真夜中の吸血鬼

ぎんげつ

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5.吸血鬼と私

2.大甘やかしモード

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 瞼の向こうがうっすらと明るい気がする。

 柔らかい布団の暖かさが心地良くて、布越しに触れる少しだけひんやりした感触を堪能しながら頬を擦り付ける。

 ――と、頭に何かが触れた。

 続けて、スンと息を吸い込むような音がして、髪を撫でられる。優しい手つきとくすぐったさに私は笑みを浮かべて、もぞもぞ身体を捩らせる。
 髪から背に降りた手は、ゆっくりと背骨を辿るように撫で下ろされて……きゅうっと私を抱き締める。

 そこからさらに、夢うつつのままあちこちをくすぐられて、だんだんと身体の奥がむずむずと落ち着かなくなってくる。
 頭は間違いなく寝惚けているのに、身体だけが覚醒していく。

「ん……ふ」

 ちゅ、ちゅ、と啄む音がする。
 顔のあちこちを柔らかいものが這い回り、音を立てて唇を吸う。

「んふ……」

 ぞくぞくする感覚は首筋を伝い降りながら、どんどん大きくなっていく。

「ん、あっ」

 とうとうぴくりと身体が跳ねて、私はうっすらと目を開けた。目の前で、金色の頭がごそごそ動いていた。
 私の寝込みを襲っているのは、もちろんミカちゃんだ。

「ん、んっ、ミカちゃん、朝から元気過ぎ」
「嫌ですか?」
「ん……っ、あ、嫌……じゃ、ない、けど」

 にんまり笑うミカちゃんにぱくりと胸を齧られて、また私の身体が跳ねる。

「まだ朝食には早い時間ですよ。昨晩は早く眠ってしまいましたから、早く目が覚めてしまったのでしょう」

 いや違う。私が目を覚ましたのは、絶対ミカちゃんのせいだ。ミカちゃんがごそごそいじくりまわすから、目が覚めちゃったんだ。

「どうしましたか?」

 じっとり見つめる私ににっこり微笑み返して、ちゅうっとキスをする。
 ミカちゃんは、どうやら、律子甘やかしモードから律子大甘やかしモードに移行してる。間違いない。

「ミカちゃんのほうがはしゃいでるみたい」
「そんなことはありませんよ」

 ぺろりと唇を舐めて深く深くキスをして、ミカちゃんは蕩けるように笑う。
 朝からこんな爛れたことをしていていいのだろうか。そんなことを考えながら、ちょろい私はやっぱり流されて行く。
 ミカちゃんの手にぐだぐだにされて、もう、もっとが欲しくて堪らない。

「律子さん、どうしましたか?」

 ミカちゃんがきれいな微笑みを浮かべて首を傾げる。これはわかっててわざと尋ねるときの顔だ。

「ん……ミカちゃんが、意地悪過ぎて、つらい」
「意地悪などしてませんが」
「じゃあ、ミカちゃんは、無自覚で意地悪ってことなんだよ」
「そうですか?」
「――あっ」

 くっくっと笑いながら、ミカちゃんがもう一度ぱくりと胸のてっぺんを齧った。それだけで背中がぞくぞくして、私のたまらなさが加速する。

「や、もう、ミカちゃん……っ」
「律子さん、どうして欲しいですか?」

 ミカちゃんの指先がつうっとお腹を撫でて、お臍をくすぐる。いつもならくすぐったくて笑い出しちゃうはずなのに、今は背を走るぞくぞくをどんどん大きくして、身体をびくびく震わせるばかりだ。
 脚の間がひくんとわなないて、とろりとした粘液が零れ落ちる。
 まだ全然触られてないのに、中が寂しいと震えだす。早くミカちゃんが欲しくてたまらないと訴えてる。
 なのに、ミカちゃんは澄ました顔でお臍をくすぐるばかりだ。

「ん、あっ……も、やあっ。ミカちゃん、ねえ、ちょうだい……っ」

 ミカちゃんが嬉しくてしかたないという顔になった。
 指先がするりと降りて、私の敏感な場所をぬるりと撫でる。耳朶をやんわり齧られて大きく身体が跳ね上がり、思い切り抱きついてしまう。

「もうこんなに濡らして。お漏らしでもしてしまいましたか?」
「やだ……お漏らしじゃ、ないし」
「では、どうして?」
「み、ミカちゃんの、せい、だよ」
「私のせいですか?」

 くすくす笑いながら、ミカちゃんがぬるぬる指を滑らせる。はあはあと息を荒げる私の舌を絡め取って、くちゅくちゅかき混ぜる。
 舌が感じてるのか、指で感じさせられてるのか、もう、よくわからない。

「ね、指だけ、じゃ、やだ……」
「律子さんは、我儘ですね」
「あ、あっ……ねえ、ミカちゃんの……ミカちゃんの、ほしい」

 入り口に浅く差し込まれた指先だけじゃ足りない。深いところまでミカちゃんが欲しくて、恥ずかしいくらいにおねだりしてしまう。
 キスをしながら、ミカちゃんは私の膝を割った。熱くて猛るミカちゃんをあてがって、律子さんと囁いて、ゆっくりゆっくり、沈めていく。

「ん、あ、あっ、あっ……」

 押し広げられて擦られてわななく私を、ミカちゃんは小さく吐息を漏らしながら、とろとろに蕩けた目で見つめている。
 いつもよりずっと甘々に感じるのは、いつもと違う場所だからだろうか。

「律子さん、ちゃんと奥まで入りましたよ。奥まで欲しかったんですよね」

 キスをしながら囁かれて、私の顔に血がのぼってしまう。
 ミカちゃんがノリノリだ。ノリノリ過ぎるかもしれない。

「も、そんなの、言わないで……」
「ほら、律子さんの中が締まりましたよ。きついくらいに締め付けて、そんなに気持ち良いですか?」

 かーっと真っ赤になった私の顔を上向かせて、ミカちゃんが唇を食む。
 めちゃくちゃうれしそうに、「律子さんはこれが大好きですね」なんてわざわざ囁くことまでしてみせる。
 恥ずかしがらせて楽しいのだろうか。
 楽しそうだ。

「ん……」
「律子さん、どうですか?」

 入ったままじっと動かず、ミカちゃんは伺うように私を見下ろしたままだ。
 これはあれか。答えるまで動いてあげませんよ、というやつか。
 はあはあと息が荒くなっていく私を、ミカちゃんはじっと見つめ続ける。

「律子さんの中が、ずっとひくひく動いていますよ。わかりますか?」
「う……も、もう、ミカちゃんの、意地悪……っ」
「自分からあんなにおねだりしておいて、恥ずかしいのですか?」
「ん……」
「律子さん?」
「は、恥ずかしい、に、決まってる、し」

 ミカちゃんが破顔して私の唇を塞ぐ。舌先にミカちゃんの牙が触れて、その舌先を掬い取って絡めて、ミカちゃんが動き出す。
 上と下からくちゅくちゅ音がして、ますます恥ずかしい。
 なのに、これ以上ないくらい興奮している私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。

「律子さんは、かわいいですね」

 片手の指を絡めてしっかり手を繋いで、ゆっくりと動くミカちゃんに、気持ちいいところばかり擦られる。ほんのちょっと動かれただけなのに私の息はもう絶え絶えで、酸欠になってしまいそうだ。
 首にキスをされて、ほんのりと牙がそこを掠めるのを感じて、「あ」と声を上げてしまう。ミカちゃんは、きっとわかってやっている。

「あ……ミカちゃ、も、だめ……」
「もう? 私はまだまだなのに、律子さんは本当に堪え性がありませんね」
「だって……気持ち、よすぎ……あっ」

 ぐりっと奥を押されて、一瞬頭が白くなった。ミカちゃんが百戦錬磨過ぎて、私はもうだめだ。
 喘ぎながら首にしがみつく私をきゅっと抱き締めて、ミカちゃんがまた強く突き上げた。びくびくと痙攣する私に「本当にかわいいですね」と囁くけれど、ミカちゃんの言う“かわいい”ってどういう意味なんだろう。

「ミカちゃ……ね、お願い」

 どんどん高みに昇っているのに、それでもほんの少しだけ足りなくて、私はミカちゃんの頭をぐいっと引き寄せてしまう。
 ミカちゃんがうれしそうに目を細めて、首を食みながら「何が“お願い”なんですか?」と囁いた。わかってるくせに私の口から言わせようとするミカちゃんは、やっぱり意地悪だ。
 ぐちゅぐちゅ音を立てて掻き回しながら、何度も何度も首を舐めるミカちゃんは、本当に意地悪だ。

 私の頭の中がどんどん蕩けて、ぐだぐだのぐちゃぐちゃになっていく。

「ほ、しいの」
「何が、欲しいのですか?」

 ミカちゃんの目が真っ赤に染まってる。
 昂るミカちゃんに私もまた昂って、どんどんわけがわからなくなる。気持ちよくて、すぐそこに見えてる高みにイキたくて、たまらなくなる。

「ああっ……ミカちゃん、噛んで……っ」

 ぎゅうぎゅうにしがみつく私の首を、ミカちゃんの牙が掠める。

「おねが……刺して、吸って……!」

 ずぶ、と貫かれて、頭の中で何かが爆発する。びくびくと身体が痙攣して、目の前が真っ白になる。

「っ、律子さん」

 ミカちゃんの背がふるりと震え、私の奥深くでどくどく脈打つのを感じた。
 すぐに牙を抜いて、ぺろりと舐めて……何度も何度もそこを舐めてキスをして、ミカちゃんが「愛してます」と囁く。
 私も、ぼんやりしたままミカちゃんを抱き締めて、「大好き」と答える。

 ああ、でも、朝からこれはハード過ぎだ。満足感と疲労感と抱き締められる心地よさで、また、まぶたが重くなってしまう。
 顔や頭を啄むミカちゃんを感じながら、また、眠ってしまう。
 気持ちいいし、なんだか幸せだ。



「律子さん」
「ん……あれ?」

 ぱちりと目を開けると、太陽はもうだいぶ高くまで昇っていた。

「お腹は空いていませんか?」

 身体はちゃんときれいにされてて、でも裸のままシーツにぐるぐるになっている私に、ミカちゃんはキスをしながら尋ねる。
 そうか、朝ご飯かと考えた途端に胃袋が動き出して、ぐうっと音を立てる。

「空いてる!」
「食堂の朝食には間に合わなさそうでしたので、サンドイッチを作っていただきました。コーヒーもありますよ」
「え、あ、もうそんな時間なの!?」
「よく眠っていましたので、起こすのが忍びなかったんです」

 慌てて起き上がる私を、ミカちゃんがくすくす笑いながら見ている。自分はしっかり着替えも済ませて……ひょっとして、ずっと見ていたのだろうか。

「時差もありますし、疲れていたんですよ」
「どっちかっていうと、ミカちゃんに疲れさせられたんだと思うな」
「そうですか?」

 シーツに包まったままの私を抱き上げて、ミカちゃんは椅子へと腰を下ろした。もしやこの体勢は……と思ったとたん、「律子さん、どうぞ」とサンドイッチをひとつ、口元へと差し出してくる。
 ミカちゃんの律子大甘やかしモードは絶賛継続中のようだ。

「もう目が覚めたし、ちゃんと自分で食べられるよ」
「遠慮なさらず」

 にこにこ笑顔のミカちゃんの顔には、絶対譲らないと書いてある。
 ちょっと上目遣いにミカちゃんを見ながらぱくりと齧ると、何がそんなに楽しいのかといううっとり顔になっていた。

 まあ、ミカちゃんがご機嫌ならいいか。

「さすがヨーロッパだね。ハムもチーズもパンもおいしい」
「地のものを使っているのでしょうね」

 それから、サンドイッチもコーヒーもヨーグルトもきれいに平らげるまで給餌され、おまけに着替えやら何やらまでも、お姫様待遇の何者でもないくらいに世話を焼かれた。
 ミカちゃんのはしゃぎっぷりには、さすがの私もちょっと引いてしまう。

 けれど、ちょっとやそっと抵抗したところでミカちゃんはやっぱり断固として譲らない。なら、喜んでるししかたないかと諦めて世話を焼かれて、少しゆっくりめにホテルを出発したのだった。

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