おおう、うどんだあ。しかも鶏!」
風呂を出たらうどんが用意されていた。鶏のお出汁に柚子胡椒を添えた、いかにもお腹に優しそうなうどんだ。
「あんまり重たいものを食べてしまうと、胃に悪いですからね」
うむ、と頷くミカちゃんは、いったいどこでこんなスキルを身につけたのだろうか。少し前に料理レシピの投稿サイトを漁っていたのは知ってるけれど、漢字はあまり読めないとか言ってなかったか。
「いただきまーす」
両手を合わせてぺこりと一礼し、さっそくうどんを啜る。鶏のうまみが染み入るようだ。実に良い。
「くう、うまい!」
身悶えしながらあっという間に完食した私を、ふと気づくとミカちゃんは何か面白いものでも見るような顔で眺めていた。観察日記でも書いてるんじゃないかという顔だ。落ち着かない。
いや、違う。観察日記というよりは、家計簿の一言日記に「○月○日 餌に○○を与えた」みたいな飼育日記のほうがしっくりくるか。いや、それよりも――
「どうしました?」
日記よりむしろ毎日の家計簿を付ける図を想像し、ついついじっと見てしまった私に、ミカちゃんが首を傾げる。
「いやあ、最近の吸血鬼って、マジで芸達者なんだね。ミカちゃんナイスすぎるよ」
「それは光栄です」
にっこり笑うエプロン姿のイケメンというのは、また、妙に可愛いもんだなあなどとおっさんくさいことを考えながら、私はご馳走様と立ち上がり、どんぶりを流しに持っていった。
「はー、それにしても疲れたあ。やっと週末だ。今週もよく戦った私!」
「どんな仕事かは知りませんが、大変なんですね」
「基本、お客さんが無茶言うからね。湾岸にゴジラが上陸したら納期が延びるかなあなんて考えたこと、一度や二度じゃないよ」
「ゴジラですか」
「ルルイエ浮上でもいいね。東京湾にどーんと」
「それはちょっとシャレにならないのでやめたほうが」
ミカちゃんが困ったように笑う。
「私、外なる神より納期とバグが怖いね。断言する」
「そんなもの、よくご存知ですね」
「ネットで読んだからね!」
「はあ……それはそれとして、もういい加減おやすみにならないといけませんよ」
ミカちゃんは苦笑しながら私をベッドへと連れて行った。なんだか甘やかされてる子供の気分だ。
うちにベッドはひとつしかない。
寝るときはミカちゃんが私に添い寝をする形だ。
これは、彼が初めてうちに来たときからずっとそういうことになっている。
……が、色っぽい雰囲気など欠片もないのは、たぶん、なんだか捕食される小動物のような気分でびくびくしていたせいだろう。今ではさすがにそんなことはないが、慣れてしまったせいか、今の彼のポジションはただの冷んやりシーツか抱き枕ってところだ。
今さら意識したって何も出ないしな。
あ、冬どうするかは、今から考えておいたほうが良いだろうか。ミカちゃんはとにかく冷んやりだから、さすがに同衾は寒そうだ。
ベッドもうひとつ置く余裕なんてないから、ふとんかな。
とりとめもなくそんなことを考えるうちに、いつの間にか寝てしまうのはいつものことだ。
ミカちゃんは謎が多い。
めっちゃ長生きしている吸血鬼のくせに国籍持ってるし、パスポートと外国人登録証も完備だし、ビザも取って日本にいるし。いったいどうやって取ったのかと訊いてみても、企業秘密ですと返されただけだった。ものすごく気になる。
だが、「ゆうちょ銀行に口座ありますよ」とドヤ顔で言うのはちょっとどうかと。そもそもそれって自慢になるのか?
まあ、そうやって正規の方法で日本にいるのなら、ちゃんと就職して部屋を借りて、こんなとこ居候しなくてもいいんじゃないかと思う。だが、美味しい血液に巡りあうのは奇跡でとてつもない苦労が伴うらしい。正直右から左に聞き流したので、ふーんとしか返事できなかった。
ついでに、昼間起きて働くとかどんな罰ゲームだともいう。ニートか。
なら、うちで家事を請け負うのも似たようなもんじゃないかと思えば、そこはそれ、美味しい血液(エサ)のためなら家事労働程度喜びにしかならないとかなんとか……。
せっかくの王子様系イケメンが、なんだか残念だな――というのが私の感想だ。
「今回もたいへん良いお味でした」
吐息を漏らして惚ける私の首筋を、最後にもう一度だけぺろりと舐めて正座で合掌し、ミカちゃんは丁寧なお辞儀をした。
本日は月に一度の吸血の日とあって満ち足りた笑顔を満面に浮かべている。きらきらと輝くような笑顔だ。金髪碧眼、黒マントの着こなしもバッチリの王子様系イケメン吸血鬼の笑顔とあって、相当に眼福である。
まあ、いかに王子様系でもサマータイム忘れてアラームの時刻合わせを間違えるとか、今時普通ありえないドジっ子だと思うと笑えてしかたないけどね。
「律子さん、立ち眩み等の問題はありませんね?」
「大丈夫だよ」
「血圧も問題ありませんでしたし……はい、では今日のお弁当です」
頷く私にお弁当の入った小さな手提げを寄越して「行ってらっしゃい」と手を振るミカちゃんは、なんというか。
「ありがと。それじゃ行ってきます」
なんというか、エプロン姿のミカちゃんには吸血時の色気も何も感じられず、気分としては、母に見送られているとでも言ったほうがいいかもしれない。
うん、オカンだ。ミカちゃんはなんというか、オカンだわ。
ああ、確かにミカちゃんっていろいろオカンだよなあ。
* * *
そして今日は金曜日だ。いや、すでにもう土曜日か。
ああ今週もよく働いた。いやむしろ働きすぎだよな――と考えつつ玄関をがちゃりと開けると、そこにはミカちゃんが立っていた。
腕を組み仁王立ちで私を待ち伏せていたのだ。
「律子さん」
「ん……ただいま。ミカちゃん、仁王立ちして何? どうしたの?」
ひきつる私をじっと見つめる大魔王……いや、ミカちゃんは、どう見ても夜遊びを叱ってやろうと待ち構えていたオカンの雰囲気をムンムンに漂わせていた。
彼の眉間には、くっきりと皺まで寄っている。
やはりオカンである。
実家の母もかくやと言わんばかりのオカンである。
「遅くなる時は連絡くださいと言いましたよね」
「んー、ごめん、忘れてた。もう、忙しくってさあ」
あははと手をぶらぶらさせ、定時ギリギリに故障対応とか入るんだよ、ありえないよねと私は笑ってみたが、ミカちゃんは誤魔化されなかった。
ますます眉間の皺を深くするばかりだ。
「いかに日本とはいえ、このあたりも物騒ですし、遅くなるときは駅まで迎えに行くとも言いましたよね」
「あー、そっか、ごめん。もしかして眠かったのに待っててくれた? でもミカちゃんて夜行性だよね?」
時刻はすでに深夜2時。
だが、ここはかなり遅くまで終電のある路線沿線であり、終電ラッシュで電車が遅れて帰宅がこの時間になってしまうこともあまり珍しくはないという、首都圏のそんな地域でもある。
「それにまあ、駅から十分もかかんないし、変な道もないし、交番の前も通るんだから大丈夫だよ」
「そういう問題ではありません」
ミカちゃんはくわっと眉を吊り上げ、最近起こった凶悪事件をあれこれと数え上げるように並べ立て始める。その、いかに夜道の一人歩きが危ないかを説く姿は、まさにオカンだ。高校時代、暗くなってからの帰宅をああだこうだと心配しまくっていた、実家の母の姿と重なること甚だしい。
ミカちゃんてば、ほんとオカンだなあ。
「いやほんとごめん。次はちゃんと気をつけるから」
拝み倒すように謝る私に、ミカちゃんは、はあ、と諦めたような溜息を吐く。
「それで夕食は食べたんですか?」
「――時間なくってさあ」
「そんなことだろうと思いました」
テヘペロと頭を掻く私に、ミカちゃんはまた溜息を吐く。
まったく仕方のない娘だよと嘆く、実家の母のように。
「消化のよいものを用意しますから、その間にお風呂を済ませてください」
「はーい」
正直、ミカちゃんが私の「健康と血液の管理を」などと言い出した時は、いったい何をするつもりなのかとかなりビビった。なぜなら、王道吸血鬼が家事雑事こなせるなんて思わなかったからだ。ラノベでよくありそうな、吸血鬼的なよくわからない何か怪しげなことでもされるんじゃないかと、心の底から私はビビっていたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば、まさかこれほどまでに華麗に完璧に主婦業をこなしてくれるとは。ミカちゃんはいったい何者なんだろうか。ただの吸血鬼じゃない何者でもいいけど、本当に嬉しい誤算である。
このままミカちゃんを嫁に貰っても、いいんじゃないだろうか。
就職して一人暮らしを初めて激務を体験すれば、誰でも、母のありがたみを思い知るものだと思う。私だって、同僚と「彼氏より嫁が欲しい」などと冗談を言い合っていた。
それを考えれば、現状はまるで夢のような暮らしぶりだ。
美人で家事完璧な理想の嫁!
――まあ、実際は、嫁より母よりむしろオカンなので、非常にうるさいんだけど。
私自身の名誉のために言っておくが、もちろん、私だって家事は一通りできる。
だが、仕事が不規則すぎるのだ。
生鮮食料やら生野菜の買い置きなど言語道断。ちょっと残業が続けばあっという間に傷んで腐る。週末に作り置きをすれば……などと言ったところで、作ったものを翌週食べられる保証などもない。おかげで何度冷蔵庫を腐海に沈めたことか。
さらに言えば、週末なんて不足した睡眠を補い溜まった洗濯物を片付け掃除機を掛ければ、それですべてが終わってしまう。
儚い。休日、マジ儚い。
女性週刊誌がドヤ顔で提唱するような「上質な暮らし」など、所詮、豊かな収入と定時帰りにバックアップされたファンタジーなのだ。定時帰りなど都市伝説でしかない現状、そんなものにどうがんばれば手が届くというのか。
もちろん異論は認めない。
……だがしかし。今の私の生活を見てみろ。
イケメンな嫁が飯と風呂の用意をして帰宅を待っていてくれる。
弁当も毎日作ってくれるし洗濯も掃除もばっちりで布団まで干してくれる。
勝ち組万歳! 嫁って素晴らしい!
恋人でもなんでもなく私を捕食対象だと思ってる人外オカンでも関係ない!
スパダリと呼んだっていい。
「おおう、うどんだあ。しかも鶏!」
風呂を出たらうどんが用意されていた。鶏のお出汁に柚子胡椒を添えた、いかにもお腹に優しそうなうどんだ。
「あんまり重たいものを食べてしまうと、胃に悪いですからね」
うむ、と頷くミカちゃんは、いったいどこでこんなスキルを身につけたのだろうか。少し前に料理レシピの投稿サイトを漁っていたのは知ってるけれど、漢字はあまり読めないとか言ってなかったか。
「いただきまーす」
両手を合わせてぺこりと一礼し、さっそくうどんを啜る。鶏のうまみが染み入るようだ。実に良い。
「くう、うまい!」
身悶えしながらあっという間に完食した私を、ふと気づくとミカちゃんは何か面白いものでも見るような顔で眺めていた。観察日記でも書いてるんじゃないかという顔だ。落ち着かない。
いや、違う。観察日記というよりは、家計簿の一言日記に「○月○日 餌に○○を与えた」みたいな飼育日記のほうがしっくりくるか。いや、それよりも――
「どうしました?」
日記よりむしろ毎日の家計簿を付ける図を想像し、ついついじっと見てしまった私に、ミカちゃんが首を傾げる。
「いやあ、最近の吸血鬼って、マジで芸達者なんだね。ミカちゃんナイスすぎるよ」
「それは光栄です」
にっこり笑うエプロン姿のイケメンというのは、また、妙に可愛いもんだなあなどとおっさんくさいことを考えながら、私はご馳走様と立ち上がり、どんぶりを流しに持っていった。
「はー、それにしても疲れたあ。やっと週末だ。今週もよく戦った私!」
「どんな仕事かは知りませんが、大変なんですね」
「基本、お客さんが無茶言うからね。湾岸にゴジラが上陸したら納期が延びるかなあなんて考えたこと、一度や二度じゃないよ」
「ゴジラですか」
「ルルイエ浮上でもいいね。東京湾にどーんと」
「それはちょっとシャレにならないのでやめたほうが」
ミカちゃんが困ったように笑う。
「私、外なる神より納期とバグが怖いね。断言する」
「そんなもの、よくご存知ですね」
「ネットで読んだからね!」
「はあ……それはそれとして、もういい加減おやすみにならないといけませんよ」
ミカちゃんは苦笑しながら私をベッドへと連れて行った。なんだか甘やかされてる子供の気分だ。
うちにベッドはひとつしかない。
寝るときはミカちゃんが私に添い寝をする形だ。
これは、彼が初めてうちに来たときからずっとそういうことになっている。
……が、色っぽい雰囲気など欠片もないのは、たぶん、なんだか捕食される小動物のような気分でびくびくしていたせいだろう。今ではさすがにそんなことはないが、慣れてしまったせいか、今の彼のポジションはただの冷んやりシーツか抱き枕ってところだ。
今さら意識したって何も出ないしな。
あ、冬どうするかは、今から考えておいたほうが良いだろうか。ミカちゃんはとにかく冷んやりだから、さすがに同衾は寒そうだ。
ベッドもうひとつ置く余裕なんてないから、ふとんかな。
とりとめもなくそんなことを考えるうちに、いつの間にか寝てしまうのはいつものことだ。
ミカちゃんは謎が多い。
めっちゃ長生きしている吸血鬼のくせに国籍持ってるし、パスポートと外国人登録証も完備だし、ビザも取って日本にいるし。いったいどうやって取ったのかと訊いてみても、企業秘密ですと返されただけだった。ものすごく気になる。
だが、「ゆうちょ銀行に口座ありますよ」とドヤ顔で言うのはちょっとどうかと。そもそもそれって自慢になるのか?
まあ、そうやって正規の方法で日本にいるのなら、ちゃんと就職して部屋を借りて、こんなとこ居候しなくてもいいんじゃないかと思う。だが、美味しい血液に巡りあうのは奇跡でとてつもない苦労が伴うらしい。正直右から左に聞き流したので、ふーんとしか返事できなかった。
ついでに、昼間起きて働くとかどんな罰ゲームだともいう。ニートか。
なら、うちで家事を請け負うのも似たようなもんじゃないかと思えば、そこはそれ、美味しい血液(エサ)のためなら家事労働程度喜びにしかならないとかなんとか……。
せっかくの王子様系イケメンが、なんだか残念だな――というのが私の感想だ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる