真夜中の吸血鬼

ぎんげつ

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5.吸血鬼と私

4.ミカちゃんもちょろい

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「律子さんは、私の何を知りたいのですか?」

 あああああと頭を抱える私を抱き寄せて、ミカちゃんが囁いた。

「え、何、って……」

 改めて尋ねられて、うっ、と言葉に詰まってしまう。ミカちゃんのプロフィール……は、前にちょっと聞いた気がする。もともと貴族だけど爵位と領地は売ってしまって、今はブルジョワなのに家事一切を引き受けて、私の健康的な生活を支えてくれてて……。

「ええと、何だろう……あ、仕事! ミカちゃんの仕事って何?」
「私の仕事ですか……端的に言えば、会社の決算報告や今後の経営計画に案を出したり承認したりすることでしょうか」

 そういうのって、経営者がやることなんじゃないだろうか。ミカちゃんて、会社に出資はしてるって……あ、会社役員て、経営する側か。

「もしかして、だから、会社に行かなくて平気なの?」
「今の時代、どちらもメールと電話で事足りますから、家事の合間に確認していれば十分ですよ」
「……なんか、小説の中にしか存在しないような仕事の仕方なんだね」

 日本の大多数を占めるリーマンとは、えらい違いだ。
 その昔、ホームオフィスがどうとかあったと言うけれど、今はセキュリティだ情報漏洩だでそんなの夢のまた夢になっちゃってるもんな。
 それに、家事の合間で事足りるって、そんなに緩く働くだけでいいなんて。

「ミカちゃんてほんとにブルジョワなんだね……」

 きょとんとしていたミカちゃんは、すぐににっこりと笑みを浮かべて……「律子さん」と腕に力を込めた。

「そうなんです。ですから、私に任せてくだされば何の心配もありませんよ」
「心配って、何の……あっ」

 結婚式か。ミカちゃんは未だに結婚式好き放題計画を捨ててないのか。そんなの、任せっきりにしたらどこまでエスカレートするかわからないじゃないか。

「け、結婚式は、あんまり無駄遣いしないからね!」
「無駄遣いではないと言ってますのに」
「だっ、だめだって」
「なぜ?」
「だって、スーパー庶民なのにミカちゃんにブルジョワパワーの本気なんか見せられたら、たぶん昇天しちゃうし……私が昇天したら、ミカちゃん困るでしょ?」

 何が楽しいのか、ミカちゃんはにこにこし通しだ。これは間違いなく、何かよからぬことを考えている時の顔だ。

「そうですね……でも、こういう昇天なら、されても困りませんよ」
「え……あっ」

 ミカちゃんがかぷりと首筋を噛んだ。
 たちまち背中をぞくぞく甘い痺れが駆け上がって、変な声が出てしまう。
 牙だって掠ってないのに、まるでパブロフの犬みたいに、首にミカちゃんを感じただけで腰砕けになってしまう。

「み、ミカちゃんてさ!」

 慌てる私の首にキスをしながら、ミカちゃんが笑う。背中からぎゅうっとしっかり抱き締めて、あちこちキスをしながら笑ってる。

「結構下ネタ好きだよね! 親父ギャグみたいなやつ!」
「律子さんがかわいいからですよ」
「それ、答えになってないし!」
「律子さんは嫌なんですか?」
「うっ……」

 ちゅ、ちゅと音を立ててキスをしながら、ミカちゃんはやっぱり笑ってる。
 困ったことに嫌じゃない。嫌じゃないけど、いい大人が所構わず爛れた生活を送るのはどうなのかなと、つい、考えてしまうのだ。

「嫌じゃ、ないけどさ」
「なら、大丈夫ですよ」
「ミカちゃんの言う大丈夫って、本当に大丈夫なの……ん、あっ」

 今度はうなじを噛まれて、ぴくんと跳ねてしまう。
 律子さん、とミカちゃんが囁いて、片手が服の下に潜り込む。はあはあと息が荒くなって、「膝を緩めてください」と囁く声に、つい従ってしまう。
 だめだ、私は本当にちょろい。
 ミカちゃんはくすくす笑って楽しそうだ。

「何かと抵抗するポーズは取るくせに、律子さんも結構好きですよね」
「う……だって、ミカちゃんのせいじゃない」
「私のせいなんですか?」
「そうだよ。ミカちゃんが……その、すぐエロいことばっかりするから、なんか、慣らされちゃったっていうかさ」
「本当に?」
「あ、ん……っ」

 ミカちゃんの手がぐいっとブラをずらす。先っちょに触れる指先が絶妙な力加減なのは、さすがミカちゃんと言うべきか。抵抗できる気がしない。

「ん、ん……っ、も、ミカちゃん!」
「あっという間に固くなってしまいましたね」
「ひゃ!」

 耳にふっと息を吹きかけられて、また、ぞくんと背中を痺れが走る。身体を捩っても、お腹に回した腕にしっかりと押さえられてしまってる。
 ミカちゃんの律子包囲網が完璧すぎる。私の気分は、ほとんどネズミ捕りの檻に捕らわれたネズミだ。

 もう片手がゆっくりスカートをたくし上げて、つつつと太腿をなぞる。
 着替えがスカートばっかりだったのは、これが目的だったに違いない。ミカちゃんがものすごく楽しそうだ。

「そうは言っても、律子さんも、好きでしょう?」
「あっ!」

 つ、つ、と奥に滑らせた指先が、ずくずく疼く場所をそっと突く。それだけで膝はさらに緩んで、なけなしの防御なんて崩れ去ってしまうのだ。
 本当、私ってちょろい。
 これだけであっという間にぐだぐだになって、もう、やっちゃってもいいかな、なんて思い始めている。
 ミカちゃんの指先にじわじわと力がこもるようになって、私もついつい押し付けるように腰を揺らしちゃったりして、すぐそれに気付いたミカちゃんが、ますますうれしそうになって……いつものことだけど、こんなにちょろくて大丈夫なのだろうか、私は。

 くるりと前後をひっくり返されて、対面で抱き合う体勢に変えられた。ミカちゃんの目は予想通り真っ赤になっている。間髪入れずに唇を塞がれて、口の中を掻き回されて、私はますます悶えるばかりだ。
 スカートはすっかり捲り上げられて、手は下着の中まで入り込んでいる。もしかして、このままコトに及ぶつもりなんだろうか……と考えていたら、急に腰回りが楽になった。
 待って。このパンツ、横の紐って飾りじゃなかったの?
 するん、するんと両側の紐が解かれたパンツはあっさり床に落ちた。

 家事雑事の何もかもを……あんまり楽だからって、買い物なんかまでをミカちゃん頼りにするのは、考え直したほうがいいのかもしれない。

 チーッと、ミカちゃんがチャックを下ろす。片手で私の腰を抱いて、キスをしながら器用にベルトを緩めて前を開いて……もしかして、このまま着衣でするつもりなのか。ミカちゃんは、意外にAVみたいなことも好きだから侮れない。
 ぐいと引き寄せられて、ミカちゃんの熱が触れる。
 小さく漏れたミカちゃんの吐息は、たぶん私より色っぽい。
 律子さん、と息だけで囁かれて、私の喉がごくりと鳴る。心臓がばくばく大きく鼓動を打って、ぎゅっとしがみついてしまう。

「ん、んん……ミカちゃん……」
「このまま、いいですね?」

 蕩けた笑みを浮かべるミカちゃんに、私はつい、こくりと頷いた。
 いろいろと抵抗したところで、結局、私はミカちゃんが好きなのだ。ミカちゃんにねだられたら断れないのだ。

「は、あ……っ」

 持ち上げられて、ミカちゃんの上に下ろされて、ゆっくりと呑み込んでいく。広げられて擦られて、身体の奥にうずうずとむず痒いような焦燥感が湧き上がる。呼吸が苦しくて、足りなくて、もっともっとという焦りに押されてミカちゃんをぎゅうぎゅうに締め付けて……ミカちゃんが小さく声を漏らして、私の喉にキスをする。

「律子さん……ずいぶんと、感じているようですね」
「ん……だって……ミカちゃんが……」

 息を荒げて身体を擦り寄せる私を、ミカちゃんが抱き締める。腰を押し付けるようにして、中をぐりぐり抉りながら、律子さん、とまた私を呼ぶ。

「私が、なんですか?」
「ミカちゃんが、気持ちいい、から……」
「そんなに、気持ちいいですか?」
「ん……うん、すごく……あっ」

 ぐちゅ、と音がする。
 最初は恥ずかしくて恥ずかしくてしかたなかったはずなのに、最近ではその音のせいでよけいに興奮するようになってしまった。
 私は、いつの間にか、ミカちゃんにしっかりと教育されていたのか。
 それ、エロ小説みたいじゃないか。

「なんか……私……ああっ」
「どうしましたか?」
「私、ミカちゃんに……っ、は、あん」

 揺らされて、いつもよりも深く突かれて、身体がどんどん高まっていく。

「ミカちゃん色に、染められてる、みたい……」

 ミカちゃんがすごく楽しそうににんまりと笑う。いつになく、してやった感に溢れている笑みだ。
 やはりミカちゃんは、私をミカちゃん色に染めようと頑張っていたのか。
 ――気付いたところで、もう既に、今もこの先もミカちゃん相手じゃないと満足できない身体にさせられちゃってるんだろうな、としか思えない。

 まあいいか。

 私はもちろんすごくちょろいけど、たぶんミカちゃんもちょろい。律子甘やかし係は伊達じゃない。
 お互い喜んでるんだから、これはWIN=WINの関係なんだ。

「律子さんには、私がいればいいでしょう?」
「ふ……あっ……そ、かも、ね……あ、んっ」

 ゆっくり、けれど深く強く突かれて、私はすっかりぐだぐだだ。もうミカちゃんしか感じなくて、はあはあ喘ぎながらもっとをおねだりしてしまう。
 ミカちゃんは嬉しそうな笑顔のまま、甘く甘く「律子さんはかわいいですね」と囁いて、これでもかと私を攻め立てる。

「ね、ミカ、ちゃ、噛ん、で……ああっ」

 揺すられて突き上げられて、これ以上ないくらい感じてるのに、やっぱりあと一歩が足りない。
 ミカちゃんも、真っ赤な目で私を見つめている。
 頬擦りするように顔を寄せて、ぺろりと首筋を舐めて、それからソファの上に私を押し倒して……ガツガツと腰を叩きつけながら、「律子さん」と呼んだ。
 ミカちゃんの息も荒い。
 はあはあと忙しない呼吸で衝動のままにか、私の首に牙をあてがった。
 来る、という期待で、私はしっかりと脚を絡める。ミカちゃんの頭を抱き込み、押し付けて、早く、とねだる。
 牙を挿れられて、ああ、とひときわ高く声を上げて、真っ白になる。


 * * *


「ん」

 すっきり目が覚めると、部屋の中は暗かった。ブロロというエンジン音が聞こえて目をやると、ミカちゃんが窓辺に佇んで、じっと外を見ていた。

「ミカちゃん?」
「ああ、目が覚めましたか?」

 そっか、ふわふわ気持ちよくなって、あのまま寝ちゃったのか、と考えながら身体を起こす。
 いつの間にか、シーツにぐるぐる巻きでベッドに寝かされていた。身体もさっぱりしてたから、いつものようにミカちゃんに丸洗いされたんだろう。

「ん、今、何時?」
「もう、夜半を過ぎたところです」
「え、そんなに寝ちゃった?」

 いっきに目が覚めた私に、ミカちゃんが笑みを浮かべる。

「お腹は空いていませんか?」
「え? あ……空いてる」

 夕飯をすっ飛ばして寝こけていたのだ。もちろんお腹はぺこぺこで、小さく、ぐう、と鳴いている。

「では、夕食を取って来ましょう。律子さんは、念のため、あの護符を付けて待っていてください」
「護符? ああ、御守り」
「もう、到着している長老もいますから、念のため、ね」

 手渡されたポーチからあの御守りを出して首に掛けるのを確認して、ミカちゃんは部屋を出て行った。

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