真夜中の吸血鬼

ぎんげつ

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4.ミカちゃんとご近所さん

3.いつもの五割増し

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「ミカちゃん、本当、ありがとね」
「いえいえ」

 同級生との飲み会からタクシーで戻って、ミカちゃんに支えられながら庭をゆっくりと横切る。
 足元はふわふわしてるし、ものすごく呑まされた気がする。途中からミカちゃんがさりげなくグラスをさらってくれたから良かったけど、皆、なんだかんだ酔い潰そうとするなんて、ほんと容赦ない。

「気分はどうですか?」
「うん、ちょっとふらふらするだけ。お水飲んでシャワーでも浴びれば大丈夫かな」

 もうだいぶ遅いからと、そっと玄関を開けて忍び足で家に上がる。
 結構古い木造住宅だから、防音なんてたかが知れてるのだ。気をつけないと床板がギシギシ鳴るところもある。早く寝てしまう両親と婆ちゃんを起こしてしまったら、申し訳ない。
 まあ、婆ちゃんは奥の間だし、両親とあきらは2階だし、普通に静かにしてればそこまでは響かないんだけど。

 台所の椅子に座ってふぅとひと息吐くと、ミカちゃんが水を汲んでくれた。
 コップを受け取ってごくごくと飲み干して、ようやく落ち着いた気がする。実家は今も井戸水だから、夏場でも冷たくておいしくて、飲むとしゃっきりできるのだ。

「皆さん、もうお休みのようですから、静かにシャワーを浴びましょう」
 私はちらりとミカちゃんを見上げた。一緒にってことだろうか。
「……うん」
 私は少しドキドキしながらこくんと頷いた。
 ミカちゃんが部屋から着替えを持ってくるのを待って、そーっと、風呂場へと向かう。

「滑らないように、気をつけて」

 ミカちゃんが、まだアルコールの抜け切ってない私を支えて風呂椅子に座らせた。シャワーの温度を調節して、ざあっと熱めのお湯を頭からかける。
 飲み会にありがちな煙草の煙の臭いとかアルコール臭さとか汗のベタつきとか、いっきに全部押し流されてとてもさっぱりとする。
 ついでに、一緒に入るといつもそうするように、シャンプーやらボディソープやらで全身泡だらけにしてきれいに洗ってもらって、つくづくお姫さま待遇だなあなんて考えてしまう。

 ミカちゃんは私を甘やかしすぎなんじゃないだろうか。



 しっかりタオルで水分を取って、髪も乾かして、いい感じにアルコールも抜けて、やっと人心地ついた。
 部屋に戻るとすぐに出かける前に敷いておいた布団にごろんと転がって、思いっきり伸びをする。
 伸びをして、思いっきり深呼吸をする。

「……ミカちゃん、どうしよう」
「どうかしましたか?」
「なんか、すごくしたくなっちゃった」

 ミカちゃんは瞠目して固まったまま、じっと私を見つめた。私もじっとミカちゃんを見つめる。
 しばしの間そうやって見つめ合った後、ミカちゃんはおもむろに屈んで私の口を塞いだ。お互いじっくりと口内を探り、舌を絡め合い、味わうように舐る。

「律子さん、お楽しみは後でと昨日言いましたよね……」

 小さく吐息を漏らしながら、ミカちゃんが笑う。

「うん……でも、皆寝てるし、静かになら……ここ、ちょっと離れてるからさ……」

 言い訳をするようにもごもご呟く私に、今度は覆いかぶさるようにして、ミカちゃんがそっとキスをする。

「どうかな……だめ?」

 ミカちゃんは黙ったまま、何度も何度もキスをする。だんだんと私もミカちゃんも息が荒くなっていく。

「ね、ミカちゃん」
「そこまで言われては止まらなくなりますが……いいんですか、律子さんは」
「私、とっくに止まらなくなってる」

 少し上目遣いに見上げると、ミカちゃんが小さく噴き出して、「それなら仕方ないですね」と、がっつり貪るようなキスをしてきた。
 ミカちゃんの目が赤い。

 アパートにいる時は、いわば毎晩のように“お楽しみ”をしていたわけで……と考えると、一日おあずけしただけでこれってすっかり習慣付いちゃったってことなのだろうか。
 すごく淫乱になっちゃったんだろうか。恥ずかしくないか、私。

「どうしましたか」
 くすくす笑いながらミカちゃんが尋ねる。何考えてるかわかるぞって顔だ、これは。
「……自分がこんなにすけべだなんて、知らなかった。なんかもう、全部ミカちゃんのせいだ」
「はいはい。私のせいでいいですよ」

 顔に血が上って真っ赤になる私に、ミカちゃんは笑いながらまたキスを降らす。人間と違ってちょっとだけ冷たい感触にはもうすっかり慣れてしまった。冷たいはずなのに、なんで熱く感じるんだろう……なんてことも考えるくらいには。

 キスをしながらパジャマの下に手を差し入れられて、はあ、と息が漏れる。ひんやりした手が気持ちよくて、ぞくぞくする。
 ミカちゃんの目は、やっぱり赤い。
 ちゅ、とまた啄むように唇を合わせて、離れる。

「ね、ミカちゃんてさ……」

 軽く息を吐きながら言うと、ミカちゃんが、ん? という顔で私を見る。

「ミカちゃんて、興奮すると、目が赤くなるよね」

 ミカちゃんは軽く目を瞠って、それから決まり悪そうに視線を逸らした。

「いけませんか?」
「いーっつもすましてるけど、そこだけわかりやすいなって思ったの」

 くすくす笑いながら頭を抱き寄せてキスをすると、ミカちゃんはじとっとした目で私を見て、はぁ、と大げさに溜息を吐く。

「そんなことを考えながら、私を見ていたんですか」
「……最初は気のせいかなって思ったんだけど、やっぱり時々赤くなってるし、なんでかなって。
 だって気になるじゃない」

 ミカちゃんの目元が、ほんのり赤くなったように見える。

「確かにその通りですよ。要するに、私は今、律子さんに誘われて抑えが利かなくなっているんです。
 ──これでいいですか?」

 ミカちゃんはちょっと目を眇めてそう述べると、さっさと私の口を塞いでしまう。もう、余計なことなんか言わなくていい、とでもいうかのように。

「ん……」

 するっと身体を撫で下して、ミカちゃんの手が下着の中に入っていった。
 ぴちゃ、というかすかな水音がして、私の身体がぴくりと小さく跳ねる。
 ちゅくちゅくと指で擦られて、んふう、と声が漏れる。もぞもぞ脚をすり合せるようにして悶えていると、ミカちゃんの目が笑うように細められた。

「ずいぶん濡れてますね」

 小さく囁かれて、思わず睨んでしまう。わかりやすいって言ったから、仕返しのつもりだろうか。

「んっ……も……、そういうの、はずかし、から……っ」

 肩をペチンと叩くと、ミカちゃんはくつくつ笑いながらやっぱりキスをした。けれど、手は忙しなく中をまさぐり続けている。荒くなった息が、ふう、ふう、と鼻に抜けて、自分がすごく間抜けな気もする。

「んん、ね、も……っ、がまん、できない」
「はい」

 息を喘がせながら言う私にくすっと笑って、ミカちゃんは私を脱がせた。そのまま自分もさっさと脱いでしまう。
 脚を抱えて腰をぐいと持ち上げて、ゆっくりと中に入って、それから私の身体を抱き起こす。まるで、胡座をかいたミカちゃんの上に跨ってるみたいな格好のできあがりだ。

「ん……なんか、深い、って……んぅ」

 必死で声を出さないようにしてるせいか、さっきからずっと中がびくびくしながらミカちゃんを締め付けている。そのことを自分でもはっきりわかってしまって、ものすごく恥ずかしい。

「いつもより、ずいぶん感じているようですね」

 ミカちゃんがにやにや笑いながらそんなことまで囁いてくる。同時に腰を揺すったり突き上げたりするから、油断すると大きな声が出てしまいそうだ。

「そ、そういう、ミカちゃんだって、目が、真っ赤じゃない……っ、は」
「当然、ですよ」

 そう言いながらぐりっと擦り付けられて、またびくびく震えてしまう。

「律子さんからこんな風に誘うことなんて、あまりないですし」
「っ、や、もう……っ、言わな……ぅん」

 そういうミカちゃんだって、いつもよりずっと嬉しそうだし興奮してるように見えるんだけど。

「んんっ……んっふ」

 歯を食いしばるように声を堪えて、ミカちゃんにしがみつく。もう、気持ちよすぎて意識がどこかに行ってしまいそうだ。

「なぜでしょうね、そうやって必死に声を堪える律子さんは、いつもの五割増しくらいかわいいですよ」
「んんんっ! ……はっ!」

 耳を食みながら腰の動きを強くして、そんなことを低く低く囁くミカちゃんは酷い。これがいわゆる“腰に来るイケヴォ”ってやつなのか。うっかり涙目になってしまったじゃないか。

「ね……も、無理……なんか、良すぎ……」

 はあはあと激しく息を吐きながら見上げると、なぜだかミカちゃんはゴクリと大きく喉を鳴らした。

「っ……律子さんは、まったく」

 ぱたりと私を横たえて、ミカちゃんが猛然と動き出す。私の思考がだんだん白く染まっていく。

「え……っ、あっ、や、っは、ミカちゃん、はげし……っ」

 あっあっと声が漏れてしまう。このままじゃやばい、とだけ思って、必死に手に触れた枕の端っこをきりきり噛み締めた。

「んっ、んっ……んんっ!」
「っは、律子さん……」

 ミカちゃんがぺろりと私の首を舐めると、途端に、頭の中のいろんなものが蕩けて崩れてしまう。ただもうがくがくと震えが来て、次に来るものへの期待だけがどんどんと高まっていく。

「ん、んぅ……っは、ミカちゃん、あ、ちょう、だい」

 あむあむと首を食まれ、ちく、とかすかに牙の尖った先を感じる。

「っ、く、いきます、よ」

 ふっ、ふっ、と荒く息を吐きながら、ミカちゃんの動きが速くなる。私は、口の中に突っ込まれたミカちゃんの指をぺちゃぺちゃしゃぶりながら、んっ、んっ、と悶え続ける。

 ミカちゃんはもう一度首をぺろりと舐めて……ずぶ、と牙を刺した。
 とたんに、身体の中心を焼かれるような感覚に襲われて、私はがくがく跳ねるように震えてしまう。

「っ、う……」

 ミカちゃんもぶるっと震えて牙を抜く。そのまま私を抱き締めて息を整えて、キスをする。

 ミカちゃんはキスが好きなんだろう。食欲解消の代わりにキスをしているようにも思えるけど。
 ちゅ、ちゅ、とあちこち優しくキスをされて、なんだかものすごくふわふわと気持ちよくて、私はそのまますうっと寝てしまった。



 翌朝、さほど遅くない時間に目が覚めたのは奇跡だった。いつもなら、昼まで寝倒すコースだというのに。
 ぼーっとした頭でむくりと布団の上に起き上がると、ミカちゃんはすでに起きていた。

「おはようございます、律子さん」
「あ……ミカちゃん、おはよう」

 ミカちゃんは、あんまり睡眠がいらないんだろうか。
 すっきり爽やかそうなミカちゃんの顔を眺めてそんなことをぼんやり考える。それから、ハッと気づいて自分を見ると、ちゃんとパジャマを着ていた。

「ちゃんときれいにしておきましたから」

 あれ? と首を傾げたところににっこりとそんなことを言われて、ぶわっと顔に血が上る。

「そっ、そのっ、昨夜は、そのっ……」
「律子さんに堪え性がないのは、今に始まったことではありませんし」
「……っ!!」

 頭を抱えて悶える私の姿に、ミカちゃんは肩を震わせて笑う。だめだ、きっとアルコールのせいなんだ。アルコールが入るとタガが飛んじゃうタイプなんだ、私は。

 朝ごはんを食べて実家を後にして、ミカちゃんが運転する車の中で、私はひたすら脳内ひとり反省会をしていたのだった。
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